宇宙人は恋をする!

山碕田鶴

文字の大きさ
上 下
79 / 106
6章 幼年期のオワリ

79.オワリ(25/43)

しおりを挟む
 もうやだ。私、銀太郎にふり回されている。
 恥ずかし過ぎて顔が上げられない。

 藤井君とお話がしてみたい。

 あんな、思いつきみたいな望みを勢いで星空に願ったら、銀太郎に当たっちゃったの?
 地球の空なんてどれだけ広いのよ?
 UFOだったら二十四時間いつでも飛び回れるよね? しかも、きっと超高速で。
 それなのに、点にもならないくらい小さな私と出会っちゃったの?
 偶然?
 キセキだ。
 私たちはすれちがわなかった。
 それは、本当にキセキだ。

「……ケイチャン、ポレポーレ。ハタリ! タファザリ、エンデーシャクワウサラーマ!」
「ハハハ。ジェ、ウナオゴーパ?」

 ん? 二人で話しているみたいだけれど……英語じゃないよね?
 ああ、銀太郎の地球での母語なのかな。
 何を話しているのだろう。
 やわらかくてふわふわしていて……音の波にゆられているみたいで……気持ちいい……



 ……ちゃん。葵ちゃん。

「葵ちゃん、着いたよ?」

 えっ!

「あ、寝ちゃっていた?」

 パパに起こされて車から降りると、一面にもわっと草の匂いがした。動物園みたいな匂いも混じっている。

「『万貫まんがんの森』はまだ先だけど、休憩とご飯にしよう。ここは観光牧場だから銀太郎もアイスが食べられるよ」
「銀太郎は?」

 姿が見えない。

「用事ができたと言って先に車を降りたよ? ほら、あそこ」

 夏休みの時期で家族連れの客が多く、牧場はかなりにぎわっていた。
 少し先にヤギのコーナーがあるらしく、柵の周りは観光客とヤギたちで特に混み合っている。
 銀太郎はその中にいた。

「うわー、目立つ。なんだか周りの人たち、みんな銀太郎をチラチラ見ている」

 遠目にもはっきりとわかるイケメン。ヤギ以上に注目を集めている。

「ははは。でも、あの姿を望んだのは葵ちゃんでしょう? 銀太郎だってまんざらでもないみたいだしね」

 用事ってなんだろう?
 柵の前で手を伸ばしてヤギとたわむれるイケメン銀太郎は、見ているだけでいやされる。周りの人たちもぽおっとなっている。
 あれ、ヤギに手をまれていない? いやいや、食べられているけど……。

「ちょっと銀太郎! 危ないってば、離れようよ!」

 私が走り寄ったせいか、先にヤギたちが柵から離れた。

「うわ、手に歯型みたいなの残ってる。大丈夫なの?」
「アオイ様の奇襲攻撃きしゅうこうげきニテ敵部隊撤退てったいセリでしね」
「もうっ、ヤギと戦ってどうするのよ?」
「ヤギ、上の前歯ないでしから。このくらいは大丈夫でし」
「そうなの? 銀太郎はヤギが好きなの?」
「うーん……おいしかった記憶ありまし。ワタシ育った村にヤギいっぱいいますた。ここのとちがって黒とか茶色で、もう少し小さい。たまーに食べまし」
「……なつかしかったんだ」
「ハイでし。でも、おいしいか思って見ていたから、牧場のヤギ怒りましね」

 銀太郎は歯型のついた手を見ながらうれしそうに笑った。
 用事って、こうしてヤギにさわって昔を思い出すことだったのかな。

「銀太郎は仕事がお休みの時にあちこち旅行できるのだから、ふるさとに帰ったりしないの?」
「ふるさと……」
「うん。自分が生まれ育ったところ。銀太郎の場合はフェザとして生活していたところ」

 相変わらず目は見られないけれど、銀太郎のさびしそうな雰囲気が伝わってきた。
 あれ? 夢で見せてもらった村は、開発とかでなくなっちゃったの? 自分のふるさとだって紹介してくれたよね?

「ワタシ、村に行くことないでしよ。村はまだあるけど、ワタシが知る地球人まだいっぱいいると思うけど、ワタシを知る地球人いない。たとえフェザの姿で行っても、誰もフェザ知らない」
「……それって、村の人たちはフェザを覚えていないということ?」
「そうでし。ワタシ、最初からいなかったのと同じ。……ワタシが、自分でみんなの記憶消したから」

 記憶……消した? みんなの思い出を消したの?
 自分自身を……消したの⁉︎
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちきゅうのおみやげ(α版)

山碕田鶴
絵本
宇宙人の たこ1号 が地球観光から戻ってきました。おみやげは何かな? 「まちがいさがし」をしながらお話が進む絵本です。フルカラー版と白黒版があります。フルカラー、白黒共に絵柄は同じです。 カラーユニバーサルデザイン推奨色使用。  ※絵本レイアウト+加筆修正した改稿版が「絵本ひろば」にあります。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

カメとカッパ

山碕田鶴
絵本
カメ・ミーツ・カッパ。 (カメのお話・その2 )

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

処理中です...