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6章 幼年期のオワリ
79.オワリ(25/43)
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もうやだ。私、銀太郎にふり回されている。
恥ずかし過ぎて顔が上げられない。
藤井君とお話がしてみたい。
あんな、思いつきみたいな望みを勢いで星空に願ったら、銀太郎に当たっちゃったの?
地球の空なんてどれだけ広いのよ?
UFOだったら二十四時間いつでも飛び回れるよね? しかも、きっと超高速で。
それなのに、点にもならないくらい小さな私と出会っちゃったの?
偶然?
キセキだ。
私たちはすれちがわなかった。
それは、本当にキセキだ。
「……ケイチャン、ポレポーレ。ハタリ! タファザリ、エンデーシャクワウサラーマ!」
「ハハハ。ジェ、ウナオゴーパ?」
ん? 二人で話しているみたいだけれど……英語じゃないよね?
ああ、銀太郎の地球での母語なのかな。
何を話しているのだろう。
やわらかくてふわふわしていて……音の波にゆられているみたいで……気持ちいい……
……ちゃん。葵ちゃん。
「葵ちゃん、着いたよ?」
えっ!
「あ、寝ちゃっていた?」
パパに起こされて車から降りると、一面にもわっと草の匂いがした。動物園みたいな匂いも混じっている。
「『万貫の森』はまだ先だけど、休憩とご飯にしよう。ここは観光牧場だから銀太郎もアイスが食べられるよ」
「銀太郎は?」
姿が見えない。
「用事ができたと言って先に車を降りたよ? ほら、あそこ」
夏休みの時期で家族連れの客が多く、牧場はかなりにぎわっていた。
少し先にヤギのコーナーがあるらしく、柵の周りは観光客とヤギたちで特に混み合っている。
銀太郎はその中にいた。
「うわー、目立つ。なんだか周りの人たち、みんな銀太郎をチラチラ見ている」
遠目にもはっきりとわかるイケメン。ヤギ以上に注目を集めている。
「ははは。でも、あの姿を望んだのは葵ちゃんでしょう? 銀太郎だってまんざらでもないみたいだしね」
用事ってなんだろう?
柵の前で手を伸ばしてヤギとたわむれるイケメン銀太郎は、見ているだけで癒される。周りの人たちもぽおっとなっている。
あれ、ヤギに手を噛まれていない? いやいや、食べられているけど……。
「ちょっと銀太郎! 危ないってば、離れようよ!」
私が走り寄ったせいか、先にヤギたちが柵から離れた。
「うわ、手に歯型みたいなの残ってる。大丈夫なの?」
「アオイ様の奇襲攻撃ニテ敵部隊撤退セリでしね」
「もうっ、ヤギと戦ってどうするのよ?」
「ヤギ、上の前歯ないでしから。このくらいは大丈夫でし」
「そうなの? 銀太郎はヤギが好きなの?」
「うーん……おいしかった記憶ありまし。ワタシ育った村にヤギいっぱいいますた。ここのとちがって黒とか茶色で、もう少し小さい。たまーに食べまし」
「……なつかしかったんだ」
「ハイでし。でも、おいしいか思って見ていたから、牧場のヤギ怒りましね」
銀太郎は歯型のついた手を見ながらうれしそうに笑った。
用事って、こうしてヤギにさわって昔を思い出すことだったのかな。
「銀太郎は仕事がお休みの時にあちこち旅行できるのだから、ふるさとに帰ったりしないの?」
「ふるさと……」
「うん。自分が生まれ育ったところ。銀太郎の場合はフェザとして生活していたところ」
相変わらず目は見られないけれど、銀太郎のさびしそうな雰囲気が伝わってきた。
あれ? 夢で見せてもらった村は、開発とかでなくなっちゃったの? 自分のふるさとだって紹介してくれたよね?
「ワタシ、村に行くことないでしよ。村はまだあるけど、ワタシが知る地球人まだいっぱいいると思うけど、ワタシを知る地球人いない。たとえフェザの姿で行っても、誰もフェザ知らない」
「……それって、村の人たちはフェザを覚えていないということ?」
「そうでし。ワタシ、最初からいなかったのと同じ。……ワタシが、自分でみんなの記憶消したから」
記憶……消した? みんなの思い出を消したの?
