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第3話

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 2階に上がるとまた同じ風景の迷路だ。
 100階まですぐだと思ったけど、同じ事を100回繰り返すのかと思うとゲンナリする。

 1階とは逆方向へ歩き出す。
 私は方向音痴ではなく、どちらかといえば強い方だ。

 キツネに追いかけられながらも、なんとか逃げ切り、ヒマワリの種や他のナッツを手に入れて食べながら5階までクリアした。

 〔貴女様のお身体、合計5%お返しします。そしてここでボーナスです!
 頑張った貴女様に、靴のプレゼントです。
 お好きな靴を選んでください。〕

 目の前にいろんな靴が現れる。

 「靴って…。
 普通さ、服に合わせて靴選ぶじゃない?
 何で靴?
 そもそもさ、足からじゃなくて、頭の方から返してよ!人間て、顔大事!」

 〔はぁ…本当に我儘娘だねぇ。
 足からでもどっちでもいいじゃない。〕

 魔女が直接話してる声だ!

 「どっちでも良くない!最後までクリア出来なかったとして、一部元に戻した時、体が人間で顔がチンチラっておかしいでしょ?
 人魚姫だってケンタウロスだって、上半身が人間よ⁉︎」

 〔別に他に合わせなくったって…。それに元に戻さなくても、全部がチンチラなら問題ないわけだし。〕

 「上の方からにしてちょうだい!」

 〔ふむ…まあいい。じゃあ、“顔”からでいいよ。自分の顔探しな。〕

 靴が消え、今度は目の前に顔面が並ぶ。
 「なんか、めっちゃ怖いんだけど…。
 皆こっち見てる。」

 〔じゃあ早く選ぶんだね。〕

 「自分の顔はさ、コレってすぐ分かるんだけど、違う顔選んでもいいの?なんかすっごい美人な顔あるんだけど。」

 〔いいけど…、嫌になっても元には戻さないよ。違う顔だと、誰もアリシアだって気付いてくれないよ?〕

 「誰も…、私なんて居なくなっても、気にしないわよ。」

 〔何でそう思う?〕

 「お姉様、お兄様、お兄様、私、弟、妹の6人兄弟姉妹なの。私1人居なくなっても気付かないんじゃない?
 私の身代わりに男の子置いてきたって言ってたけど、それがタヌキだったとしても誰も何も思わないわよ、きっと。」

 〔ああ、そうだ、よく分かったね。身代わりの男の子はタヌキだよ。〕

 「ええ⁉︎本当にタヌキ?嘘でしょ?」

 〔本当さ。だから“ぽんぽこぽん”くらいしか喋れてないよ。〕

 「何でタヌキなの⁉︎」

 〔そりゃ人間の子なんて連れてきたらいろいろ面倒でしょ?タヌキに変身させてるから安心して。〕

 「安心なんてできるわけない!なんかめっちゃ腹立ってきた!
 やっぱこんな迷路なんてさっさと抜けて王宮に帰る!」

 〔やーっとやる気でた。で、どの顔にするの?〕

 「もちろん、自分の顔よ!コレ!」

 〔ハイハイ。じゃあまた預かっておくから、いるようになったら声かけてー。〕

 と言った後、魔女の気配が消えた。

 もう!サーン国の王女め!
 何で私がこんな目に遭わないといけないのよ?

 私は、ぶつけるところが無い怒りを抱えて前に進む。

 7階まで調子良く進んだ。

 突き当たりに当たった時、何かいることに気付く。

 …リス?

 『来ないで!』

 「あなた、誰?」
 チンチラの私のことを怖がっている様子のリスに話かける。

 『あなたこそ!私を食べる気なんでしょ⁉︎』

 え…?もしかして、私と同じなのかな…?

 「食べないよ。私、魔女に捕まってチンチラに変えられて、この迷宮に閉じ込められたの。」

 『あなたもなの⁉︎』

 「私、ニイ国の王女、アリシアです。」

 『私はサーン国の王女、キャサリンです。』

 「サーン国?サーン国⁉︎」
 アリシアはびっくりして2回も繰り返した。
 「何でサーン国の王女がここに⁉︎」

 『あなたは本当にニイ国の王女ですか?』

 「はい、間違いなく。」

 『あなたが私をこんなところに連れて来たんですよね?』

 「違う!あなたでしょ⁉︎」

 『違います!私ではありませんわ!』

 「私、てっきりサーン国の王女であるあなたが私をここに連れて来たんだと思ってた…。」

 『私も、ニイ国の王女のあなただと思っていましたわ…。』

 「じゃあ、誰がいったい…?」

 『私、帰りたい…。何でこんなところ…。キツネは追いかけてくるし、怖くて嫌!』

 「でも、私より早く進んでる?それとも先に連れて来られたの?いつからいるの?」

 『いつからかは分かりません。分かるものは何も無いし。食べ物とランプはあるんですが…。』

 「今7階なんだけど、6%返してもらった?足の方?」

 『はい。靴を選んで、6%です。』

 「私、魔女に言って顔返してもらったんだ。上からってことで。あなたもそうしてもらったら?」

 『あ、そんな交渉は出来るんですね?すごい!でしたら、私〝お花を摘みに〟行きたいのですが…。』

 「あぁ、そういえば私もそろそろ…。
 ねえ!休憩室どこ⁉︎」
 私は上の方に向かって大きく話かける。

 ちなみに〝お花摘みに〟とは、トイレのことです。

 〔無いよ。あんた達今小動物なんだから、その辺で用を足せばいいじゃない。〕

 「私達を誰だと思ってるの?いくら動物の姿だからって、その辺になんてできない!それに、1人じゃないし…ねぇ。」

 〔ふぅん、でも頼み方が違うんじゃない?〕

 「偉大なる魔女様、休憩室をご用意していただけないでしょうか?お願いいたします!」

 〔分かったよ。じゃあ〝休憩室〟って言って壁に手を当てて。そしたらそこにドアが出現するようにしてあげる。ただし、1回3分間だけだよ。〕

 「ありがとう!」

 『ありがとうございます!よかったですわ!ではさっそく。』

 私達はそれぞれトイレを出現させて用を済ませた。

 ふぅー。
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