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5章 星からのキカン
54.キカン(20/20)
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コツン。
銀太郎が首を傾けて、おでこを私の頭にくっつけてきた。
「そんな不安そうな顔しないで。宇宙ジョーク。ごめんねでし。ケイちゃんは童顔で、元々年齢不詳でし。ワレワレと長く接触して細胞レベルで異変が起きているかもでしけど、ワレワレが改造した事実はないでし」
わわわわっ。耳元でささやかないでーーーーっ!
何これ、近いってば!
「アオイ様?」
ひゃーっ!! 名前呼ばないで。しゃべらないでっ、動かないでっ、ちがう、この距離をキープしないでーーーーっ!!
「ワタシ怖くないでしよ。大丈夫でしよ?」
ちがーっう!
近い近い近いんだってば。
「もうっ! パパが改造人間でも私がアサガオでもなんでもいいから離れてーっ」
「あたたたっ。わあ、アオイ様落ち着いて! 大丈夫怖くないでしよー。接近戦禁止でしっ、手を止めて。パタパタしないでっ」
窓わくに二人ではさまれたままパカパカと銀太郎をたたき続ける私を銀太郎は止めに入った。
両手首をつかまれても腕をふりまわす私を窓から引きはがした銀太郎は、一瞬のスキで私を抱き寄せると、包み込むようにして動きを封じてきた。
「むぎゅっ。ずるい銀太郎っ! 体格差あり過ぎ!」
「アオイ様、今は非常事態の無差別級試合でし。クリンチもどうかお許しをっ。あきゃっ、脇腹たたくの反則でしって」
だから近いんだってば!
クリンチってなによ⁉︎ ボクシングで相手に抱きついて動けなくするアレ?
抱き……ついて……⁉︎
「ぎゃああああっ」
悲鳴は銀太郎の胸にかき消されていた。
銀太郎にぎゅーってされて完全にくっついちゃっている。恥ずかし過ぎる。
動けないっ近いっ近過ぎっ!
離れて離れて離れてってーーー!
ドゴッ!!
「あがっ」
銀太郎が断末魔の叫びを上げて勢いよく倒れた。銀太郎にしがみつかれたまま私も床に倒れ込んだ。
うわぁ、私の頭突き、そんなに効いちゃったの⁉︎
「ちょっと葵、大丈夫⁉︎ 何か倒れたの? 下の階のおうちにご迷惑でしょう?」
ドシーンと床が響いたせいで、お母さんが飛んできた。
「わっ。なんでもない! 大丈夫だから!」
この状況、なんだか誤解されない⁉︎
「大丈夫だからーっ」
構わず部屋のドアを開けたお母さんは、しばらく黙ったまま動かなかった。
「葵……銀太郎君を倒しちゃったの?」
お母さんの言う「倒す」は「怪獣を倒す」と同じ使い方だ。
銀太郎は床に仰向けになって、両手足を広げた大の字で転がっていた。
すぐ横でしゃがんでいる私には全くふれていない。
「えと、ちょっと勢いで……頭突きしちゃって……」
銀太郎は目をつぶったまま動かない。
ずるいな。
私ひとりが悪いみたいじゃない?
あ、ちょっと口だけ笑いかけた。
「そう。気をつけてね。銀太郎君ごめんなさいねえ、まだまだ子供で」
ああっ、笑いをこらえている。
お母さんが出ていっても銀太郎は大の字のまましばらく動かなかった。
私が銀太郎とベタベタしていると思われないように、お母さんが変に心配しないように、すごく気をつかってくれているんだよね。
ほんと、ずるいな。
もうすぐいなくなっちゃうのに、どんどん仲良くなっていく。
銀太郎が帰った後で、もし私がさびしくなったら銀太郎のせいなんだからね。
いつのまにか目を開けた銀太郎は、まだ大の字のままで天井を見つめていた。
たぶん天井の先の、遠い何かと交信しているんだ。
蓮君なのに、全然蓮君に見えない。
前からそうだったっけ?
