上 下
7 / 41

第7話

しおりを挟む
 中森:「じゃあ奥さんはまだどこにいるか分かってないんですね?
 探偵とか頼まれてないんですか?」

 父:「そう、探偵には頼もうかと考えたんやけど、かなりお金がかかるけえね。ワシは社長っていっても、そんなに儲かってるわけでもないけえ。それに、麻智に連絡取れたって聞いたから、まあ探偵にお願いするほどでもないのかなと。」

 中森:「そうですね、簡単に見つかるのならいいですけど、広範囲で長期間の捜索となると、笑えない金額になる可能性はありますよね。」

 麻智:「なんか、探す方法って無いですか?」

 中森:「東京方面に行かれた可能性があるとのことですが、心当たりは無いんですか?」

 麻智:「すみません、全く。母の友達には父が連絡取って確認してますし、それ以外ではさっぱり…。
 何か手掛かり無いかとオフ会も開いてみたんですが、変な噂を1つ聞いただけで、収穫は無かったですし…。」

 中森:「それはまた、随分遠回りな探し方ですね。」
 中森さんは苦笑いする。

 麻智はバカにされたと感じて、ちょっとムッとする。
 麻智:「オフ会は直接母を探した訳ではないんです。[みけりす]か[まいうい]さんを知ってる人がいないかと思って…。いませんでしたけど。
 父ちゃんは誰の連絡先も聞いてなかったって言うので。」

 中森:「そうですか。なんか、すみません。
 で、話は変わるのですが、奥さんが東京に行かれてるかもっていう話ということなら、ちょっと確認していただきたい物がありまして…。
 このSNSなんですが、ご存知ですか?」
と言って、携帯の画面を見せる。

 『写真撮ろうとしてたらぶつかってきて走り去ったオバさん
 ムカついて撮っといたけど、もしかして歌蘭ちゃん突き落とした犯人だったりしてー』
という文章と写真がアップされてる。
 写真は後ろ姿で顔が写ってなく、周りが暗くて拡大してアップしてるのか、画像も少しボヤけている。

 中森:「この記事の写真、奥さんじゃありませんか?」

 麻智と父ちゃんは、まさか⁉︎と思って、食い入るようにしてじっと見つめる。
 角度を変えたり写真をピンチアウトしたりして、何度も見返す。

 麻智:「…これは、母…ではないと思う。こんな花柄の服なんて着ないもんね?まあ髪型は、この前見たのと同じくらいだけど。」

 父:「うん、これは、妻じゃあないな。」

 中森:「そうですか。確認していただきありがとうございます。
 違うだろうなとは思ったんですが、この場合は該当しなくてよかったです。
 では、先程の探す方法の話に戻りますが、奥さんが東京の辺りに住んでたとかは?大学とかどちらですか?」

 父:「大学は東京だね。それで、その辺りの人でワシが連絡取れる人には確認はしたんよ。」

 中森:「ふむ、じゃあ、今連絡を取ってない人に会いに行ってるんですかね?元彼とか?っていう想像は酷すぎですね、失礼しました。
 他にはバイト先とか、サークルの他の大学の人とか。もしくは、誰かに会ってるわけじゃなくて、ただ1人になりたいからとか?
 思い出のある場所とか無いんでしょうか?」

 父:「バイト先はファミリーレストランで、サークルはテニスだったな。
 サークルは同じ大学の人だけの集まりだって言ってた。
 バイトでは仲良い人はいたけど、卒業してからあんまり関わってる気配は無かったよ。
 多分、東京にいた頃の人で連絡とってそうなのは1人だけくらいかな。
 それから、妻の彼氏は高校時代からワシなんや。それまでは誰とも付き合ったこと無いって言っとったけえ、ずっとワシだけ…のはず。二股とかしてたんじゃなければな。」

