182年の人生

山碕田鶴

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1940ー1974 秋山正二

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「こんな所に穴がある」

 そう呟いて、僕は胸の高さにある穴の中に顔を入れて覗いてみる。

「暗くてわからないけど外に繋がってる?」
「たぶん。それを調べたくてここに来ました。他にも何ヶ所か同じような穴がありましたよ。フィル様、少しの間ここで待っていてください。調べてきます」
「僕も行く」
「安全が確認できるまでダメです。一応この周辺に結界を張っておきます。異変があれば、すぐに俺を呼んでください」
「…わかったよ」

 僕は不満げに唇を突き出した。
 ラズールが困ったように息を吐いて手を伸ばしてくる。軽く僕の頬に触れてから穴に両手をかけ、軽々と登って穴の中へと入っていった。 
 どんどんと奥へと進むラズールに「気をつけてね」と声をかける。
 ラズールの姿が暗い穴の中に消え、ついには見えなくなってしまった。
 採掘場の中は静かだ。僕の息づかいと天井からボトリと落ちる水の音しか聞こえない。
 昨夜、ゼノ達をここに残して村長の家に戻ると、ラズールが村長に「今日明日は村人は採掘場に行かないように」と頼んでいた。実際は脅していたのだけど。
 村長の話だと、村人達が石を採掘する時には、歌を歌ったり大声で掛け声をかけたりして賑やかだそうだ。その賑やかな声が、今日は響かなかった。だから余計に静かに感じるのだろうか。
 そんなことを考えながら、ラズールが入った穴の下で、膝を抱えて座る。
 夜の穴の中はとても冷える。暗くてよく見えないけど吐く息はきっと真っ白だ。村長の家を出る時にはそんなに寒いと思わなかったから、ラズールが持つ荷物の中にストールを入れて、採掘場の外の茂みの中に置いてきてしまった。
 
「寒い…」

 指先も冷えて感覚が鈍くなっている。
 僕はフードを脱ぐと、茶色のカツラを取って結い上げていた銀髪を解いた。そして長い髪で首を覆って、もう一度フードをかぶる。

「長すぎるから切りたいと思ってたけど、役に立つもんだな」

 ブツブツと呟きながら、カツラを上着のポケットに突っ込む。動かないから余計に寒いのかと立ち上がったその時、誰かが採掘場の中に入ってきたような気がした。
 僕は足音を立てないように入口に向かおうとした。直後に後ろでタンと音がして「どこへ行くのですか」とラズールの声が聞こえた。
 僕は振り向きラズールに走り寄る。
 ラズールは、服についた汚れを叩いて落とし、僕を見た。

「どうだった?外に出れそう?」
「はい。少し狭いですが外と繋がってます。ところでどこへ行こうとしてたのですか?」
「入口に行こうかと…。誰かが入ってきた気がする」
「ああ。またバイロン国の騎士が来たのか?しかしまだ夜なのに…」
「でも…入ってきてると思う。…ほらっ、足音が聞こえない?」
「たしかに。二人…か。フィル様、とりあえずこの穴に隠れましょう」

 カツカツという足音がどんどんと近づいてくる。何か話してるようだけど、声がかすかにしか聞こえない。
 早く隠れなければと思っていると、近づいていた足音が遠ざかっていく。

「横穴の方へ行きましたね。さて、倒れているバイロン国の騎士を見つけてどうするか…」
「ラズール、様子を見に行こう」
「そうですね」

 僕はラズールの前に出て先に歩く。
 しかし横穴に入る時には、ラズールが前に出て僕を守るようにして進んだ。

 



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