この世界と引き換えに愛を乞う

seto

文字の大きさ
上 下
75 / 82

75

しおりを挟む
「‥あの、サイラス様?」

カロクは、自身をきつく抱きしめたまま動かなくなってしまったサイラスに声をかける。聞き間違いでなければ、可愛いと言われた気がする。その言葉に、ジワジワとカロクの頬が淡く染まった。

「‥‥このまま連れて帰りてぇな。」

ポツリと落とされる言葉に、今度こそカロクの頬は真っ赤に染まった。

「その、嫌ではないのですか‥?」

カロクが問う。
すると僅かに顔を上げたサイラスの灰青の瞳が、カロクを捉えた。その瞳は、いつになく嬉しそうに細められている。初めて見るサイラスの瞳に、カロクの鼓動がドキンと跳ねた。

「嫌なわけがないだろう。」

ニカリと無邪気にサイラスが笑う。
まるで少年のようなその笑顔に、カロクの心臓はドキドキと忙しなく脈を打った。鼻歌まで歌いそうな、そんな嬉しそうなサイラスを見たのは初めてだ。
カロクは落ち着かなくなって、視線を落とす。

「俺を取り上げられたら魔王に堕ちる、か。ハハッ、すげぇ殺し文句。」
「さ、サイラス様‥ッ」

改めて口にされると羞恥心がわきあがり、カロクは咎めるようにサイラスの名を呼んだ。

「こんな気持ちは初めてだ。
なぁ、カロク。俺はお前といると色んな感情を知る事が出来る。」

そう言ってサイラスが笑う。

「だがな、タガが外れて困るのはお前だけじゃない。むしろ、危険なのは俺の方だ。

お前は気づいていないが、俺はお前が思っているほど出来た人間じゃない。」

そう言ってサイラスは、カロクを背中から抱き直すとその耳に唇を寄せた。

「今の俺は、あの家庭教師と同じだ。お前を閉じ込めて、穢してやりたいとそう思っている。」
「‥‥ッ!!」

フッ、と吐息と共に吹き込まれたサイラスの言葉に、ゾクリとカロクの背が粟立った。
不意に不穏な空気を纏うサイラスに、黒鳶がギッ、とサイラスを睨む。しかしサイラスは気にすることなく、真っ赤に染まったカロクのその耳に自らの唇を寄せた。

「卒業するまでは、と思ってはいるが、お前が俺に色んな感情を与えるから、俺の方こそタガが外れそうになる。」

ゆっくりと唇で外耳を辿り、その下に下がる耳朶を食む。

「なりふり構わずお前を攫って、この腕の中に閉じ込めて。ベッドの上にお前をぬい止めて、その体ごと全てを奪いたくなる。」
「‥‥っ」

熱を帯びたサイラスの言葉が、カロクの鼓膜を震わせる。ヌルりと熱い粘膜が耳朶を這い、ジンッと甘く痺れるような快感が項をかけた。

「お前の滑らかな肌を舐めて、しゃぶって、グズグズに溶かして。お前自身が触れたことのない奥の奥まで、俺で満たしてやりたくなる。」
「は‥‥ッ」

下腹に添えられたサイラスの大きな手が、何かを教え込むかのようにグッと僅かに力が込められる。たったそれだけの事なのに、カロクはその言葉の先を想像してヒュッ、と息を飲み込んだ。

そんなカロクの様子に、サイラスはフッと苦笑を漏らす。期待と羞恥に震えるその体を、サイラスは恐怖と勘違いしたようだ。

「まぁそういう事だから、あまり俺を煽ってくれるな。」

そう言ってスッ、と離れようとするその指先をカロクは咄嗟に捕まえる。

「カロク‥?」

サイラスが問うようにその名を呼ぶ。
しかしカロクはそれに応えず、黒鳶へと視線を流した。

「黒鳶、戻れ。」

そんな主の命令に、黒鳶は不服そうに顔をしかめながらも闇に解けるようにその姿を霧散させた。カロクの意図が分からず、サイラスは首を傾げる。
しかしカロクはサイラスと視線を合わせぬまま、捕まえたその指先をキュッ、と握った。ドクドクと逸る鼓動は、まるで鼓膜のすぐ側で鳴っているようだ。けれど、このまま何も言わなければ、サイラスはまた大人の顔で離れていってしまうだろう。

「サイラス様‥」

カロクがゆっくりと視線をあげる。パチリとかち合うその視線に、サイラスは思わず怯んだ。
熱の灯った碧眼は甘く潤み、複雑に反射する7つの光がちらちらと欲を誘う。ほんのりと淡く染まった目元で、強請るように見つめられれば、サイラスの理性はぐらりと揺れた。

サイラスは決して鈍い男では無い。カロクの何かを期待するようなその瞳が、何を求めているのかぐらい理解出来る。

「‥‥ダメだ。卒業まではしないと、そう言っただろう?」

サイラスが言う。

「僕もう、子供じゃないよ?」

カロクはそう返すと、捕まえた指先に自身の指先を絡ませる。そのままゆっくりと辿るように手首へと指先を這わせると、そのままそのしなやかな指先を包む黒革の手袋の中へと自らの指先を侵入させた。

「子供だと思っていないから問題なんだ。」

サイラスが言う。
しかし焦らすように手甲を這いながら手袋を外そうとするカロクの指先を、制止する動きはない。

「‥外してよ。僕ばかり、ずるい。」
「‥‥ッ」

そう言ってカロクは手袋の隙間から除く手のひらに、自らの唇を近づける。そのままゆっくりと唇を押し付けてサイラスの硬い手のひらの感触を楽しんでから、舌先を差し出してチロリと舐めた。

「‥カロクッ。」

サイラスが咎めるようにその名を呼ぶ。
しかしカロクは意に介せず、もう一方の手で手袋を摘むようにして外すと、掌から指先へとその薄い舌を這わせた。

香り立つようなカロクの色気に、サイラスは思わず視線を伏せる。幼い頃に見たそれとは比較にならぬ妖艶さを纏うカロクに、サイラスはまんまと中心を熱くしてしまっている自身に苦笑した。仕方ない、と言い訳をする。触れなければ、この場を収めることは出来ないだろうと。

「いつの間にそんな事覚えたんだか‥。」

サイラスが言う。
オーヴァンへの言い訳は後で考えよう、とサイラスは吹っ切ると、指先を辿るその唇を割開き、口腔内へとねじ込んだ。

「‥‥なら、予行練習としようか。」

その耳元に、低く落とす。
いつになく艶っぽいサイラスの声色に、カロクはコクリと唾を飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...