 麻智:「へー、父ちゃんと母ちゃんて、純愛なんだ。」

 父:「そうだよ。ワシが猛プッシュしてな、お願いして付き合ってもらったんやけど、お互いに純愛やったと思っちょる。」

 中森:「素敵ですね。
 奥さんがSNSでもされてて、写真とかアップしてるなら、何となくどこで撮ったとか分かることもありますけど、そうじゃなかったら、大学周辺とか元バイト先とか少しでも気になるところで、聞けそうな人に会って直接聞いたらいいかもしれません。まあ、そんな簡単には欲しい情報もらえませんけどね。」

 麻智:「なんか難しそう…。できるかな?私に。」

 中森:「慣れですよ、案外できるもんです。
 ところで、娘さん…麻智さんが聞いたオフ会の“変な噂”とは何ですか?」

 麻智:「それは…、あ!その前に、父と中森さんのオフ会の写真てありませんか?もしあれば、欲しいんですけど。」

 中森:「……ありますよ。交換条件ってことですね?」

 麻智:「まあ、そういう事です。」

 中森:「ふむ、まあいいですよ。なんか[まいうい]さんとか他の人も、写真を嫌がったので、何枚かは撮ったけど隠し撮りに近い感じなので、あんまり見せたくはなかったんですが…。」
 と言って携帯に入ってる写真を見せてくれる。

 中森:「これが[オカジ]くんと[松下村]さん。この2人は全然オッケーだったので、まあよく撮れてます。
 で、次の写真のこれが[みけりす]だね。それと一緒に写ってる[あいを]さんと[ゼットロス]さん。皆正面向いてないけど、何となく分かるかな?
 最後が広島の[モミジン]くんと[まいうい]さん。これが一番隠し撮りみたいだよね。」

 麻智:「でも、顔は分かります。無いより全然、充分です。
 じゃあ、データ転送していただいてもいいですか?」

 中森:「あ、そうだ。[オカジ]くんに1枚写真のデータ貰ったのもオマケにあげるよ。」

 麻智:「[オカジ]さんも写真撮ってたんですか?」

 中森:「うん。[オカジ]くんが最初に[まいうい]さんと[みけりす]を撮ったんだけど、それで[まいうい]さんが怒ったんだよね。勝手に撮らないでって。でも、[みけりす]の顔はこっちの方がはっきり写ってるかな。」

 [オカジ]さんの写真は、確かに[みけりす]はカメラ目線だけど、[まいうい]さんは横を向いていて不意を突かれたようだった。

 中森:「[まいうい]さんに消してって怒られてたけど、その後なんかワヤワヤして消しそびれたって言ってたんだ。だから他の人には見せないでね。」

 中森さんに4枚の写真のデータを転送してもらった。

 中森:「で、麻智さんが行ったオフ会の“変な噂”とは?」
 麻智:「今回のオフ会と違うゲームで、女の結婚詐欺が出没するっていう噂があるそうです。誰かは分からないんですけど、私の会に出席した人のゲーム仲間から、被害には合わなかったけどそういう付き合う付き合わないの話をして、結婚も匂わせて、お金を要求してきた女がいるって聞いたそうです。他の人にも“こんな話聞いた”って話したら、“お金取られちゃった”って言う人もいたらしいって、聞いたそうです。」

 中森:「へえー、その聞いた人本人でもないし、そう話した人も直接の被害はないけど、噂になってるんだね?
 やっぱりさ、偽名の集まりって、変な人も出没するよね。分かった、ありがとう。今後はお互いいろいろ気を付けよう。」

 麻智:「そうですね。
 そうだ。もしこの先、母の情報が手に入ったら教えてもらえませんか?」
 中森:「いいよ。お母さんのことなら連絡する。心配だよね。」
 麻智:「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 中森さんは、次は広島の[モミジン]くんを探すと言って帰って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

長編「地球の子」

るりさん
ライト文芸
高橋輝(たかはしあきら)、十七歳、森高町子(もりたかまちこ)、十七歳。同じ学校でも顔を合わせたことのなかった二人が出会うことで、変わっていく二人の生活。英国への留学、各国への訪問、シリンという不思議な人間たちとの出会い、そして、輝や町子の家族や友人たちのこと。英国で過ごすクリスマスやイースター。問題も多いけど楽しい毎日を過ごしています。

処理中です...