182年の人生

山碕田鶴

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1878ー1913 吉澤識

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「近寄るな」

 突然加藤の手で目を覆われた。

「貴様には自尊心も面子めんつもないか。見下されようが憐れみをかけられようが、それすら逆手にとって利用して人の心に入り込む。近づくとロクなことがない。宮田もそうして虜にしたか?」

 いつもの嫌味な口調ではない。侮蔑も嘲笑もなく、ただ寂しそうに言った。

「宮田は山本との接触に成功した。仲間として受け入れられ、信頼され、共に行動しながら山本と繋がりのある活動家についても把握していった。任務は順調だった。だが、山本は慎重な男だ。宮田が貴様から大陸の情報を得ていたことを当然把握している。大陸自立を支持する宮田は自分の仲間として取り込んだが、この先も第二部が山本を追って来るのは必至だ。現地に詳しい協力者の貴様は邪魔だ。そう考えた。宮田もそれは想定していたが、軍人としての山本を信じた」
「信じる?」
「山本には軍人としての矜持があった。協力者とはいえ民間人の貴様に手を出すはずはない。宮田はそう信じた。第二部は、協力者に一切任務を教えない。必要とすることを一方的に協力させるだけだ。だから、命が惜しければこの先いっさい関わるなと脅せば済む話だ。これまで山本は実際にそうしてきた。協力者を見つけては、第二部から切り離していた。宮田はそれで油断した」
「私は、違ったと」
「宮田と山本の死は、偶発的なものだった。誰も予想しなかった。たぶん、二人もそうだろう……貴様を消そうという話で揉めた時、先に手を出したのは宮田だ」
「宮田が?  それでは山本と関係を断つことになってしまうだろう? 任務を放棄するに等しい行為ではないか」
「宮田が貴様に情を移さなければ、貴様のことなど捨て置いて任務を全うできた。軽率な行動をとるはずもなかった」

 冷たく言う加藤は、だが、私を責めてはいなかった。今さら意味のない仮定だ。そうつけ加えてかしらを横に振った。

「山本はすっかり宮田を信用していた。自分の側についた宮田なら、第二部の協力者を消すことに同意すると思ったのだろう。宮田に相談などせず、さっさと行動に移せば良かったのだ。どうせ失敗する。俺が貴様の護衛である限り、誰も貴様を消すことなどできやしない」

ーー山本は、宮田の協力者を消そうとした。それが口論の原因だ。
ーー山本は、協力者とはいえ民間人には手を出さない。

「軍人の矜持とやらは、幻だったのか?」
「違う!」

 加藤は間髪入れずに否定した。

「山本は、貴様を洗ったんだよ。軍歴も、それ以前の学校の在籍記録さえ全て抹消されているはずの貴様の過去を探った。そうして、貴様が民間人などではなかったと突きとめた。自分たちと同じ第二部の軍人だとな!」
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