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偽りの友人関係
しおりを挟む奇妙な出来事が起こってから、一年の月日が流れた。
祖母のラジオは、私のアパートにあるままだけど、あれから特に変わったことは何一つなかった。
ほら、やっぱり。疲れだったんだ。
知らなかった。疲れが溜まると幻聴が聞こえたりするんだね。
今日は休みだし、カフェでケーキでも食べようかな。
ーーーーーーーーー
アパートから徒歩で15分で着くカフェは、レトロで落ち着く。
店内に入り、店員に案内された席に座るとテーブルに置かれたメニューを見る。
ここは、コーヒーフロートだけにしとこうかな。
店員を呼んだ。
ここのお店『花笛』では、花の形をした洋菓子や季節限定な花をテーマにしたドリンクが飲める。
今の季節は夏。『ひまわり』をテーマにしたドリンクが売られている。
私は、給料前というのもあり、飲みたいのをグッと耐えて、コーヒーフロートを注文する。
店員が放れる。
メニューを端っこに置くと、待ってる間何で時間潰そうかなって考えていたら声をかけられた。
「あれ、茉依!? 今日、仕事休みなの?」
「歩結姫(ふゆき)。久しぶりだね。そうなの、休みだよ~」
ショートカットが似合い、細いアーモンド型の目。地雷系の服を着ている。
ただ、残念なことに、メイクをしてないから服に顔が負けているのが勿体ない。
せっかく可愛い服着てるのに……。なんて、地雷系の服を着ている歩結姫を見る度に思う。
私自身、量産型が大好きで良く好んで着てしまう。
わかりやすく言うから、地雷系は、『自分が一番!』というのをモットーにしている。
量産型は『とにかく推しに可愛く見られたい!』というのをモチーフにしているって、言われている。
地雷系はダークな印象で、量産型はガーリーな服を好む印象。淡い色が基準でシンプル。
私自身、淡い系が大好きだから、自然とそうなっただけなんだよね。それは歩結姫も同じだろうけど。
歩結姫は私に相席の許可を貰い、テーブルを挟んだ向かいの席に座る。
「一人暮らしはどう? 慣れた?」
歩結姫はメニューを見ながら聞いてきた。
「うん、慣れたかな。あっ……でも、いやなんでもないや」
ふと、奇妙なあの出来事を思い出した。
あれは気のせいだろうから言うまでもない。
自分の中で解決した話。
「えっ、なに。気になるじゃん」
「もう解決した話だから」
「そうなの? なにかあったらいいなよ」
「はーい」
第三者からすれば、『友達想いの優しい子』に思うだろう。
実際は、友達かどうかがわからない。
私は知ってるから。歩結姫がSNS上で私のことをディスってるのを。
『友達もどき』『それでよく仕事が出来るな』『性格ブス』
とか、いろいろ言ってくれてるみたいだから。
『友達』とは? ってなる。
悪口と愚痴は違うものだと思ってるけど、どうやら歩結姫は同じだと思ってるみたい。
なんだかモヤッとするし、本人に言ってこないのでタチが悪い。
悪口に努力してる人といても私にはなんのメリットもない。
あるのはデメリットだけ。
本当は絶縁したい。
けど、縁切りするのを躊躇うのは、歩結姫の親には大きな借りがあるんだ。
親と喧嘩して、家出した時に匿ってくれたのが歩結姫の親だったから。
良い人達だと思う。私自身、親と向き合うきっかけを作ってくれた人達だから、尚更だ。
だけど、歩結姫からすれば私は『可哀想な人』という認識なのだろう。
親と喧嘩したり、言葉の暴力も度々あったから。
私の親は離婚して、女手一つで育ててくれた。
なので、自然とお金はかかるから仕事を優先する。
いつも家では一人だ。
仕事と育児でストレスは溜まるから、常にイライラして言葉の暴力を奮ってしまう。
心が休まる日はあんまりなかったのかもしれない。
それを聞いた歩結姫は可哀想だと思ってるらしい。
歩結姫からしたら、私は性格が悪いから友達も出来ず、一人なんだと。だから自分が友達をやってあげてるんだ。そんな風に思ってるんだろうな。
……まぁ、私も歩結姫と友達になってる理由も似たようなものだからお互い様なんだろうけど。
「おまたせしました」
定員さんがトレイにコーヒーフロートをのせて私の席の前に止まる。
営業スマイルをしながらコーヒーフロートをテーブルに置く。
ついでにと言わんばかりに歩結姫が注文をしてもいいのか聞く。
こんなことを思いたくはないけど、家族は『温かい』のに歩結姫の心は冷えきってるのかも。
……その証拠にSNSでも言っていた。『あんな性格ブスだから友達いないんだよ』って。
友達に対しての愚痴とは思えない。そもそも私は一言も友達いないって話してないし。
実際、歩結姫の他に1十人ほどリア友がいるし、ネッ友だと二十人はいるんだよなぁって思いながらそのSNSを見たっけ。
コーヒーフロートにストローを差し込み吸おうとしたら耳元で、
ーーザザザ……シ……ザザーー
という音が聞こえ、驚いて立ち上がった。
「どうしたの?」
いきなり立ち上がった私を不思議に思い、歩結姫は首を傾げた。
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