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1940ー1974 秋山正二
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松川は期待通り事業を拡大していった。工場用の組み立てアームに始まり、ぬいぐるみを改造して動く玩具を作ったり、ロボットに関するものであれば何でも手を出した。
近未来の先端技術という明るいイメージも手伝って、「マツカワ電機」は名物社長松川の人柄とともに世に知られていった。
松川は、私が出会った当初からアンドロイドに関心を示していた。
人間に代わって重労働や危険な作業を行うだけでなく、不自由になった身体の替わりに衣服のように着せ替えられるロボットにも言及していた。
「戦争に負けたらしばらく不自由するのは仕方ないが、戦争で人が死ぬ必要はなかろう。戦うならせめてロボット同士でやってもらいたいよ。秋山君は知ってる? 君、無事に帰って来たけど、傷痍軍人は山ほどいて生活するだけでも大変なの。僕の親戚にも腕を失くしたのがいて、これ本人だけじゃなくってさ、周りの家族がね、やっぱり大変なのよ。身体の一部でも全部でもロボットにして自由に動かせたらずいぶんと楽だろうけれどねえ。あ、身体がロボットになっても、酒は飲めるよね?」
「きっとメチルも飲めるようになりますよ」
会長になった松川は、相変わらず私と飲み友達だった。飲めば必ず戦争とロボットの話になった。
「会長は、アンドロイドに特化した会社は作らないのですか?」
「将来への投資か? 一企業ではさすがに難しいだろう」
「いずれアンドロイドが家電になる日が来ます。今、医療系の企業が一社、設立に動いていますよ」
「医療系?」
「はい。目標は、不老不死です。人間の精神、心をアンドロイドに移殖して、永遠に生きるのです。海外では、実際に脳を機械に臓器移殖する計画もあります」
「ほう。ずいぶんと壮大な計画だな。医療系なら予算規模も違うだろう」
松川は不老不死には関心を示さなかった。
「半官半民で進むはずです。国は、アンドロイド事業の予算確保に来年度から動き始めます。こちらも準備しておいて損はないと思いますよ」
「人間は死ぬ」
松川はきっぱりと言った。
「会長の理想を通せばいいでしょう。今生きている人にすぐ役立つロボットですよ。HCDは、マツカワ電機の精神でしょう」
HCD。
Human Centered Design。
人間中心設計のことだ。人間の快適性、安全性などを重視した製品やサービスを基本とするものづくりをマツカワ電機は謳っている。
松川は上機嫌になった。
この男には、順風満帆が似合う。新たな事業の開拓者は、この男でなければできない。
私がロボットにこだわっているのは、やはり「學天則」を知った時の衝撃が理由であろう。純粋に、未来を覗いた気がした。そして、永遠を見てしまった。永遠の命を夢見てしまった。
夢物語であることは承知している。だが、私にとって死と死神は現実だ。二度の偶然かもしれないが、自分の魂がこの世で継続可能であることも知ってしまった。魂の器を望むことは間違っているだろうか。
私は、五十代になっていた。松川とともに前進を続け充実した日々を送る今、秋山として生きることを当然とさえ思っていた。
それなのに、あの視線だ。
この頃から、どこからともなくまたあの視線を感じるようになったのだ。遠くから、しかしはっきりと監視する気配に私は怯えた。
死神が、私を見ている。
近未来の先端技術という明るいイメージも手伝って、「マツカワ電機」は名物社長松川の人柄とともに世に知られていった。
松川は、私が出会った当初からアンドロイドに関心を示していた。
人間に代わって重労働や危険な作業を行うだけでなく、不自由になった身体の替わりに衣服のように着せ替えられるロボットにも言及していた。
「戦争に負けたらしばらく不自由するのは仕方ないが、戦争で人が死ぬ必要はなかろう。戦うならせめてロボット同士でやってもらいたいよ。秋山君は知ってる? 君、無事に帰って来たけど、傷痍軍人は山ほどいて生活するだけでも大変なの。僕の親戚にも腕を失くしたのがいて、これ本人だけじゃなくってさ、周りの家族がね、やっぱり大変なのよ。身体の一部でも全部でもロボットにして自由に動かせたらずいぶんと楽だろうけれどねえ。あ、身体がロボットになっても、酒は飲めるよね?」
「きっとメチルも飲めるようになりますよ」
会長になった松川は、相変わらず私と飲み友達だった。飲めば必ず戦争とロボットの話になった。
「会長は、アンドロイドに特化した会社は作らないのですか?」
「将来への投資か? 一企業ではさすがに難しいだろう」
「いずれアンドロイドが家電になる日が来ます。今、医療系の企業が一社、設立に動いていますよ」
「医療系?」
「はい。目標は、不老不死です。人間の精神、心をアンドロイドに移殖して、永遠に生きるのです。海外では、実際に脳を機械に臓器移殖する計画もあります」
「ほう。ずいぶんと壮大な計画だな。医療系なら予算規模も違うだろう」
松川は不老不死には関心を示さなかった。
「半官半民で進むはずです。国は、アンドロイド事業の予算確保に来年度から動き始めます。こちらも準備しておいて損はないと思いますよ」
「人間は死ぬ」
松川はきっぱりと言った。
「会長の理想を通せばいいでしょう。今生きている人にすぐ役立つロボットですよ。HCDは、マツカワ電機の精神でしょう」
HCD。
Human Centered Design。
人間中心設計のことだ。人間の快適性、安全性などを重視した製品やサービスを基本とするものづくりをマツカワ電機は謳っている。
松川は上機嫌になった。
この男には、順風満帆が似合う。新たな事業の開拓者は、この男でなければできない。
私がロボットにこだわっているのは、やはり「學天則」を知った時の衝撃が理由であろう。純粋に、未来を覗いた気がした。そして、永遠を見てしまった。永遠の命を夢見てしまった。
夢物語であることは承知している。だが、私にとって死と死神は現実だ。二度の偶然かもしれないが、自分の魂がこの世で継続可能であることも知ってしまった。魂の器を望むことは間違っているだろうか。
私は、五十代になっていた。松川とともに前進を続け充実した日々を送る今、秋山として生きることを当然とさえ思っていた。
それなのに、あの視線だ。
この頃から、どこからともなくまたあの視線を感じるようになったのだ。遠くから、しかしはっきりと監視する気配に私は怯えた。
死神が、私を見ている。
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