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田原の語り
第27話
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中森と麻智の話は続く。
「貴女のお母さんの、大学時代の友人で、田原さんという方がいるのをご存知ですか?」
「はい。田原さんなら、母を探してる時に会いました。結局、母は田原さんの家にずっといたそうです。」
「そうなんですね。そっかー、会ってたんですね。何か言ってました?間川さんのこと。」
「いえ、何も。母が探してた人の話ぐらいです。間川という人ではありませんでした。
あの事件の日、母が遅くに帰ってきたとは言ってましたけど、それだけです。
田原さんも何か関係してるんですか?
田原さんに会いに行く時、三牙も一緒に来てくれたんですけど、2人共初対面な感じでしたよ。」
「ここだけの話にしてください。実は、田原さんも少し嫌疑がかかってるようで、彼女も任同受けてます。
偶然にしてはすごいですよね。柳井田さんとは関わり無い間川さんに、柳井田さんの周辺にいる人が2人も疑われてるんですから。」
「確かに。イヤだなー。私、全然関係ないですよ。
でも田原さんて、何で疑われてるんですか?」
「これ以上はすみません、言えない。」
「ですよね。」
***
****
***********
私の名前は田原 綾乃
すごく久しぶりに千夏から電話がかかってきた。声のトーンからして、あんまり調子が良くなさそうというか…。
だから、「突然なんだけど、今日ヒマ?会えたりする?」という千夏に、二つ返事でオッケーした。
東京で会って顔見たら、なんか酷い顔になってて、やっぱり只事ではなかったかーと思った。
大高さんの話になり、すっかり忘れていたけど、千夏の旦那さんと大高さんの間の噂を思い出した。
そして、千夏の持ってる携帯の写真を見てびっくり!
そこに間川 歌蘭が写っていた!
千夏には、昔の教室の教え子だと言ったけど、実はそれだけではない。
すごく…すごく大変だった。
2年前まで、私は3人家族で暮らしていた。今は別れて別に暮らしている。
その原因となった子が歌蘭だ。
当時私の元旦那は、ダンスの教室を開いていた。そして私は歌とピアノの教室を同じ貸しスタジオで開いていた。
2人で1つの会社としていたので、ある時芸能事務所から歌とダンスのレッスンをしてほしいと頼まれ、同じグループとなる予定の何人かのアイドルの卵たちを担当することになる。その内の1人が歌蘭だった。
歌蘭は人一倍負けず嫌いで、良く言えば練習熱心だ。
顔も可愛いし、歌も踊りも上手い方で、センター争いの中に入っている。
でもそのうち、事務所の人もグループ内でも、何となく違う子がセンターになりそうな雰囲気になっていた。
歌蘭はそれからも一生懸命頑張っていたけど、なかなか好転しない状況にイライラし、焦ってる感じが出てくる。
他の子は自分もそうだからか、まあ許容範囲だという感じであまり気にしてなさそうだった。
ところが何となく、私の旦那に色気を使って近付いているような光景を度々目撃するようになる。
旦那は最初は引き気味で、どちらかといえばガードしていたけど、時が経つにつれどんどん距離が縮まってきた。
もちろん私は旦那に忠告するし、なるべく2人が近付き過ぎないように気を付けていた。
でもやはり、熱心で素直に指導を受ける態度と、魅力的な外見と、言い寄ってくる上手さとで、段々といいように操られるようになってくる。
私は2人の関わりを嫌な感じだと思いながらも、仕事上どうすることも出来ないでいた。
挙句旦那は事務所の人に、「間川が良い」と猛プッシュを始め、私は頭を抱えた。
その頃になると、周りの子達も、許容範囲を超えてきたようで、歌蘭への対策を考え始める。
歌蘭と旦那がいちゃついてるように見える角度で写真を隠し撮りしたり、事務所の人にある事ない事を告げ口したり。
それはそれで全く気持ちの良いものではなかった。なんてドロドロとしたいやらしい世界なんだろうと思った。
でも他の子達が色々画策したものの、歌蘭の方が上手で、あまり効果が出なかった。
