宇宙人は恋をする！

6章 幼年期のオワリ

63．オワリ（9/43)

「川上さん、今日はありがとうございました。話を聞いてもらえただけでもずいぶんと心が軽くなりました。娘が神経質だから私も不安になってしまって……」

　荒井さんは全然すっきりしない顔で笑った。
　はははと気の抜けた声を出すと、またうつむいてため息をつく。

「あの……」

　声をかけようとしたパパを銀太郎がわずかに手を上げて止めた。

　あなたが心配する必要はない。

　突然、銀太郎の声が頭の中で響いた。
　パパも荒井さんも、はっとして銀太郎を見ている。
　銀太郎がテレパシーでみんなに話しかけているんだ……。

（あなたは何も問題ない。あなたのマゴは自分で目覚めねばならない。自ら目覚めなければ、ワレワレの元に帰ることはできない。困難な仕事だが、あなたは今までどおり見守るだけでよい）

　無表情のまま感情もなく伝える銀太郎は、地球人を支配する強い宇宙人そのものだった。
　ちょっと怖いな。
　荒井さんはたたみに頭をつけてひれ伏した。

「このような温かいお言葉をいただけるとは！　ありがとうございます。安心いたしました。私はこれからも精一杯がんばります。必ずやりとげてみせますから、どうか見守っていて下さい」

　どう見てもたたみに向かって話しているし、宇宙人から直接声をかけられて感動しているのか、声がふるえている。
　えー……そこまで？
　ひれ伏す相手が銀太郎だから変な感じがするのかな。
　んんん？　ん⁉︎
　ふとひらめいた。
　銀太郎は、というか宇宙人は荒井さんにとって「推し」なんだ。
　そう考えたら納得できた。
　あこがれの宇宙人が目の前に現れて、自分だけ特別に話しかけてもらって頼まれごとをされて……しかも今、要するにがんばってやり続けろと励はげまされていたよね？
　わかる。それならすごくわかる！
　尊とうと過ぎて直視できないし、いくらでもひれ伏しちゃう。
　荒井さんは宇宙人を全能の存在だと思っているのかな。自分をちっぽけな人間だと言っていたから、怖い銀太郎は荒井さんのイメージする宇宙人そのものなのかもしれない。
　見下される感じがうれしいとか……？
　そういうキャラの「推し」とファンとの関係はアリだけれど、荒井さんも実はそれ？
　無表情の銀太郎を見る。
　キリッとした蓮君は確かに尊い。うーん、これはこれでかっこいいかも。
　でも私だったら、やっぱり優しい笑顔の方がいいかな。いつもの銀太郎みたいな。
　いつもの……。
　いやいや、元は銀色のツルツルだよ⁉︎
　荒井さんの「推し」はそっちのビジュアルで構わないかもだけど、私はそれでいいわけ？
　それでもしんみりできるの？
　もうすぐいなくなっちゃうんだよね、なんてさびしくなったりする？
　……。
　どうしよう。
　それでも、やっぱりさびしい。