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5章 星からのキカン
51.キカン(17/20)
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部屋の窓から夜空を見上げた。
それがはじまりだった。銀太郎と出会うきっかけだった。
「こうして二人で星空をながめるなんて、ロマンチックでしねえ」
「それ、パパとやれば?」
「なんでケイちゃんとでしか? ケイちゃんのお部屋の窓、目の前植え込みの木で空は見えませんでし」
「……もうやったんだ」
全開にした窓から身を乗り出すようにして、私と銀太郎は夜空をながめている。
虫が入って来ないように部屋の灯りを消して、草っぽい風の湿気と虫の声と車の騒音と、なんだか近所のご飯のにおいまで、私にとっての日常を銀太郎は感じ取っているみたいだ。
窓わくいっぱいにぎゅうぎゅう並んでいるから、肩がくっついて銀太郎の体温が伝わってくる。
パパと銀太郎が並んだら、もっとぎゅうぎゅうだろうな。
「アオイ様、ごきげんナナメ三十度でし」
「三十度?」
「その角度、人間ほぼ歩けませんでし。制覇は山登りのごとし。チャレンジゴーゴーでし」
「……銀太郎はチャレンジするんだ?」
「もちろんでし。どんな困難あろうともアオイ様には向かい続ける所存にございまづ」
「……銀太郎。実は日本語ペラペラで、わざとハズしたりしていない?」
「ワタシ日本語上級者でしか? 光栄でしね」
銀太郎は楽しそうに笑っている。私が何を言ったって、絶対にかなわないんだろうな。
人生経験の長さも、宇宙人目線の視野の広さも、比べようがない。
要するに、オトナだ。
そんなのわかっているし当たり前なのに、なぜがちょっとくやしい。
「ねえ、アオイ様。ワタシもうすぐ帰りまし。またいつか、ホームステイ来ても本当にいいでしか?」
「え?」
「アオイ様イヤなら、もちろん来ません。でも、オーケーならぜひ来たいのでし。ここは楽しかったでし。お仕事関係なく本当に楽しかった」
「銀太郎……」
銀太郎はもうすぐ本当にいなくなるんだ。
宇宙人だから、いくらパパの友だちでお仕事の関係者だからといって、また会えるとは限らないよね。
パパとは親友なのに、今まで私は一度も会ったことがなかったもの。
今ここにいるのは、偶然のキセキだもの。
「あの、ね。私はいつでもオーケーでしよ? ははっ、銀太郎語だ。あのね、私、全然イヤじゃないから。私も……楽しかったよ。銀太郎が現れてびっくりしたけれど、面白かったよ。ホームステイは私も歓迎する。うちはパパもお母さんも私も、銀太郎を大歓迎する。いつでも来ていいよ? 別にホームステイじゃなくてもいくらでも遊びに来れば……ああ、それはやっぱりムリなのかな。国家機密? なんかそんなのだっけ」
「アオイ様のオコトバ、なんだが社交辞令のお手本みたいでしね」
「そ……う?」
銀太郎、スルドイな。
私も自分で言ってそう思った。
「来ていいよ」じゃなくて「来てほしい」。
一瞬頭をよぎったけれど、それもちがう気がして言えなかった。
銀太郎は宇宙人で、地球人を守ってくれる特別大事な存在で、私はただの観葉植物で……。
今ごろになって、住む世界がちがうんだと意識した。急に遠い存在に思えてきた。
一度意識したら、なんだか近づいてはいけない気がしてきた。
来てほしい。
そう望むことがすごくわがままに思えて、別の言葉を必死で探した。
日本語、難しいな。自分の気持ちにぴったりの言葉が見つからない。
だから、このモヤモヤの理由が自分でもわからない。
テレパシーなら、そのまんま伝わって便利なのかな?
それがはじまりだった。銀太郎と出会うきっかけだった。
「こうして二人で星空をながめるなんて、ロマンチックでしねえ」
「それ、パパとやれば?」
「なんでケイちゃんとでしか? ケイちゃんのお部屋の窓、目の前植え込みの木で空は見えませんでし」
「……もうやったんだ」
全開にした窓から身を乗り出すようにして、私と銀太郎は夜空をながめている。
虫が入って来ないように部屋の灯りを消して、草っぽい風の湿気と虫の声と車の騒音と、なんだか近所のご飯のにおいまで、私にとっての日常を銀太郎は感じ取っているみたいだ。
窓わくいっぱいにぎゅうぎゅう並んでいるから、肩がくっついて銀太郎の体温が伝わってくる。
パパと銀太郎が並んだら、もっとぎゅうぎゅうだろうな。
「アオイ様、ごきげんナナメ三十度でし」
「三十度?」
「その角度、人間ほぼ歩けませんでし。制覇は山登りのごとし。チャレンジゴーゴーでし」
「……銀太郎はチャレンジするんだ?」
「もちろんでし。どんな困難あろうともアオイ様には向かい続ける所存にございまづ」
「……銀太郎。実は日本語ペラペラで、わざとハズしたりしていない?」
「ワタシ日本語上級者でしか? 光栄でしね」
銀太郎は楽しそうに笑っている。私が何を言ったって、絶対にかなわないんだろうな。
人生経験の長さも、宇宙人目線の視野の広さも、比べようがない。
要するに、オトナだ。
そんなのわかっているし当たり前なのに、なぜがちょっとくやしい。
「ねえ、アオイ様。ワタシもうすぐ帰りまし。またいつか、ホームステイ来ても本当にいいでしか?」
「え?」
「アオイ様イヤなら、もちろん来ません。でも、オーケーならぜひ来たいのでし。ここは楽しかったでし。お仕事関係なく本当に楽しかった」
「銀太郎……」
銀太郎はもうすぐ本当にいなくなるんだ。
宇宙人だから、いくらパパの友だちでお仕事の関係者だからといって、また会えるとは限らないよね。
パパとは親友なのに、今まで私は一度も会ったことがなかったもの。
今ここにいるのは、偶然のキセキだもの。
「あの、ね。私はいつでもオーケーでしよ? ははっ、銀太郎語だ。あのね、私、全然イヤじゃないから。私も……楽しかったよ。銀太郎が現れてびっくりしたけれど、面白かったよ。ホームステイは私も歓迎する。うちはパパもお母さんも私も、銀太郎を大歓迎する。いつでも来ていいよ? 別にホームステイじゃなくてもいくらでも遊びに来れば……ああ、それはやっぱりムリなのかな。国家機密? なんかそんなのだっけ」
「アオイ様のオコトバ、なんだが社交辞令のお手本みたいでしね」
「そ……う?」
銀太郎、スルドイな。
私も自分で言ってそう思った。
「来ていいよ」じゃなくて「来てほしい」。
一瞬頭をよぎったけれど、それもちがう気がして言えなかった。
銀太郎は宇宙人で、地球人を守ってくれる特別大事な存在で、私はただの観葉植物で……。
今ごろになって、住む世界がちがうんだと意識した。急に遠い存在に思えてきた。
一度意識したら、なんだか近づいてはいけない気がしてきた。
来てほしい。
そう望むことがすごくわがままに思えて、別の言葉を必死で探した。
日本語、難しいな。自分の気持ちにぴったりの言葉が見つからない。
だから、このモヤモヤの理由が自分でもわからない。
テレパシーなら、そのまんま伝わって便利なのかな?
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