旦那も他の子の様子に気付いていたので、阻止する動きをしていたのもある。
そしてとうとうデビューの話が出て、センターに抜擢されたのが歌蘭だった。
歌蘭は泣いて喜んだけど、周りの子はシラケている。そうなると、グループの雰囲気も全然良くなく、活動してもあまり人気も出ず、イマイチだった。
逆に、熱狂的というか、ストーカーか?っていうくらいのコアなファンばかりが付く始末だ。
デビューして一年ほど経った頃、思ったような成果が出ないので、雰囲気を変えるためにメンバーの立ち位置を考え直すことになる。
そこでまた、グループ内のバトルが勃発する。とりあえず歌蘭をセンターから引きずり下そうと、皆でタッグを組む。
グループ内に歌蘭と同じ学校出身の子がいて、その学校であったイジメの主犯格を歌蘭に仕立て上げた。
歌蘭の仲良い友達がしていたことらしく、歌蘭は「やめなよ。」と止めていた立場だったらしいけど、それを証明できずに事務所の人もファンも“歌蘭がイジメをした過去がある”という方を信じた。
そして追い討ちをかけるように、前回失敗した私の旦那とのウワサをもう一度仕掛ける。
噂は今度は成功し、歌蘭はグループ脱退に追い込まれる。
グループを脱退した後はしばらく活動自粛となり、再起できずにそのまま芸能界引退となった。
そのゴタゴタに巻き込まれた旦那も、もちろん悪い噂が立ち、コアなファンたちからも攻撃を受け、ダンス教室を閉鎖せざるを得なくなった。
旦那は北陸の酒造メーカーの跡取りではなく次男だったので、それまでは好きな事をやらせてもらっていたけど、そんな状況なら実家を手伝えと親兄弟に説得され、実家に移り住むことになる。
私の1人娘の睦菜も、アイドルのゴタゴタを見て人間関係にウンザリしたのと、元々都会の喧騒が好きではなかったみたいで、東京を離れたくなったらしく、旦那に付いて行くことになった。
私は、一旦一緒に付いて行ったものの、田舎の不便さと人の距離感の近さに馴染めず、1人でまた東京に戻ってきた。
一応、事の発端は、旦那がアイドルグループの仕事を受けたことと、原因となるような隙を作ったので、慰謝料的なお金を旦那の実家から受け取った。
そのお金でマンションを買い、その一室でまた音楽の教室を開いた。
私に付いていてくれた生徒も戻ってきてくれたので、副業としては充分だ。
「貴女のお母さんの、大学時代の友人で、田原さんという方がいるのをご存知ですか?」
「はい。田原さんなら、母を探してる時に会いました。結局、母は田原さんの家にずっといたそうです。」
「そうなんですね。そっかー、会ってたんですね。何か言ってました?間川さんのこと。」
「いえ、何も。母が探してた人の話ぐらいです。間川という人ではありませんでした。
あの事件の日、母が遅くに帰ってきたとは言ってましたけど、それだけです。
田原さんも何か関係してるんですか?
田原さんに会いに行く時、三牙も一緒に来てくれたんですけど、2人共初対面な感じでしたよ。」
「ここだけの話にしてください。実は、田原さんも少し嫌疑がかかってるようで、彼女も任同受けてます。
偶然にしてはすごいですよね。柳井田さんとは関わり無い間川さんに、柳井田さんの周辺にいる人が2人も疑われてるんですから。」
「確かに。イヤだなー。私、全然関係ないですよ。
でも田原さんて、何で疑われてるんですか?」
「これ以上はすみません、言えない。」
「ですよね。」
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私の名前は田原 綾乃
すごく久しぶりに千夏から電話がかかってきた。声のトーンからして、あんまり調子が良くなさそうというか…。
だから、「突然なんだけど、今日ヒマ?会えたりする?」という千夏に、二つ返事でオッケーした。
東京で会って顔見たら、なんか酷い顔になってて、やっぱり只事ではなかったかーと思った。
大高さんの話になり、すっかり忘れていたけど、千夏の旦那さんと大高さんの間の噂を思い出した。
そして、千夏の持ってる携帯の写真を見てびっくり!
そこに間川 歌蘭が写っていた!
