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ルシアン=アドラスヘイム。
アドラス帝国の第一王子で王太子。亜麻色の髪に翡翠の瞳の美青年だ。ゲームでは隠しキャラとして登場しており、全てのルートをクリアした後に攻略が可能となる。
その際兄シリルも登場するのだが、シリルが攻略対象となる事はない。追加ディスクで攻略可能になるのではと騒がれてはいたが、シリルが攻略対象になることは最後までなかった。
「聞いていた印象とは違うな。」
ルシアンが言う。
「兄がどのように申していたか分かりませんが、私はそこまで弱くありませんよ。」
「ふむ‥。」
ルシアンの言葉に、緩く笑ってカロクが答えると、ルシアンは覗き込むようにカロクの瞳を見つめる。
「何やら新鮮だな、似た顔がこうして笑みを浮かべているのは。シリルも、その下のクラウスもあまり笑わんからな。」
「‥似ていますか?」
カロクが問う。
「あぁ、眼差しがな。クラウスは侯爵似だが、シリルのその瞳は、母君そっくりだと聞いている。最も、一番母君に似ているのはそなたであろうがな。」
「そう、ですか‥。」
ルシアンの言葉に、カロクは思わずフワリと笑みを浮かべた。するとルシアンは、驚いたようにその目を見張った。
「‥なるほど。シリル、お前がカロクを隠したがる理由が分かった気がするぞ。」
「ご理解いただけて光栄です。」
そう落とすルシアンに、シリルは淡々とした口調で返す。何を分かりあったのかカロクには分からなかったが、首を傾げてルシアンを見上げると、ルシアンの喉がグッと鳴った。
カロクはゲームとは違い、男遊びも女遊びもしていない。そのためゲームの中のカロクと違い、魔性の色気は今はなりを潜めている。
しかしそれでも傾国の美姫と名高いレティシアと瓜二つのその顔は、女性だけではなく男性の視線をも集めてしまっているようだった。そんなカロクが嫋やかに微笑めば、勘違いをする輩のひとりやふたり出てもおかしくはない。
それからルシアンは、チラチラと光を弾くカロクの瞳を覗き込む。
「なるほど、美しいな。」
「恐縮です。」
本来人の目を覗き込む行為は、不作法とされている。しかし目の前にいるのは王太子。多少の無礼は許される。
それにルシアンが確認したかったのは、魔王の器であると言う証だ。であれば、カロクもその行為を黙殺しない訳にはいかない。少し鼓動が跳ねはしたが。
「カロクのおかげで、あの研究も進歩しつつあると聞いている。今まで未知であった分、新しい発見が多いと研究者が喜んでいたぞ。」
「こちらこそ、ご協力頂き感謝しております。」
そう言ってカロクは軽く頭を下げる。
カロクはその後、魔族の特性や生態を分かる範囲で王室の研究者へと提供していた。
魔族が森から出てくる事は稀だが、それでも被害はゼロではない。その性質を知る事は、王室にとってもメリットがある。
しかしカロクが魔王である事は、未だに周知はされていない。しかしそれも、こうして外に出るようになれば、徐々に広まっていくだろうとアシュクロフトは言った。
その後カロクは、シリルの知り合いやクラウスの学友、また同じ派閥で歳の近い数名と交流した。
「シリル兄さん、少し席を外しても‥?」
カロクが小声で問う。
「あぁ、少し疲れたか。向こうに休憩用のガゼボがある。休んで来るといい。」
そう言ってシリルがカロクの頭を撫でると、僅かに会場がざわめいた。
「一緒に行くか?」
クラウスが問う。
「いや、大丈夫。ありがとう、クラウス兄さん。」
ふわりとカロクが笑うと、それに合わせてクラウスもフッと口角を上げた。それにさらに会場がざわめいたが、カロクは気にしないことにした。
カロクは飲み物と少しの菓子を手にガゼボへと向かった。辺りに人の気配はなく、爽やかな風が吹き抜けていた。
今日交流した貴族の中には、乙女ゲームの攻略対象が少なからずいた。総督の息子に、第二王子。上の兄クラウスも攻略対象なので、隠しキャラのルシアンを入れれば4人だ。これに公爵の息子と学園長、さらにカロクが加わる。
「疲れたな‥」
椅子の背に体を預け、軽く首を反らして目を閉じた。吹き抜ける風が、サラサラとカロクの髪を揺らした。
どのくらいそうしていただろうか。
そろそろ戻るかと、カロクが瞼をあげると、視界の端に見た事のある外套が靡いた。カロクは無意識にその外套を追う。
「‥‥ぁ。」
思わずカロクが呟く。
