乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第十章⠀深紅の魔術士

美しい歌声

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「……失礼しました」

 マテオ様は、一瞬だけ殿下を睨んだあと、すぐに手を引いて一礼した。

 私は思わず褒め称えたい衝動に駆られてしまったが、グッと堪える。

 いや、だって……。

 マテオ様だよ!!⠀あのマテオ様なんだよ!!

 殿下が屋敷に来た時はいつも不機嫌そうにしていたり、若干距離を置いたり、さらにはとても冷たい態度を取っていた。

 殿下の心が広かったからまだ良かったものの、ほかの貴族にそんな態度を取ったら大変なことになる。毎回オリヴァーさんが怒ってたけど。

 養子として、貴族のたしなみとかいろいろ教えこまれたのかな。その証拠にものすごく礼儀正しい!!!⠀成長したんだね。感動……。

 マテオ様は私を見たあと、すぐにその場から離れていく。

 それを待ってたかのようにマテオ様の周りには頬を染めた令嬢たちが集まっていく。

「ソ……」

 殿下が口を開き、何かを言いかけた時に令嬢の一人が殿下に声をかけてきた。

 それがきっかけで次から次へと声をかけてくる。

 人気者だな。

 この世界は中世ヨーロッパ風の乙女ゲームなんだけど、夜会は存在する。

 もっとも、それは学園のみらしいけど。私たちのような魔術士の子供はパーティの参加はあまりしないので、雰囲気慣れと他の貴族との交流を深められるようにとのことらしい。

 中世は確か、十五世紀末だから夜会は行われていなかったし、パーティの流れもザックリとしていた気がする。

 本来なら十九世紀ぐらいから社交もかなり礼儀的になっていくんだよね。

 この世界が乙女ゲームだからなのか、本来の中世とは違っている。

 あまりないはずのガラスが普通に使われていて、どこにでもある。トイレだって、前世で生活していたようなトイレ構造だった。なによりも嬉しかったのはお風呂だ。

 中世では、浄水施設なんてなく、上下水道も整備されてなかった。そのため、入浴に必要な綺麗な水を確保することが難しかったけど、この世界は魔法という便利なアイテムがあるから、かなり衛生面には困らなかった。

 もっとも、状況によっては不便だけど……。

 このゲーム『クリムゾン⠀メイジ』をプレイして中世ヨーロッパのことに興味を持ったので、独学で少しだけ勉強したんだよね。

 周りを見渡すと、私と仲良くしてくれている人達は皆、貴族たちと楽しげに話し込んでいる。

 ボツンっと一人だけ取り残された感じがあるので、その空気に耐えられなくなり外の空気を吸おうと外に出た。

 あっ、しまった。イアン様に洋菓子……は、あとでいいか。

 イアン様を見ると、他の貴族たちと楽しそうに話していたから邪魔するのは申し訳ないと思った。

 テラスに出ると、外灯の光で照らされた庭が広がっていた。

 一人で外に出るのは危険だったかなって思ったけど、特に学園内なので強力な結界と警備も最低三十人以上.....いやもっと多いのかな。かなりの人数で警備してるので、大丈夫だと判断した。

 学生の貴族たちは会場内にはたくさんいてガヤガヤしていたけど、外だとかなり静まり返っていた。

 数名の貴族は庭で雑談しているけど、それでもうるさいってほどじゃない。

 パーティに慣れてないから、静かなところに来ると少し落ち着く。

 庭を散歩してようと、歩いていると庭の奥から歌声が聴こえてきた。
 一瞬、会場内に流れているBGMかな?⠀って、疑問に思ったけど会場からそこそこ距離はあったから違う。

 よく聴くと、とても懐かしい歌詞だった。

 玄人のような声量のある美しい声。

 その声に魅了されるように私は声の主の方へと歩み始める。

 慣れないヒールでヨロヨロとしながら歩く。

 足が痛くなってきた。靴擦れしてそう……。

 歩くのに必死なので心配して話しかけてくれた貴族たちに雑な対応をしてしまったけど。

 人気(ひとけ)がないところまで来ると私はヒールを脱いだ。

 だって痛いもん。

 それにほら、誰にも見られないならいいよね。

 歌声の主を確認したらすぐに離れればいいだけだし。

 前世で、とある有名声優が歌ってたアニメのキャラソンの歌詞とそっくりなんだもん。

 そんなはずはないと思うけど、もしも、私と同じ転生者だったら良いのに。

 そんなことを願いながらも奥に進んでいく。

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