三度目の人生、魔王様の協力の元に死を偽装&逃亡しましたが、私自身ではなく、私の『髪』を溺愛していて困ってます

藤原 柚月

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一章 終わりから始まりへ

本物の聖女はこの世に存在しない

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「これからどうするのだ? 勇者が時期に現れる。そうなってしまえば魔王城を攻め入れられるだろう」

 私の髪をお湯で汚れを流しながらクリムは聞いてきた。

 魔王城を攻め入れられるのを知っていてもクリムは冷静だ。

 いや、クリム自身が誰にも負けないと高を括っているのか……それとも、何か策はあるのか。

 どっちにしろ、私の意見を聞いた上で今後の対策を決めようとしているんだろう。

クリムが唸って、再び私の髪の毛に泡を付けるタイミングで私はゆっくりと口を開く。

「勇者がどんなに強い人でも、魔王城まで辿り着けるはずはありません」
「何故?」
「だって、はもうこの世に存在しないんですから」

 召喚された時にはは虫の息だったのだから。

 これは誰にも口外していない真実。

 には、古くからの言い伝えがある。

 異国の地より召喚されし聖女は光の力を持ち、闇に染まる街を癒し、心に傷を追う者を救い、勇者と共に魔王を倒す。

 人々にとっては救世主になる。

 その伝説を信じている王族が『聖女召喚の儀』で魔法の心得がある私が呼ばれた。

 正しくは、冒険者としての依頼を受けたとでも言えばいいのかな。

 冒険者の間では、立場を利用し好き放題する王族には必要最低限関わらず、話題にもしないのが暗黙のルールだ。

 王族からの依頼を受ける冒険者は皆無だった。

 けれど相手は王族。ずっと無視してると公開処刑になる可能性がある。

 

 冒険者代表として私が依頼を引き受けることとなったわけだけど……、報酬がかなり良かったから、お金に目が眩んでしまったのが本音だ。

 私が冒険者になったのは家が貧乏だったから。仕送りはしてるけど、それだけじゃ全然足りない。

 そんな私に依頼内容を気にする余裕なんてなかった。

『聖女召喚の儀』はの重要な役目なのだから。

 それなのに、王宮にはが一人も存在しないし、ましてや召喚士もいない。

 王族が魔力持ちを異端者扱いして忌み嫌っているからね。召喚も特定な魔法陣と召喚の技術がなければ異国から聖女を呼べない。

 だからこそ、冒険者ならば魔力持ちはそこそこいるから、依頼してきたんだろう。

 プライドが高い王族が恥を忍んで依頼したかと思ったら、民衆には最もらしい嘘を教え、冒険者ギルドには脅して口止めをした。

 ーーホント、権力に頼ってばかりなほど無能だわ。

 そして、私が聖女を召喚した。

 元々召喚の知識や技術に興味があり、勉強してたのがこの瞬間に役に立つのは名誉のことだとは死刑になるまで思ってたっけ。

 でも私は、何度同じ人生を歩もうとも召喚はしていたと思う。

 未来を変えるのは、そんな簡単なことじゃない。それをわかっているからこそ、同じ過ちをおかした。

 私が望む未来のために。

 召喚し終わった瞬間、私の歯車が大きく動き出す。

 召喚で現れたのは二人の十代前半の少女。一人目は血塗れになって倒れていて、もう一人は血が滲む鋭い凶器を持って立ち尽くしていた。

 それは時間が巻き戻る前でも同じだった。でも、早く召喚していても助からなかったような気がする。

 凶器を持った少女は何を思ったのか、この状況をすぐに理解して、自分が聖女だと名乗りでた。

 倒れている少女は聖女だと偽ったので、罰を与えたのだと。

 明らかに嘘だと思ったのだが、私以外のその場にいた人達がその嘘を信じたのだ。

 こんな状況だと私が何言っても聞く耳持たないと思ったから、呆れながら倒れている少女が生きているかどうかを確認するために近付いた。

 時間が巻き戻る前は、衝撃的な召喚すぎて思考が追いつけずあれよあれよのうちに話がまとまってしまった。

だからこそ、心構えは十分に出来たんだ。今後、自分に降りかかる悲惨な運命に。

 倒れている少女に触れると、ゆっくりと唇が微かに動いた。

 倒れている少女の唇に自身の耳を近付け、何を言ってるのか聞こうと試みる。

「…………て……ごめん……なさい。ゆる……して……」

 途切れ途切れに聞こえた声は何かの謝罪だった。詳しく聞こうとして倒れている少女の顔を見たら、目から涙を流し、息絶えていた。

 微かに感じた優しい魔力が声を通して伝わってきた。

 ーーああ、やっぱり。この人が聖女だ。

 そう確信した。

 だから、はもうこの世に存在しない。

 それが時間巻き戻る前は確認出来なかったことが後に確認がとれたということは大きな収穫。

 今後の行動が決まったのだから。

「……しかし」

 時間巻き戻る前と後の聖女召喚のことを思い出していたら、クリムは納得いかないような口調で言い出す。

「聖女ならば、その力を証明するために何かしたのだろう?」
「……はい。ありましたね。確かに証明されましたが……」

 。でも、もしも、亡くなった少女の身内や仲のいい友達が聖女だったのなら……?

 一時期ならば聖女の力を使える。

「聖女証明は、怪我をして引退した騎士の治療です。それを一瞬でやってのけましたがたまたまだと思います。その証拠に、難病を抱えた人や大怪我を負った人達の治療を一切しませんでした。聖女なら、一瞬でやれるはずなんですけど」
「……うむ。聖女は今回初めて見たのだろう? 言い伝えも間違えて伝わってしまう可能性があるだろう」

 それは私も思った。でも、んだよね。

「それは……」

 私の考えを言おうとしたら、殺気を感じて浴室の出入口を見る。

そこには、怒りを必死に抑えて仁王立ちしている十代前半ぐらいの少女が立っていた。


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