宇宙人は恋をする!

山碕田鶴

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6章 幼年期のオワリ

66.オワリ(12/43)

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「アオイ様」

 自分の部屋に入るところで呼ばれてふり向くと、すぐ後ろに銀太郎が立っていた。
 光っていない。もとどおり蓮君の姿だ。
 あれ? 目が合わせられない。
 意識しているつもりはないのに。磁石のNとNを近づけてツルンとそれるみたいに、勝手に視線が他を向く。

「……な、に?」

 うつむいたまま返事をした。

「質問お答え、途中でしたし。アライサン、心読まれるの恐れてマゴに会わない言いましね。あれ、まちがい。目覚め始めの子にそこまでの能力ないでしよ。地球人アバター、強力に宇宙人の力封じていまし。テレパシー強くなっても、相手の気持ち感じ取れる程度だけなのでし。好き、きらい、うれしい、悲しいくらいならわかりまし」
「……テレパシーをちゃんと使えるようになったら、さっきの銀太郎みたいに心の中で会話ができるっていうこと?」
「それがふつうでし。相手に向けて話しかけるように念じれば届きまし。相手の心の中の独り言も聞こうと思えば聞けまし。でも、それはワタシしない約束」
「そう……」
「だから、マゴのこと放っておけばいいのでし。会いたければ会えばいいでし。心読まれて宇宙人知られた言うなら、その子は既に目覚めていたのでし」
「それ、荒井さんに教えてあげればよかったのに」
「なぜ? 教える義務ないでし。ワレワレ地球人にできるだけ干渉しない」

 そうだ。銀太郎は、困っている荒井さんを助けるために会ったわけではないんだ。宇宙人の子が無事に適性検査を続けられるよう、地球人愛護協会に協力しただけだ。

「でも……銀太郎は地球人が好きなのでしょう?」

 ふう、とため息が聞こえた。銀太郎はきっとあきれている。顔が見られないし、見るのも怖い。

「アオイ様、例えばネコ好き言う人が、捨てネコみんな拾ってきて育ててあげましか? 歩いているネコ全部にごはんあげましか? 保護ネコ団体に募金するのもネコ好きでし。やり方それぞれ。他人に口出されることではないのでし」
「……あの……ごめんなさい」

 ふう。またため息だ。
 どうしよう。私、きらわれちゃった?
 対等ではない宇宙人に、なれなれしくし過ぎちゃったの?
 銀太郎の顔を見て、ちゃんと目を見て謝ろうと思うのに、それができない。
 なんで? 
 なんで銀太郎から目をそらしちゃうの?
 あせる私の両手を取った銀太郎は、そっと包むように手を重ねてきた。

「謝らないで、アオイ様。ワタシ説明不足でしね。アオイ様は優しい。これ、ただのヤキモチでし」
「ヤキモチ?」
「アオイ様、アライサンのマゴを心配してあげまし。ワタシの心配しないでし」

 ワタシの心配? いや、でもそれは……どこに心配する要素が?
 銀太郎は私の耳元に顔を寄せてささやいた。

「どうか忘れないで。アオイ様はワタシの特別。アオイ様だけはワタシに何を言っても許される、例外の地球人。どんなふうに見られても、どんなことがあっても、ワタシいつでもアオイ様が最優先。ナクペンダサーナ」

 え?
 重ねた手が離れる。
 銀太郎はそのままリビングをはさんで向かいにあるパパの部屋に戻っていった。
 今の、なに?
 最後の言葉、なに?
 ひょっとしてお別れのあいさつなの?
 銀太郎……。
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