視線を流したその先には、自ら連絡を絶っていたサイラスの姿があった。
アドラス帝国の第一王子で王太子。亜麻色の髪に翡翠の瞳の美青年だ。ゲームでは隠しキャラとして登場しており、全てのルートをクリアした後に攻略が可能となる。
その際兄シリルも登場するのだが、シリルが攻略対象となる事はない。追加ディスクで攻略可能になるのではと騒がれてはいたが、シリルが攻略対象になることは最後までなかった。
「聞いていた印象とは違うな。」
ルシアンが言う。
「兄がどのように申していたか分かりませんが、私はそこまで弱くありませんよ。」
「ふむ‥。」
ルシアンの言葉に、緩く笑ってカロクが答えると、ルシアンは覗き込むようにカロクの瞳を見つめる。
「何やら新鮮だな、似た顔がこうして笑みを浮かべているのは。シリルも、その下のクラウスもあまり笑わんからな。」
「‥似ていますか?」
カロクが問う。
「あぁ、眼差しがな。クラウスは侯爵似だが、シリルのその瞳は、母君そっくりだと聞いている。最も、一番母君に似ているのはそなたであろうがな。」
「そう、ですか‥。」
ルシアンの言葉に、カロクは思わずフワリと笑みを浮かべた。するとルシアンは、驚いたようにその目を見張った。
「‥なるほど。シリル、お前がカロクを隠したがる理由が分かった気がするぞ。」
「ご理解いただけて光栄です。」
そう落とすルシアンに、シリルは淡々とした口調で返す。何を分かりあったのかカロクには分からなかったが、首を傾げてルシアンを見上げると、ルシアンの喉がグッと鳴った。
カロクはゲームとは違い、男遊びも女遊びもしていない。そのためゲームの中のカロクと違い、魔性の色気は今はなりを潜めている。
しかしそれでも傾国の美姫と名高いレティシアと瓜二つのその顔は、女性だけではなく男性の視線をも集めてしまっているようだった。そんなカロクが嫋やかに微笑めば、勘違いをする輩のひとりやふたり出てもおかしくはない。
それからルシアンは、チラチラと光を弾くカロクの瞳を覗き込む。
「なるほど、美しいな。」
「恐縮です。」
本来人の目を覗き込む行為は、不作法とされている。しかし目の前にいるのは王太子。多少の無礼は許される。
それにルシアンが確認したかったのは、魔王の器であると言う証だ。であれば、カロクもその行為を黙殺しない訳にはいかない。少し鼓動が跳ねはしたが。
「カロクのおかげで、あの研究も進歩しつつあると聞いている。今まで未知であった分、新しい発見が多いと研究者が喜んでいたぞ。」
「こちらこそ、ご協力頂き感謝しております。」
そう言ってカロクは軽く頭を下げる。
カロクはその後、魔族の特性や生態を分かる範囲で王室の研究者へと提供していた。
魔族が森から出てくる事は稀だが、それでも被害はゼロではない。その性質を知る事は、王室にとってもメリットがある。
しかしカロクが魔王である事は、未だに周知はされていない。しかしそれも、こうして外に出るようになれば、徐々に広まっていくだろうとアシュクロフトは言った。
その後カロクは、シリルの知り合いやクラウスの学友、また同じ派閥で歳の近い数名と交流した。
「シリル兄さん、少し席を外しても‥?」
カロクが小声で問う。
「あぁ、少し疲れたか。向こうに休憩用のガゼボがある。休んで来るといい。」
そう言ってシリルがカロクの頭を撫でると、僅かに会場がざわめいた。
「一緒に行くか?」
クラウスが問う。
「いや、大丈夫。ありがとう、クラウス兄さん。」
ふわりとカロクが笑うと、それに合わせてクラウスもフッと口角を上げた。それにさらに会場がざわめいたが、カロクは気にしないことにした。
カロクは飲み物と少しの菓子を手にガゼボへと向かった。辺りに人の気配はなく、爽やかな風が吹き抜けていた。
今日交流した貴族の中には、乙女ゲームの攻略対象が少なからずいた。総督の息子に、第二王子。上の兄クラウスも攻略対象なので、隠しキャラのルシアンを入れれば4人だ。これに公爵の息子と学園長、さらにカロクが加わる。
「疲れたな‥」
椅子の背に体を預け、軽く首を反らして目を閉じた。吹き抜ける風が、サラサラとカロクの髪を揺らした。
どのくらいそうしていただろうか。
そろそろ戻るかと、カロクが瞼をあげると、視界の端に見た事のある外套が靡いた。カロクは無意識にその外套を追う。
「‥‥ぁ。」
思わずカロクが呟く。
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