宇宙人は恋をする!

山碕田鶴

文字の大きさ
上 下
91 / 106
6章 幼年期のオワリ

91.オワリ(37/43)

しおりを挟む
「あの、でもなんで僕がここにいるってわかったんですか?」

 藤井君が不思議そうにたずねてきた。察しの良い藤井君でも、そこはナゾらしい。
 パパは当然だという顔をしている。

「先月号の『月刊ウー』。あのUFO特集記事はよかったよね。『万貫まんがんの森』の目撃情報もしっかり更新されていて、さすが日本がほこるスーパーミステリー雑誌だね。だから、出かけるなら絶対ここでしょう。ちがうかい?」

 藤井君の顔がぱあっと明るくなるのを見て、パパはうれしそうにうなずいた。
 銀太郎は何も言わず無表情で二人を見ていた。それから目の前にぶら下がっているUFOに視線を移して、ほんの少しだけ笑顔になって、私が見ているのに気づくとまた無表情になった。
 あ、照れかくしだ。
 銀太郎だって藤井君のことを心配していたんだよね? 素直じゃないなあ、もう。
 あれっ?
 背中を向けられてしまった。
 みんなで一緒に展示を見て回っている間、藤井君は本当に楽しそうだった。かなり怖い宇宙人模型に囲まれながら、場ちがいなほどキラキラしていた。
 展示内容にも詳しくて、パパとずっと話し続けている。

「フジークン本当にくわしいですでし。あ、です。なのでし。あれ……でしまし?」

 銀太郎は藤井君の前では意識的に標準語をがんばっているけれど、どうも難しいみたいだ。藤井君の家に行った時も、帰りにぐったりしていたっけ。

「銀太郎、大丈夫だよ。銀太郎は帰国子女設定だから、語尾があやふやなくらい全然気にならないよ」
「そうでしか?」

 こそこそと話す私たちを見た藤井君は、うれしそうに近づいてきた。

「川上さん、会いに来てくれてありがとう。迎えに来てくれてありがとう」

 わああ、また王子様のほほえみ……。
 私がぽおっとなっている間に、藤井君はパパのところに戻ってまた難しい話を始めた。

「ケイちゃんを連れてきてくれてありがとうの意味でしね」

 銀太郎がボソッとつぶやく。

「もうっ! 言われなくてもわかってるよ」
「そうでしか」
「もうっ!! いいのっ! 藤井君が楽しいなら、それでいいの!」

 本当にそれでいいんだってば。私を見てとか、そういうのじゃないんだから誤解しないでよねっ。
 私をからかう銀太郎に背を向けると、銀太郎は真面目な声で言った。

「来てよかったでしね」
「……うん」

 銀太郎は藤井君を見ながら、また少しだけ笑顔になった。
 来てよかった。
 銀太郎にそう言ってもらえてよかった。
 ほっとしたのかうれしかったのか、なぜだか胸の奥がチクっとして、涙が出そうになった。
 気持ちがゆらゆらする。
 どこか、苦しい。

「あれ、葵ちゃん? 大丈夫? 疲れた?」

 パパが飛んで来て顔をのぞいた。

「もうっ!」

 変なところだけ気づかないでよ! ほんとデリカシーないんだからっ。

「ケイちゃん。アオイ様は今、牛なのでし。近寄るのキケンなのでし」
「う? し?」

 銀太郎がパパと藤井君を奥の展示に引き連れて行く。
 銀太郎も! 
 察しが良くて、気づかいができて、でも、気づき過ぎでしょう⁉︎ 少しくらいは見ないフリをしてよっ。
 だいたい、牛ってなんなのよもうっ!
 あっ……牛。



 閉館時間になって外へ出ると、空はまだずいぶんと明るかった。
 UFO観測に備えて、一度街の方まで戻って早目の晩ご飯にすることにした。

「あの、ちょっと待っていてもらっていいですか?」

 駐車場に着いたところで藤井君が立ち止まった。
 家に電話をして、帰りが遅くなることを伝えるという。

「そうだね。その方がいいね。あ、なんかしかられちゃったら葵も謝るから」
「へっ、私⁉︎」
「大丈夫です。怒られなきゃいけないのは僕だけですから」

 先に車に入って、藤井君の後ろ姿を見守った。

「彼、大丈夫そうだね」
「そうでしね」

 パパと銀太郎はそれだけ言った。
 大丈夫。
 二人が言うなら、大丈夫。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

鬼にかすみ草

梅酒ソーダ
児童書・童話
鬼鳴山に住む鬼の夜丸(よまる)は、人間達を襲って食う鬼の風習に疑問を持ちながら過ごしていたが、遂に集落を追放されてしまう。途方に暮れながらもお気に入りの場所であるかすみ草畑で寝転び、人と鬼が共存して生きる世界を夢見ていると、一人の少女に出会い……。

かめさいじき

山碕田鶴
絵本
カメたちの のんびりゆる~い歳時記です。 四季折々の風景を主題にした絵本です。 不定期更新。

イチの道楽

山碕田鶴
児童書・童話
山の奥深くに住む若者イチ。「この世を知りたい」という道楽的好奇心が、人と繋がり世界を広げていく、わらしべ長者的なお話です。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

スペクターズ・ガーデンにようこそ

一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。 そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。 しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。 なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。 改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。

処理中です...