三度目の人生、魔王様の協力の元に死を偽装&逃亡しましたが、私自身ではなく、私の『髪』を溺愛していて困ってます

藤原 柚月

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一章 終わりから始まりへ

深い意味は無いと思う

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 灰色が混ざった黒を基準にした部屋に二人用ぐらいの天蓋付きの大きなベッドがある。

 そこに気絶したアルベイルを寝かせ、ゆっくりと布団を被せる。

 クリムは用事があるらしく、魔法で濡れていた身体を即座に乾かしてから渋々と行ってしまった。

 私も便乗してクリムの魔法で全身を乾かしてから、脱衣場に丁寧に畳んであるドレスアーマーに着替えた(クリムを見送ってから)。

 一体誰が着替えを用意したのか……と、疑問に思うのだが、気を利かせた誰かが用意してくれたのだろう。

 アルベイルなら何か知ってるのかな。起きたら聞いてみよう。

 私は一息つくと、浴室を出る際に持ってきた清潔な布を握って目を瞑る。

 水が湧き溢れるイメージで詠唱をした。

「水よ、私の声に耳を傾けよ〔 アクアスプリング〕」

 すると布が程よく濡れた。水が染み込んだ布は全ての水を吸収することが出来ずに下に垂れる。

 こんな風に冷静に集中すれば魔法を上手く使いこなすことが出来るのだが、感情が不安定になってるとどうしても魔法が暴走してしまう。

 冒険者だった時は、剣技中心だった。魔法はあまり得意じゃないからね。

 布から垂れる水を手のひらで小さなお皿をつくり、そこに落とす。再び詠唱をした。

 すると今度は水を下に垂れることをせず、重力に抗う水は意思を持っているかのように水の雫は布にしがみついていた。

 小さく詠唱をすると、ふわっと優しい風が布の周りを通り過ぎると丁度いいぐらいに布が湿っていた。水の雫はもう垂れることは無い。

 魔法の風で余分な水を回収したのだから。

 私は横になって気絶しているアルベイルの額に湿っている布を優しく乗せた。

「…………」

 微かに指先が動き、眉間に皺を寄せたアルベイルが静かに目を覚ました。

「あっ、起こしちゃった?」

 アルベイルと目が合うと私は苦笑いを浮かべ、優しく聞く。

「……大丈夫、です。はっ!? 魔王様は!!?」

 我に返ったように勢いよく上半身を起こしたアルベイルは顔を歪ませ、頭を抱えた。

 きっと、浴室で頭をぶつけたところが痛くなったのだろう。

 回復魔法が使えない私は、背中を摩ることしか出来ない。心配そうにアルベイルの顔を覗けば、かなり苦しそうにしていた。

 こんな時、回復魔法が使えたら……なんて、無い物ねだりしてしまう。

「……すみません。オリビアさん」
「ううん。大丈夫よ。気にしないで」

 涙目になりながらも頭に出来たタンコブを擦りながら謝罪するアルベイル。

「そうではなく、魔王様の失態のことです」
「ああ、気にしなくていいのに。アルベイルのせいじゃないんだから」
「で、ですが……私が目を離した隙にこのようなことを……」

 アルベイルは顔を青ざめる。そんな大袈裟な。

 この様子だと、慌てて駆けつけたんだろうな。

「あっ……そのドレスアーマー、着てくださったんですね」
「う、うん。着ちゃダメだったのかな?」
「いいえ、オリビアさんに似合うだろうからって魔王様が事前に用意した物なんです。とても良くお似合いです!」

 ふふっと微笑ましく私を見るアルベイル。

 クリムが私の為に用意したのが信じられなくて目を丸くしていると、

「それにしてもびっくりしちゃいましたよ。城に戻って早々、部下が血相変えて魔王様がオリビアさんに求婚をしています!! しかも真っ先に浴室に連れていきました!! なんて言うものだから、慌てて浴室に見に行ったんです」

やっぱり誤解されたぁぁ。クリムがあんなこと言うから。

浴室に入る前に、クリムが堂々とわたしのモノだとか散々言ってたからね。

そりゃあ誤解されてもおかしくない。

「まさか、強引に求婚を迫っているとは、我らの王たるもの情けない。ここは求婚よりも既成事実を作ってしまった方が確実なのに」

 深いため息をつくアルベイルの意味深な言動に思わず聞き返してしまった。

「何を言ってるの?」
「既成事実を……、ああ!! 安心してくださいね。魔王城に配属している魔族は皆、オリビア様を歓迎しています! なので私たちを気にかけることはありません」

 グッと親指を立ててウインクするアルベイル。

 何故かとんでもない勘違いをされてるので訂正することにした。

「私とはそんな関係じゃないわ。私を不便に思って……同情をして助けてくれただけ、深い意味は無いと思う」
「そ、そうなのですか?? ですが魔王様は満更でもないような気がしますが」
「あの人は……私の髪が大好きなだけ。私自身のことを見てはいないわ」

 そう、クリムはいつだって私の髪だけを見ているもの。

 もし、私を見ているのだとすればそれはただの同情からだと思う。

 私が偽聖女に虐げられ、王族からも蔑ろにされてる私を不便に思ってるだろうから。

 聖女を召喚した私は、偽聖女によって悪い噂を流された。それを信じた王族は私を奴隷のように従わせられた。

 噂を流した理由は、きっと自分が偽物だと密告されるんじゃないかと恐れてのことだろう。

 私が召喚した時にすぐに偽物だと気付いたのと同じように彼女もまた、怪しんでいるのを薄々気付いたんだろう。

 防衛本能で私を遠回しに精神的な攻撃をしてきた。

 でも良かった。過去の記憶を死刑になる一週間前に思い出して。

 まぁ、遅すぎな気もするけど。






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