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1878ー1913 吉澤識
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宮田はいかにも堅物で近寄りがたい雰囲気があるが、無骨な見た目に反して誰に対しても丁寧で紳士的であり、軍人らしからぬ腰の低さで行く先々の本国人には評判が良かった。
公使館へ申請書類の確認に行った際、宮田が大陸在住の本国人の様子について訊きたいと言うので近場の店で話すことにしたが、ふらりと入った現地人の食堂でも給仕にずいぶんと丁寧だ。むしろ給仕の方が横柄なくらいである。
「宮田さん、ここは大陸ですよ。そういう態度は本国では称賛されるでしょうが、ここでは冷笑されるのです。申し上げにくいが、偉そうに見える人間が偉いのです。尊敬されるのも、同じです」
「上から見下すようでは、欧米列強と同じではないですか。我々は同じアジア人として、互いに尊重しなければならない。だいたい、この国は列強に支配されたままで、真の独立を果たしていません。我々は隣国として自立を助けて共に成長していくべきです。共存共栄ですよ」
宮田はきっぱりと言った。迷いもなく純粋な言葉に、私は戸惑いを隠せなかった。
本気で言っているのか?
我が国は、列強に代わりこの国を支配しようと動いている。お前だって知っているだろう。
だが、国や軍が現在何をしているか知るはずもない一民間人の私がそれを口にしてはならない。
「貴方の理想は尊いが、本当に共存共栄ができるとお考えですか? 小さな島国に生まれた我々とどこまでも続く大陸に生きる人々とでは、考え方も時間の流れ方も違うのですよ。習慣が違う人間どうしの協同は、よほど違いを知らねば難しい。我々は、違うことさえ知らないでいるのです。現実は目の前にあります。まずは見て下さい。貴方がこれから行かれる上海なら、四馬路に寄ると良いでしょう。きっと価値観の違いを思い知る。南京の洋務局へもお立ち寄りなら、ぜひ現地で観光を。鷹揚な空気を感じて下さい。きっと貴方のためになる。彼を知り己を知る、ですよ」
「自分は、理想に走り過ぎていますか?」
「私には、そう見えます。特に今は、大陸中で外国人に対する反感が広がっています。我が国もだいぶ嫌われてしまっていますよ」
「確かに、理想を求めるには現実をもっとよく知らないといけませんね」
宮田は、何に屈することもなさそうな笑顔でうなずいた。
公使館へ申請書類の確認に行った際、宮田が大陸在住の本国人の様子について訊きたいと言うので近場の店で話すことにしたが、ふらりと入った現地人の食堂でも給仕にずいぶんと丁寧だ。むしろ給仕の方が横柄なくらいである。
「宮田さん、ここは大陸ですよ。そういう態度は本国では称賛されるでしょうが、ここでは冷笑されるのです。申し上げにくいが、偉そうに見える人間が偉いのです。尊敬されるのも、同じです」
「上から見下すようでは、欧米列強と同じではないですか。我々は同じアジア人として、互いに尊重しなければならない。だいたい、この国は列強に支配されたままで、真の独立を果たしていません。我々は隣国として自立を助けて共に成長していくべきです。共存共栄ですよ」
宮田はきっぱりと言った。迷いもなく純粋な言葉に、私は戸惑いを隠せなかった。
本気で言っているのか?
我が国は、列強に代わりこの国を支配しようと動いている。お前だって知っているだろう。
だが、国や軍が現在何をしているか知るはずもない一民間人の私がそれを口にしてはならない。
「貴方の理想は尊いが、本当に共存共栄ができるとお考えですか? 小さな島国に生まれた我々とどこまでも続く大陸に生きる人々とでは、考え方も時間の流れ方も違うのですよ。習慣が違う人間どうしの協同は、よほど違いを知らねば難しい。我々は、違うことさえ知らないでいるのです。現実は目の前にあります。まずは見て下さい。貴方がこれから行かれる上海なら、四馬路に寄ると良いでしょう。きっと価値観の違いを思い知る。南京の洋務局へもお立ち寄りなら、ぜひ現地で観光を。鷹揚な空気を感じて下さい。きっと貴方のためになる。彼を知り己を知る、ですよ」
「自分は、理想に走り過ぎていますか?」
「私には、そう見えます。特に今は、大陸中で外国人に対する反感が広がっています。我が国もだいぶ嫌われてしまっていますよ」
「確かに、理想を求めるには現実をもっとよく知らないといけませんね」
宮田は、何に屈することもなさそうな笑顔でうなずいた。
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