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二章 いよいよ、復讐生実況配信開始します。

オネェさんは薬剤師

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 参ったな。トラウマ化した過去を未だに夢で見続けて寝不足気味かも。

「あっ、オリビアちゃん。良かった、起きてて。寝てたらどうしようかと思ってたわぁ」
「ローガンじゃない」

 廊下を歩いていると対向から長身の男が気だるそうに頭をかきながら歩いている。

 その男は長く赤い髪を後ろに結び、前髪を横にずらしている。

 髪で隠れていた橙色のタレ目が見え、目の下にクマがあり、一体何日寝てないんだろうと心配になってしまう。

 口を開く度にギラりと鋭く尖った牙のような歯が見える。

 そんな彼はその牙を動物の肌に突き刺すとそこから血を吸う、『ヴァンパイア』でもあり、魔族唯一の薬剤師でもある。

 そんな見た目からは想像しないだろうが、ローガンはオネェだ。

 さらに胸元を開いてる服をよく着ていて目のやり場に困ってしまう。

 セクシー系な服が好きなのよね。

 更には微妙に刺青がちらっと覗いているものだから、余計にローガンを見れない。

「はいこれ。まお……っと、これは言ってはいけない約束だったわね」
「まお?」
「何でもないわよ~」

 私はローガンに水色の液体が入った小瓶を渡された。

 一瞬、何かを言いかけたローガンだったが、誰かに口止めされているらしく誤魔化された。

「それね、回復薬よ。オリビアちゃんの体質に合うように調合したの。最近、寝てないでしょ~? あたしとしては睡眠薬でも良いと思ったんだけどねぇ。寝るのはダメみたいだからぁ。悪夢、早く見ない日が来ると良いわね」
「??? その情報は誰から聞いたの? 私、誰にも話してないわよ」

 ローガンはしまったと言わんばかりに目を逸らした。

「まぁ、良いじゃないの。とりあえず貰ってちょうだい。そういうことで」

 そそくさと元来た道を戻るローガンに首を傾げる。

 ーー私が悪夢で苦しんでるの、何で分かるの……?

 一体、誰が……。

 なんて考えても仕方ない。

 私は小瓶を握る。

 そういえば今日だったわね。勇者パーティが出発するのは。

 そんな大事な日に限って、寝てしまうなんてことあってはならないもの。

 きっと、ローガンに頼んだのも私が無事に復讐を成し遂げられるようにするためよね。

 

 誰なのかは分からないし、理由はどうあれ、有難い。

 小瓶の蓋を開け、一気に飲み干す。

 味はしないものの、眠気が覚め、体調が良くなった気がする。

 よし、まだ頑張れる。

 私は気持ちを再確認したように気を引き締めた。

 ーーーーーー
 〈ローガン視点〉

 廊下の突き当たりを曲がれば魔王様が壁に寄りかかり、腕を組んでいた。

「御苦労だった」
「あんたねぇ。自分で渡しなさいよ、こっちは三日も寝てないのよぉ~?」

 清々しいほど凛としている態度に腹を立てたあたしは呆れたように毒ついた。

「む。すまん……」
「気持ちはわからなくもないけどねぇ」

 三日前、夜中に叩き起されたかと思ったらオリビアちゃんが寝不足気味だからという理由で徹夜で薬を作らされた。

 丁度、仕事が落ち着いてはいたけど、なんで人間の為にそこまでやらなくてはいけないのよ。とは思ったけれど、実験台には丁度良いと考えを改めた。

 後々人間の業者にも売り込みしたかったしね。あたしの自慢の薬を。

 その為には、人間に効くかどうか確かめる必要があったもの。

 ーーそう思って、情報収集の為に観察していたのだけど……。

 暇だからと掃除始めたり、肉食草の命懸けの餌やりしてたり、魔族の手伝いしたいからと重いものを運んでいたり。(魔法は不得意みたいで使ってない)

 部屋に閉じこもったと思ったらドワーフ村で仕入れた変な物を弄って不敵な笑みを浮かべたり。

 それが明け方まで続いてやっと就寝したかと思ったらすぐにうなされて起きての繰り返し。

 女の子なんだからもっと身体を大切になさい! と、何回も言いそうになってしまったわ。

 あの子にとっては無理をするのが当たり前だったのね。

 魔王様が心配するのもわかるわぁ。あたしも心配しちゃったものね。

「オリビアには……笑っていてほしいのだ」
「笑っていてほしいから、復讐の手伝いをするって、ズレてるとは思うわよ」
「それがオリビアが望んだことだ」

 魔王様はクールそうに見えて臆病。それはあたしが幼馴染みだからよく知っている。

 距離が近く、お互いに気を許しあえる存在。

 だからこそ、魔王様がどんなに不器用なのかをよく知っている。

 だって、現にプロポーズ失敗してるものねぇ。内容聞いたら、あれは誤解しそうだとは思ったけど、黙っておこうかしら。

「まぁいいわ。あんたがそれを望むなら、あたしはそれに従うだけのことよ」

 でも……、あたしも人の事は言えないわね。

 あたしは眉間に皺を寄せている魔王様の肩に軽くポンっと手を置き、すぐに引っ込め、作業部屋に戻ろうと廊下を歩き出した。


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