宇宙人は恋をする!

山碕田鶴

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4章 コンタクト

34.コンタクト(10/10)

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 朝が来た。日本の朝だ。
 いつもの私の部屋を見回してホッとする。
 色々あり過ぎて、頭の中が全部まざった気分。
 何があっても朝は来るって、初めて知った気がする。

「お母さん、おはよう」

 台所のお母さんは、いつもと同じ。パパがいないのも日常。

「あら葵、日曜なのに早いのね。昨日は遅くまで起きていたのに」

 そうだった。
 昨日はご飯のあと、ここで銀太郎の取り調べをやっていて……。
 あれ?  そのあとは?

「私、話の途中で寝ちゃったの? でも、起きたらベッドにいたけど」
「葵ったら話しながら段々とウトウトしてきて、そのまま寝ちゃったから銀太郎君が部屋まで運んでくれたのよ」
「銀太郎が?」
「それはもう、ていねいにていねいに、本当に大切なお姫様を守るナイトのようにお姫様だっこで。きゃーっヤダ照れちゃう」

 へえー……。

「で?   その銀太郎は?」
「まだパパの部屋で寝ているんじゃないかしら?   昨日はずいぶんと遅くまで起きていたみたいだし。昼間は藤井君のところへお出かけして、夜はパパのことがあったから、さすがの赤レンジャーも疲れたでしょう?」
「お母さんは?  お母さんは大丈夫なの?」
「え?   お母さんはいつもと同じことしかしていないから、別に……。あっ、大変。昨日、蓮君のドラマの復習会忘れちゃった」

 お母さんは本当にいつもどおり笑っていた。お母さんなら、宇宙人と対等になれるんじゃないかな。
 パパの部屋のふすまが少しだけ開いている。
 そっとのぞくと、荷物の消えた部屋のまんなかに寝袋に入った銀太郎が転がっていた。
 寝袋の蓮君……。寝顔もステキ過ぎる。わあ、ちょっとカワイイかも。
 見てはいけないものをのぞいてしまった気がして目をそらそうとした瞬間、

「フェザ……」

 ふいに口をついて出た。
 銀太郎に教えてもらった昔の名前だ。声に出したら昨夜の夢をはっきりと思い出した。
 やっぱり夢じゃなくて現実だったのかな?
 銀太郎の育った場所。銀太郎が見た地球人。銀太郎の本名。

「フェザ・アシュー……」

 なんだっけ?   長過ぎて全然覚えていないや。

「フェザ・アシュール・ラウラ・ロイ・ヤスレイでし」
「ああ、そうだった。……ん?」

 答えたのは確かに銀太郎だ。でも、寝袋の銀太郎は動かない。というか、しっかり寝ているけど。
 寝言?

「アオイ様の呼ぶ声なら、どれだけ離れていたって聞こえまし」

 えええ?   また寝ながらしゃべった?
 でも、銀太郎はここにいるよね。ひょっとして、まだあの記憶の草原の中とか?   
 銀太郎って、今どこにいるの?

「今?   高原牧場のアイス売り場でしよ?   ハスカップ味とかトウモロコシ味とか、いっぱいあって迷いまし。せっかくなのでチョコ味以外にもチャレンジゴーゴーでし」

 ああ、完全に夢の中だ。北海道かな。
 あれ?   寝ながら話す以前に、私、声出していないけど?
 ……テレパシー……ということ?
 無意識に他人の心を読んでいるの⁉︎
 起きている時はわざわざ意識して心を読まないでいてくれるのかな……。
 って、そっちじゃなくて今ダメでしょ!
 ハッキング禁止!!
 撃退しないと。

(銀太郎、聞こえる?  アイスは何味にしたの?)

 思いきり念じてみた。銀太郎の夢の中まで届くかな。

「ハイ。おすすめのアズキ味でし。せっかくの日本、ワフー体験でしよ。あと、これアイスではなくてソフトクリームいう別物でしね」

 やっぱり聞こえている。

(ねえ、銀太郎。よーく聞いてね)

「ハイ、聞こえていまし」

(銀太郎のぉ、バカーーーーっ!   バカバカバカバカ、おバカーーーーっ!!)

「……」

 大音量サイバー攻撃が効いたのか、銀太郎はその後全く返事をしなかった。
 寝袋が動く様子もない。
 え……と。大丈夫かな。
 あっ、せっかくのアズキ味ソフトクリームは食べそこなっちゃったかな。
 ちょっとかわいそうになってきた。
 でも……銀太郎が悪いんだからね。
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