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一章 終わりから始まりへ
湖の女神が愛用していた弓矢
しおりを挟む「あ、武器屋……」
ドワーフ村から魔王城へと帰ろうと元来た道を戻っている最中、私は武器屋の前で歩みを止めてしまった。
「見たいのか?」
「い、いえ。早く……帰ってって、え!?」
寄りたいのを我慢して歩こうとした瞬間、クリムが迷わず武器屋に入ってしまった。
私は慌てて追いかける。
ーークリムの考えてることが分からない。
たまに思う。
武器屋に入ると、色んな種類の武器が並んである。
短剣や弓、剣や斧など、それも他の街では売られてない珍しいデザインのものまである。
その中でも全体的に水色で透明感がある弓矢に惹かれた。
ーーなんだろう、水みたいな……。
店主のドワーフが私に声をかける。
「気になるかい? 残念ながらこれは売り物じゃないんだよ。何せ曰く付きで、使い手を殺してしまうんだ」
「それはどういうことですか?」
「使えば使うほど、弓矢に生気を取られちまうんだ。大昔は湖の女神が愛用していたらしいが、どういう経緯で女神の元から放れ、今に至るのかはわかっちゃいない。たまに弓矢が水を纏う時があるが……弓矢が泣いていると、噂されている」
「湖の……女神」
私はフード越しで自分の頭を撫でる。
髪に違和感があった。私は髪を見られないようにフードを深く被るが、弓矢と髪が共鳴しているようだった。さらに瞳も疼き出し、咄嗟に目元を隠す。
「嬢ちゃん、どうした? 大丈夫かい」
ーー呼ばれている? 選んでほしいの?
「あの、売ってくれませんか? この武器、欲しいです」
店主は少し考えてからお金の計算をし始めた。
「そんなに欲しいなら、このぐらいは頂かないと。この弓矢を見に来る客もいるんでね」
「え!? そんなに!!?」
ぐぬぬっ。
足下を見られた。
指定された金額は日本で例えると一億だった。
そんな大金持ってるはずがない。どうしよう。日を改めて来ようかな。
「……すみません。やっぱり、遠慮しときます」
肩を落としながらも店を出るが、クリムはまだ店内にいるようだ。
外で待機していると話し声が聞こえた。
「先日、死刑にあった子覚えてる?」
「うん。たまにドワーフ村に来る子だったよね。良い子だと思ってたのに、人は見かけに寄らない」
「これだから人は信用出来ないんだよ」
「頭おかしいとしか思えないわ。なんでも重罪らしいし」
「怖いねぇ」
誰のドワーフの声なのかは分からない。皆同じに見えるし、ヒソヒソと声を潜めて話してるドワーフは見当たらない。
これも近くの森の影響かな。森にはイタズラ好きな妖精が住んでるから。
イタズラ好きな妖精は、不幸が大好物なのよね。だから嫌がることをやって楽しんでいる。
人の不幸は蜜の味って言葉があるぐらいだし、よっぽど好きなんだろうな。
フゥー……と、息をついていると頭に誰かが触れてきた。
驚いた私は小さな悲鳴をあげてその人物を見た。
「あっ、えっと……遅かったですね、気になった武器でも」
動揺しながらも一歩後退りした。
ーーえ、今、頭……撫でた?
「これを」
クリムは私が惹かれた弓矢を見せてきた。
「これっ……、どうして!?」
「欲しかったのだろう」
「そうですが、高かったはずですが」
渡された弓矢とクリムを交互に見る。
「……その弓矢がスライムに似ていたからな」
しばらく間をおいて、クリムが口を開く。
水色なら、全てがスライム似だと言い切ってそうだな。
なんて、そんなことを思ってしまう。
クリムらしい理由なんだろうけど……。なんだかなぁと呆れるを通り越して引いてしまう。
歩き出したクリムの後ろを急いで追いかける。
そして何故かすれ違うドワーフがクリムを見るや否や、顔を引きづって距離を置いたり、見て見ぬふりをしたりしてるのはどうしてなのだろう……?
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