黒い肌のすらりとした青年と、銀色のツルツルと、目の前の銀太郎と。
どうしてどれも銀太郎だってわかるのかな。不思議。
もし次にちがう姿で現れても、やっぱり私は銀太郎がわかると思う。
なんでかな。
私なら銀太郎に気づけるって、なぜか自信があるんだよね。
不思議だね、銀太郎。
銀太郎が首を傾けて、おでこを私の頭にくっつけてきた。
「そんな不安そうな顔しないで。宇宙ジョーク。ごめんねでし。ケイちゃんは童顔で、元々年齢不詳でし。ワレワレと長く接触して細胞レベルで異変が起きているかもでしけど、ワレワレが改造した事実はないでし」
わわわわっ。耳元でささやかないでーーーーっ!
何これ、近いってば!
「アオイ様?」
ひゃーっ!! 名前呼ばないで。しゃべらないでっ、動かないでっ、ちがう、この距離をキープしないでーーーーっ!!
「ワタシ怖くないでしよ。大丈夫でしよ?」
ちがーっう!
近い近い近いんだってば。
「もうっ! パパが改造人間でも私がアサガオでもなんでもいいから離れてーっ」
「あたたたっ。わあ、アオイ様落ち着いて! 大丈夫怖くないでしよー。接近戦禁止でしっ、手を止めて。パタパタしないでっ」
窓わくに二人ではさまれたままパカパカと銀太郎をたたき続ける私を銀太郎は止めに入った。
両手首をつかまれても腕をふりまわす私を窓から引きはがした銀太郎は、一瞬のスキで私を抱き寄せると、包み込むようにして動きを封じてきた。
「むぎゅっ。ずるい銀太郎っ! 体格差あり過ぎ!」
「アオイ様、今は非常事態の無差別級試合でし。クリンチもどうかお許しをっ。あきゃっ、脇腹たたくの反則でしって」
だから近いんだってば!
クリンチってなによ⁉︎ ボクシングで相手に抱きついて動けなくするアレ?
抱き……ついて……⁉︎
「ぎゃああああっ」
悲鳴は銀太郎の胸にかき消されていた。
銀太郎にぎゅーってされて完全にくっついちゃっている。恥ずかし過ぎる。
動けないっ近いっ近過ぎっ!
離れて離れて離れてってーーー!
ドゴッ!!
「あがっ」
銀太郎が断末魔の叫びを上げて勢いよく倒れた。銀太郎にしがみつかれたまま私も床に倒れ込んだ。
うわぁ、私の頭突き、そんなに効いちゃったの⁉︎
「ちょっと葵、大丈夫⁉︎ 何か倒れたの? 下の階のおうちにご迷惑でしょう?」
ドシーンと床が響いたせいで、お母さんが飛んできた。
「わっ。なんでもない! 大丈夫だから!」
この状況、なんだか誤解されない⁉︎
「大丈夫だからーっ」
構わず部屋のドアを開けたお母さんは、しばらく黙ったまま動かなかった。
「葵……銀太郎君を倒しちゃったの?」
お母さんの言う「倒す」は「怪獣を倒す」と同じ使い方だ。
銀太郎は床に仰向けになって、両手足を広げた大の字で転がっていた。
すぐ横でしゃがんでいる私には全くふれていない。
「えと、ちょっと勢いで……頭突きしちゃって……」
銀太郎は目をつぶったまま動かない。
ずるいな。
私ひとりが悪いみたいじゃない?
あ、ちょっと口だけ笑いかけた。
「そう。気をつけてね。銀太郎君ごめんなさいねえ、まだまだ子供で」
ああっ、笑いをこらえている。
お母さんが出ていっても銀太郎は大の字のまましばらく動かなかった。
私が銀太郎とベタベタしていると思われないように、お母さんが変に心配しないように、すごく気をつかってくれているんだよね。
ほんと、ずるいな。
もうすぐいなくなっちゃうのに、どんどん仲良くなっていく。
銀太郎が帰った後で、もし私がさびしくなったら銀太郎のせいなんだからね。
いつのまにか目を開けた銀太郎は、まだ大の字のままで天井を見つめていた。
たぶん天井の先の、遠い何かと交信しているんだ。
蓮君なのに、全然蓮君に見えない。
前からそうだったっけ?
黒い肌のすらりとした青年と、銀色のツルツルと、目の前の銀太郎と。
どうしてどれも銀太郎だってわかるのかな。不思議。
もし次にちがう姿で現れても、やっぱり私は銀太郎がわかると思う。
なんでかな。
私なら銀太郎に気づけるって、なぜか自信があるんだよね。
不思議だね、銀太郎。
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