自分自身を……消したの⁉︎
恥ずかし過ぎて顔が上げられない。
藤井君とお話がしてみたい。
あんな、思いつきみたいな望みを勢いで星空に願ったら、銀太郎に当たっちゃったの?
地球の空なんてどれだけ広いのよ?
UFOだったら二十四時間いつでも飛び回れるよね? しかも、きっと超高速で。
それなのに、点にもならないくらい小さな私と出会っちゃったの?
偶然?
キセキだ。
私たちはすれちがわなかった。
それは、本当にキセキだ。
「……ケイチャン、ポレポーレ。ハタリ! タファザリ、エンデーシャクワウサラーマ!」
「ハハハ。ジェ、ウナオゴーパ?」
ん? 二人で話しているみたいだけれど……英語じゃないよね?
ああ、銀太郎の地球での母語なのかな。
何を話しているのだろう。
やわらかくてふわふわしていて……音の波にゆられているみたいで……気持ちいい……
……ちゃん。葵ちゃん。
「葵ちゃん、着いたよ?」
えっ!
「あ、寝ちゃっていた?」
パパに起こされて車から降りると、一面にもわっと草の匂いがした。動物園みたいな匂いも混じっている。
「『万貫の森』はまだ先だけど、休憩とご飯にしよう。ここは観光牧場だから銀太郎もアイスが食べられるよ」
「銀太郎は?」
姿が見えない。
「用事ができたと言って先に車を降りたよ? ほら、あそこ」
夏休みの時期で家族連れの客が多く、牧場はかなりにぎわっていた。
少し先にヤギのコーナーがあるらしく、柵の周りは観光客とヤギたちで特に混み合っている。
銀太郎はその中にいた。
「うわー、目立つ。なんだか周りの人たち、みんな銀太郎をチラチラ見ている」
遠目にもはっきりとわかるイケメン。ヤギ以上に注目を集めている。
「ははは。でも、あの姿を望んだのは葵ちゃんでしょう? 銀太郎だってまんざらでもないみたいだしね」
用事ってなんだろう?
柵の前で手を伸ばしてヤギとたわむれるイケメン銀太郎は、見ているだけで癒される。周りの人たちもぽおっとなっている。
あれ、ヤギに手を噛まれていない? いやいや、食べられているけど……。
「ちょっと銀太郎! 危ないってば、離れようよ!」
私が走り寄ったせいか、先にヤギたちが柵から離れた。
「うわ、手に歯型みたいなの残ってる。大丈夫なの?」
「アオイ様の奇襲攻撃ニテ敵部隊撤退セリでしね」
「もうっ、ヤギと戦ってどうするのよ?」
「ヤギ、上の前歯ないでしから。このくらいは大丈夫でし」
「そうなの? 銀太郎はヤギが好きなの?」
「うーん……おいしかった記憶ありまし。ワタシ育った村にヤギいっぱいいますた。ここのとちがって黒とか茶色で、もう少し小さい。たまーに食べまし」
「……なつかしかったんだ」
「ハイでし。でも、おいしいか思って見ていたから、牧場のヤギ怒りましね」
銀太郎は歯型のついた手を見ながらうれしそうに笑った。
用事って、こうしてヤギにさわって昔を思い出すことだったのかな。
「銀太郎は仕事がお休みの時にあちこち旅行できるのだから、ふるさとに帰ったりしないの?」
「ふるさと……」
「うん。自分が生まれ育ったところ。銀太郎の場合はフェザとして生活していたところ」
相変わらず目は見られないけれど、銀太郎のさびしそうな雰囲気が伝わってきた。
あれ? 夢で見せてもらった村は、開発とかでなくなっちゃったの? 自分のふるさとだって紹介してくれたよね?
「ワタシ、村に行くことないでしよ。村はまだあるけど、ワタシが知る地球人まだいっぱいいると思うけど、ワタシを知る地球人いない。たとえフェザの姿で行っても、誰もフェザ知らない」
「……それって、村の人たちはフェザを覚えていないということ?」
「そうでし。ワタシ、最初からいなかったのと同じ。……ワタシが、自分でみんなの記憶消したから」
記憶……消した? みんなの思い出を消したの?
自分自身を……消したの⁉︎
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