宇宙人は恋をする!

山碕田鶴

文字の大きさ
上 下
67 / 106
6章 幼年期のオワリ

67.オワリ(13/43)

しおりを挟む
 夏休みが始まって、朝から部屋にこもっている。
 勉強机に積んだ宿題の山から適当につかんで課題を広げながら、考えるのは銀太郎のことばかりだ。
 銀太郎が帰ってしまうのはいつだろう?
 パパに連絡が来るの? 銀太郎がテレパシーで直接交信するの?
 お別れパーティーなんて……しないよね。でも、いきなり消えたりしないよね。
 荒井さんが家に来た日に見た、銀色ではない銀太郎の姿を思い出す。
 ぼんやりとしてよくわからなかったけれど、あれは地球人だったフェザともちがう。
 きっと本当の銀太郎……だよね?

「ただいまあ」

 玄関から声が聞こえた。パパと銀太郎だ。
 今日は朝から警察に行っていた。押収された荷物を引き取るからと言ってパパの車で出かけたから、ついでにドライブも楽しんできたのかな。
 なんだか楽しそうな笑い声がする。
 なんだかイライラする。
 あ、お母さんの声も聞こえる。
 私が部屋で宿題をやっているからジャマしないよう話してくれている。
 今は銀太郎に会いたくないな。これって意識し過ぎなのかな。
 同じ家にいるからご飯の時はどうしても顔を合わせるし、一日に何度もふわっとした気配を感じてしまう。
 そのたびに、あ、銀太郎だって思ってしまう。
 もちろんパパもお母さんもいて、二人きりで気まずくなることはないのだけれど。

「銀太郎、好き」

 一度声に出したら、そんな気がしてしまった。

 洗脳。洗脳。洗脳。
 催眠。催眠。催眠。

 銀太郎のせいだ。私、絶対に操られている。
 あの後から目を合わせられなくなった。
 ぎこちない。
 自分の意思とは関係なく、目が見られない。
 見ようとしても目が合わないってどういうこと?
 やっぱり「銀太郎が好きになある」っていう催眠術のせい?
 ……でも、なんで銀太郎を避ける行動になるのかな。
 私、変だ。
 銀太郎のことで急に心臓が痛くなったり息が苦しくなったりすることは前からあったけれど、それは急に近づかれてびっくりしたからで、ただそれだけで。
 外国人、というか宇宙人はすぐハグしてきたりしてホント困る。あの宇宙人は特になれなれしいんだよね。
 他の人にもああいうことを平気でするのかな。私には構わないけれど、フツウいやがられるからハグとかやめた方がいいよ、銀太郎。
 今考えると、学校帰りにお迎えに来てくれた銀太郎を見てドキドキしたのだって絶対に暑さのせいだから。
 うーん……銀太郎のことを考えるとイライラする。



「ケイちゃんの荷物で車ぎゅうぎゅうなりますた。のんびり景色見る余裕なかったでしね」
「あら、残念ねえ。せっかくのお出かけだったのにパパのお手伝いで終わっちゃったのね。でも、銀太郎君が荷物を運んでくれて本当に助かったわ。すぐに片づいたものね」
「あれ? だから今日は銀太郎のアイスが豪華だったのか。プレミアム特濃なんとかっていう」
「オカーサン様ありがとうございまし」

 食後の家族団らんのひと時にテーブルを囲むのは四人だ。
 すっかり、当たり前のように銀太郎はなじんでいる。まあ、家にいきなり現れてすぐからそうだった気はするけれど。

「あれ? 葵ちゃん、元気ないの?」
「別に……」

 そういうの、指摘されたくない。
 銀太郎はチラリとこちらを見ただけで何も言わない。
 いつもならパパの話に乗ってきたりおバカな発言を追加したりするのに、なんでしないの?

「宿題たくさんあるから、部屋に戻るね」
「うん。葵ちゃん大変なんだねえ」

 銀太郎は後から追いかけてきて話すこともしない。
 別に期待していないし。
 お母さんだって、私に話しかけてこなかった。部屋に戻るのを黙って見送った。
 同じでしょう。
 銀太郎に無視された感じはしない。でも、素っ気ない。
 ……なんで?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちきゅうのおみやげ(α版)

山碕田鶴
絵本
宇宙人の たこ1号 が地球観光から戻ってきました。おみやげは何かな? 「まちがいさがし」をしながらお話が進む絵本です。フルカラー版と白黒版があります。フルカラー、白黒共に絵柄は同じです。 カラーユニバーサルデザイン推奨色使用。  ※絵本レイアウト+加筆修正した改稿版が「絵本ひろば」にあります。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

カメとカッパ

山碕田鶴
絵本
カメ・ミーツ・カッパ。 (カメのお話・その2 )

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

トゲトゲ(α版)

山碕田鶴
絵本
トゲトゲ したものを挙げてみました。  ※絵本レイアウトにした改稿版が「絵本ひろば」にあります。

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

カメをひろう

山碕田鶴
絵本
カメを拾いました。カメと生活してみました。

処理中です...