千夏には、昔の教室の教え子だと言ったけど、実はそれだけではない。
すごく…すごく大変だった。
2年前まで、私は3人家族で暮らしていた。今は別れて別に暮らしている。
その原因となった子が歌蘭だ。
当時私の元旦那は、ダンスの教室を開いていた。そして私は歌とピアノの教室を同じ貸しスタジオで開いていた。
2人で1つの会社としていたので、ある時芸能事務所から歌とダンスのレッスンをしてほしいと頼まれ、同じグループとなる予定の何人かのアイドルの卵たちを担当することになる。その内の1人が歌蘭だった。
歌蘭は人一倍負けず嫌いで、良く言えば練習熱心だ。
顔も可愛いし、歌も踊りも上手い方で、センター争いの中に入っている。
でもそのうち、事務所の人もグループ内でも、何となく違う子がセンターになりそうな雰囲気になっていた。
歌蘭はそれからも一生懸命頑張っていたけど、なかなか好転しない状況にイライラし、焦ってる感じが出てくる。
他の子は自分もそうだからか、まあ許容範囲だという感じであまり気にしてなさそうだった。
ところが何となく、私の旦那に色気を使って近付いているような光景を度々目撃するようになる。
旦那は最初は引き気味で、どちらかといえばガードしていたけど、時が経つにつれどんどん距離が縮まってきた。
もちろん私は旦那に忠告するし、なるべく2人が近付き過ぎないように気を付けていた。
でもやはり、熱心で素直に指導を受ける態度と、魅力的な外見と、言い寄ってくる上手さとで、段々といいように操られるようになってくる。
私は2人の関わりを嫌な感じだと思いながらも、仕事上どうすることも出来ないでいた。
挙句旦那は事務所の人に、「間川が良い」と猛プッシュを始め、私は頭を抱えた。
その頃になると、周りの子達も、許容範囲を超えてきたようで、歌蘭への対策を考え始める。
歌蘭と旦那がいちゃついてるように見える角度で写真を隠し撮りしたり、事務所の人にある事ない事を告げ口したり。
それはそれで全く気持ちの良いものではなかった。なんてドロドロとしたいやらしい世界なんだろうと思った。
でも他の子達が色々画策したものの、歌蘭の方が上手で、あまり効果が出なかった。
旦那も他の子の様子に気付いていたので、阻止する動きをしていたのもある。
そしてとうとうデビューの話が出て、センターに抜擢されたのが歌蘭だった。
歌蘭は泣いて喜んだけど、周りの子はシラケている。そうなると、グループの雰囲気も全然良くなく、活動してもあまり人気も出ず、イマイチだった。
逆に、熱狂的というか、ストーカーか?っていうくらいのコアなファンばかりが付く始末だ。
デビューして一年ほど経った頃、思ったような成果が出ないので、雰囲気を変えるためにメンバーの立ち位置を考え直すことになる。
そこでまた、グループ内のバトルが勃発する。とりあえず歌蘭をセンターから引きずり下そうと、皆でタッグを組む。
グループ内に歌蘭と同じ学校出身の子がいて、その学校であったイジメの主犯格を歌蘭に仕立て上げた。
歌蘭の仲良い友達がしていたことらしく、歌蘭は「やめなよ。」と止めていた立場だったらしいけど、それを証明できずに事務所の人もファンも“歌蘭がイジメをした過去がある”という方を信じた。
そして追い討ちをかけるように、前回失敗した私の旦那とのウワサをもう一度仕掛ける。
噂は今度は成功し、歌蘭はグループ脱退に追い込まれる。
グループを脱退した後はしばらく活動自粛となり、再起できずにそのまま芸能界引退となった。
そのゴタゴタに巻き込まれた旦那も、もちろん悪い噂が立ち、コアなファンたちからも攻撃を受け、ダンス教室を閉鎖せざるを得なくなった。
旦那は北陸の酒造メーカーの跡取りではなく次男だったので、それまでは好きな事をやらせてもらっていたけど、そんな状況なら実家を手伝えと親兄弟に説得され、実家に移り住むことになる。
私の1人娘の睦菜も、アイドルのゴタゴタを見て人間関係にウンザリしたのと、元々都会の喧騒が好きではなかったみたいで、東京を離れたくなったらしく、旦那に付いて行くことになった。
私は、一旦一緒に付いて行ったものの、田舎の不便さと人の距離感の近さに馴染めず、1人でまた東京に戻ってきた。
一応、事の発端は、旦那がアイドルグループの仕事を受けたことと、原因となるような隙を作ったので、慰謝料的なお金を旦那の実家から受け取った。
そのお金でマンションを買い、その一室でまた音楽の教室を開いた。
私に付いていてくれた生徒も戻ってきてくれたので、副業としては充分だ。
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