上 下
10 / 24
一章 終わりから始まりへ

それは、かなり変わってるでしょうね

しおりを挟む
 ドワーフの村は、魔王城からはそこそこ離れており、徒歩だと10日はかかる距離だ。

 そこで瞬間魔法を使う。

 そう、私を死刑場から一瞬で魔王城まで瞬間移動させたあの魔法だ。

 だが、ここで一つ問題がある。

「これは流石に……」
「なぜだ? 可愛いではないか!!!」

 それはクリムの格好だった。

 スライムをイメージしたフード。スライム好きなのは魔族全員が知っているとはいえ、流石にこれは無いだろうと呆れてしまう。

 本人曰く、オリビアが着ないのならという理由で自分が着ていこうとしてる……らしい。

 ちらりと、周りにいる五匹のゴブリンに視線を向けると、身体を強ばらせて焦りだしたかと思ったら慌てて説得をしだした。

 私、そんなに怖いのかな……。普通だと思うんだけど、と内心複雑な気持ちになる。

 ちなみに今居る場所は私が処刑場から瞬間移動してきた部屋。

 この部屋だけ少し特別らしい。

 瞬間移動は瞬時に移動するため、肉体が持たず、死亡してしまう確率が大きい。

 肉体のダメージを極限まで抑えるために造られた部屋だそうだ。

 どういう仕組みかは企業秘密とか言われて教えてくれなかったけど。

 クリムはゴブリンの必死の説得により、渋々とフードを脱ぐ。

 仮にも魔王があんな格好してるのを想像してみてください。可愛いし目が引くと思う。

 そして好意を寄せた女性が言い寄って……って、違う!!!

 私が言いたいのはそうじゃなくて、魔王様のイメージが崩れて不信感を抱く人がいるんじゃないかと思うのよ。

 確かに魔族全員が知ってること。だけど、ここまで抜けてると分かったら絶対に何かしら思う人も増えるはずよ。

 そのうち人間にも伝わるなんてことになったら、それを使い、追い込まれて魔族が全滅……なんてことも有り得る。

 私の復讐前にそんなことになってしまったら何の為に死に戻りしたのか分からない。

 フードを脱ぎ、丁寧に畳んでソファーに置いたクリムは私の方へと向いた。

 真剣な眼差しを向けられてドキッと胸が高鳴る。

 私は首を左右に振って、胸の高鳴りを誤魔化した。

 ーー辛い恋になるのに、なんでクリムに恋をしてしまったんだろう。

 クリムは私の髪の毛を溺愛している。それがほんの一時でも私自身に向けられれば良いのにと変な期待を抱いてしまう。

 今は恋愛よりも復讐を確実なものにしたい。だから、この気持ちを必死に抑えてる。

 告白しても振られるのはわかってるから、尚更ね。

「行くぞ」
「はい」

 クリムが私の手を握ったのと同時に私とクリムがいる床に魔法陣が現れ、瞬きをした瞬間には別の場所にいた。

 店内に入っていないというのにこのは油と水と鉄のにおいがし、汗ばむような熱を感じる。

 背丈が低いドワーフたちは滅多に来ない来客の私とクリムを見るなり、怪訝そうな顔をして距離を置く。

 ドワーフは魔族なのだが、他の魔族とはあまり交流を持たない。ましてや人間なら尚更だろう。

 ドワーフの村に行くのは、冒険者と商工人ぐらいじゃないかしら。

 私も初めてドワーフに依頼した時はかなり大変だった。

 今は、ドワーフ族の長とは良い関係でいる。

「久しぶりに来たドワーフ村は随分と雰囲気が変わったな」
「そうなんですか?」

 歩きながら、ぼそっと小声で話すクリムの声を私は聞き逃さない。

「五百年以上前に来て以来だ」
「あ……はい。それは、かなり変わってるでしょうね」

 真剣に話しているクリムに私は苦笑した。

 五百年も前なら変わっていて当然でしょうに。と、内心でツッコミを入れつつも歩みを進める。

「確か……あっ、ここね」

 ドワーフの村は、同じ造りの建物が並び、ドワーフも見分けがつかない程にみんな同じ顔と服装や歩き方なので、目当ての建物を探すのに一苦労だ。

 目当ての長の家は村の奥にあるので少しだけわかりやすい。

 奥に向かえば向かうほど、建物の数が減っていくから。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

処理中です...