57 / 82
57
しおりを挟む
慌てて立ち上がりかけて、カロクは躊躇した。こちらから連絡をやめたとはいえ、サイラスからも連絡が来ることはなかった。
元々手紙は苦手だと聞いていたが、戦争が終わった後もサイラスがエインズワース邸に訪れる事はなかった。
もしかしたらサイラスはもう、関係を切りたいのかもしれない。元々、監視対象として会っていたに過ぎなかったのだから。
その時、不意にサイラスが視線をあげた。
パチリと視線が合う。
「サイー‥」
「カロク様!!」
その時、高い声がカロクの名を呼んだ。
振り返れば、3人のご令嬢がカロクのそばに立っていた。
「‥こんにちは。」
仕方なくカロクは装いきの笑みを貼り付けて挨拶する。すると3人のご令嬢は、その頬を上気させた。
「貴女方は‥?」
「失礼致しました。わたくし、ヴァリス家の三女ディアドラ=ヴァリスと申します。」
そう言ってディアドラははにかんだ笑みを浮かべた。
ディアドラは強気な瞳の美しい女性だ。
ゲームにも彼女は登場していて、攻略対象との恋路を邪魔するライバル令嬢として描かれている。
「カロク様がこちらに向かうのが見えたものですから、ご挨拶をと思いまして‥。社交デビューは初めてでございましょう? わたくしで何か力になる事が出来ればとー‥」
ディアドラは滔々と喋り始めた。
ヴァリス公爵家は、オーヴァンに近づくなと言われていた家門だ。公国と繋がっていると噂されていたが、結局決定的な証拠をあげることが出来ずまんまと逃げられたとオーヴァンが語っていた。
だが、相手は公爵家。
格下であるカロクが邪険にしていい相手はない。
「それで、カロク様のお兄様方は婚約者を定めていないようですけれども、カロク様は?」
ディアドラが問う。
「‥私にも、婚約者はいませんよ。」
「まぁ‥!!」
カロクが答えると、ディアドラは喜色の声をあげた。あなたを選ぶことはないけれど、とカロクが心の中で付け加えた事には気づかずに。
一方的に喋り続けるディアドラを、カロクは笑顔を貼り付けたまま眺めていた。
共に来た2人のご令嬢は取り巻きか何かだろうか。ディアドラの言葉に、楽しげに相槌を打っている。
話を上手くかわす事が出来ずカロクが諦めかけた時、不意に影がかかった。
「ご歓談中、失礼。」
顔を上げれば、そこにはサイラスの姿があった。
「サイラス様‥!!」
きゃぁ、とディアドラが頬を染めながら声をあげた。イケメンなら誰でもいいのかと、カロクは内心呆れる。
「カロク、オーヴァンが呼んでいる。」
「父が‥?」
サイラスの言葉にカロクが答える。
カロクの名を呼び捨てるサイラスに、ディアドラがその長いまつ毛をはためかせた。
「おふたりはお知り合いで?」
「はい。オーヴァン、いえエインズワース侯爵と私が交流があるのでその時に。」
にこりとサイラスが微笑む。
「申し訳ありませんが、カロクをお借りしても?」
サイラスが問う。
「侯爵様にお呼びされているのであれば仕方ありません。カロク様、またお話させて下さいませ。」
そう言って頭を下げるディアドラに、カロクは微笑む。すると令嬢達の頬に赤みがさした。カロクとしては、愛想笑いを深めただけなのだが。
「はい、よろしければ。」
そう言って軽く頭を下げると、カロクは一礼してサイラスの後に続いてその場を後にした。
元々手紙は苦手だと聞いていたが、戦争が終わった後もサイラスがエインズワース邸に訪れる事はなかった。
もしかしたらサイラスはもう、関係を切りたいのかもしれない。元々、監視対象として会っていたに過ぎなかったのだから。
その時、不意にサイラスが視線をあげた。
パチリと視線が合う。
「サイー‥」
「カロク様!!」
その時、高い声がカロクの名を呼んだ。
振り返れば、3人のご令嬢がカロクのそばに立っていた。
「‥こんにちは。」
仕方なくカロクは装いきの笑みを貼り付けて挨拶する。すると3人のご令嬢は、その頬を上気させた。
「貴女方は‥?」
「失礼致しました。わたくし、ヴァリス家の三女ディアドラ=ヴァリスと申します。」
そう言ってディアドラははにかんだ笑みを浮かべた。
ディアドラは強気な瞳の美しい女性だ。
ゲームにも彼女は登場していて、攻略対象との恋路を邪魔するライバル令嬢として描かれている。
「カロク様がこちらに向かうのが見えたものですから、ご挨拶をと思いまして‥。社交デビューは初めてでございましょう? わたくしで何か力になる事が出来ればとー‥」
ディアドラは滔々と喋り始めた。
ヴァリス公爵家は、オーヴァンに近づくなと言われていた家門だ。公国と繋がっていると噂されていたが、結局決定的な証拠をあげることが出来ずまんまと逃げられたとオーヴァンが語っていた。
だが、相手は公爵家。
格下であるカロクが邪険にしていい相手はない。
「それで、カロク様のお兄様方は婚約者を定めていないようですけれども、カロク様は?」
ディアドラが問う。
「‥私にも、婚約者はいませんよ。」
「まぁ‥!!」
カロクが答えると、ディアドラは喜色の声をあげた。あなたを選ぶことはないけれど、とカロクが心の中で付け加えた事には気づかずに。
一方的に喋り続けるディアドラを、カロクは笑顔を貼り付けたまま眺めていた。
共に来た2人のご令嬢は取り巻きか何かだろうか。ディアドラの言葉に、楽しげに相槌を打っている。
話を上手くかわす事が出来ずカロクが諦めかけた時、不意に影がかかった。
「ご歓談中、失礼。」
顔を上げれば、そこにはサイラスの姿があった。
「サイラス様‥!!」
きゃぁ、とディアドラが頬を染めながら声をあげた。イケメンなら誰でもいいのかと、カロクは内心呆れる。
「カロク、オーヴァンが呼んでいる。」
「父が‥?」
サイラスの言葉にカロクが答える。
カロクの名を呼び捨てるサイラスに、ディアドラがその長いまつ毛をはためかせた。
「おふたりはお知り合いで?」
「はい。オーヴァン、いえエインズワース侯爵と私が交流があるのでその時に。」
にこりとサイラスが微笑む。
「申し訳ありませんが、カロクをお借りしても?」
サイラスが問う。
「侯爵様にお呼びされているのであれば仕方ありません。カロク様、またお話させて下さいませ。」
そう言って頭を下げるディアドラに、カロクは微笑む。すると令嬢達の頬に赤みがさした。カロクとしては、愛想笑いを深めただけなのだが。
「はい、よろしければ。」
そう言って軽く頭を下げると、カロクは一礼してサイラスの後に続いてその場を後にした。
13
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる