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第2章 小満
10.アガパンサス(一)
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「アガパンサスって何?」
僕が訊くと、誠は花壇の奥を指さした。
「花の名前だ。前の借主が植えっ放しにしていたんだろう。花の時期はこれからだから、そろそろ蕾が出始める頃か。ぼんやり何か見えないか?」
「え……」
花壇を見ると、たしかに薄い煙のようなものが漂っている。薄く人の形を成しているような気がしないでもない。
「花が咲くと花の精が現れるの?」
「さあな。花壇のは弱いから。ただ、この後はっきりと見えるようになって同居人が増えるかもしれないから、心の準備だけはしておけ」
「四兄弟になるってこと?」
「かもな」
弱い。
以前キクも三兄弟を弱いと言った。
花壇組とキクの違いは何だろう。
今訊いても、僕自身に理解できない気がした。
「ちなみにアガ……って、どんな花が咲くの?」
「青くて、小さな百合が集まった感じだな。三兄弟と似ていたら、頭に青い花火が上がっているだろうな」
ちょっと想像してみたけれど、僕の頭の中では幼稚園児のお絵かきくらいフニャフニャなイメージしか湧かなかった。
はたして、三兄弟は四兄弟へと増殖した。
アガパンサスの頭には、薬玉のような青い花のかたまりが一本刺さっている。誠の言うとおり、まるで花火が上がっているみたいだ。アートだ。
フリージアたちと同じ顔、同じ作業着姿。仲良く縁側に座って空を眺めている。そもそも、お互い認識しているのか。ちゃんと並んで一緒にいる。
慣れてしまえば爽やかな笑顔に和めるが、アガパンサスはどことなく違和感が拭えない。
そう、薄いのだ。
三兄弟を初めて見た時は、人間と区別が難しいほどはっきりと存在していた。それがアガパンサスは、幽霊のイメージそのままにぼんやりと透けて見える。
アガパンサスはフリージアたちと行動を共にして、はじめから四兄弟だったように過ごしていた。
頭に刺さったポンポンは、体を揺らすたびに隣の兄弟を叩いている。それを見て笑う僕は、アガパンサスの薄さをいつのまにか気にも止めなくなっていた。
そうして縁側の四兄弟が見慣れた光景になった頃、今度ははっきりと違和感を覚える事態が起きた。アガパンサスだけでなく、フリージアたちまでもが徐々に透き通っていったのだ。
「みんな、どうして薄くなってきたの?」
声をかけても、もちろん返事はない。こうして目の前まで近づいても怖くなくなったというのに、段々遠くなっていくようで寂しい。
僕が目の前に行くと、四兄弟は僕を見る。ニコニコと笑ったまま身体を左右に揺らしてくれる。僕が同じように揺れてみても無視されるのは変わらないけれど、それでも少しは仲良くなれた気がしていたのに。
僕が訊くと、誠は花壇の奥を指さした。
「花の名前だ。前の借主が植えっ放しにしていたんだろう。花の時期はこれからだから、そろそろ蕾が出始める頃か。ぼんやり何か見えないか?」
「え……」
花壇を見ると、たしかに薄い煙のようなものが漂っている。薄く人の形を成しているような気がしないでもない。
「花が咲くと花の精が現れるの?」
「さあな。花壇のは弱いから。ただ、この後はっきりと見えるようになって同居人が増えるかもしれないから、心の準備だけはしておけ」
「四兄弟になるってこと?」
「かもな」
弱い。
以前キクも三兄弟を弱いと言った。
花壇組とキクの違いは何だろう。
今訊いても、僕自身に理解できない気がした。
「ちなみにアガ……って、どんな花が咲くの?」
「青くて、小さな百合が集まった感じだな。三兄弟と似ていたら、頭に青い花火が上がっているだろうな」
ちょっと想像してみたけれど、僕の頭の中では幼稚園児のお絵かきくらいフニャフニャなイメージしか湧かなかった。
はたして、三兄弟は四兄弟へと増殖した。
アガパンサスの頭には、薬玉のような青い花のかたまりが一本刺さっている。誠の言うとおり、まるで花火が上がっているみたいだ。アートだ。
フリージアたちと同じ顔、同じ作業着姿。仲良く縁側に座って空を眺めている。そもそも、お互い認識しているのか。ちゃんと並んで一緒にいる。
慣れてしまえば爽やかな笑顔に和めるが、アガパンサスはどことなく違和感が拭えない。
そう、薄いのだ。
三兄弟を初めて見た時は、人間と区別が難しいほどはっきりと存在していた。それがアガパンサスは、幽霊のイメージそのままにぼんやりと透けて見える。
アガパンサスはフリージアたちと行動を共にして、はじめから四兄弟だったように過ごしていた。
頭に刺さったポンポンは、体を揺らすたびに隣の兄弟を叩いている。それを見て笑う僕は、アガパンサスの薄さをいつのまにか気にも止めなくなっていた。
そうして縁側の四兄弟が見慣れた光景になった頃、今度ははっきりと違和感を覚える事態が起きた。アガパンサスだけでなく、フリージアたちまでもが徐々に透き通っていったのだ。
「みんな、どうして薄くなってきたの?」
声をかけても、もちろん返事はない。こうして目の前まで近づいても怖くなくなったというのに、段々遠くなっていくようで寂しい。
僕が目の前に行くと、四兄弟は僕を見る。ニコニコと笑ったまま身体を左右に揺らしてくれる。僕が同じように揺れてみても無視されるのは変わらないけれど、それでも少しは仲良くなれた気がしていたのに。
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