この世界と引き換えに愛を乞う

seto

文字の大きさ
上 下
54 / 82

54

しおりを挟む
それから戦争が集結するまで、数年もかからなかった。最後まで公族は抵抗したが、魔獣にやられて疲弊した中、無傷の帝国軍を退ける力など残っていなかった。
ゲームの通り、武功をあげたのはサイラスで、騎士団長に昇格する事が決まっている。

また戦争が終結すると同時に、魔王の器について各国の上層部に公表された。公国の被害状況もあり、器の存在は実在するものとして認知されたが、その処遇については未だに議論が交わされていると言う。もちろんカロクの名を伏せての公表だったが、時間の問題だとオーヴァンは語った。

双子の侍従は目を覚ました次の日に屋敷を出た。己の力不足を痛感し、自ら王宮の暗部へと志願したと言う。オーヴァンもそれを許可し、今は王都の何処かで任務に当たっているだろうとの事だった。

そしてカロクはというと、ローレンスの死から、より人を遠ざけるようになってしまっていた。
またあの日のカロクを目にしてしまった使用人や騎士達も、積極的にカロクに近づこうとはしない。もちろん箝口令は敷いたが、まるで腫れ物に触るかのごとき扱いだ。
家庭教師は再開したが、8歳から入学が認められている小学部には入学する事はなかった。これはオーヴァンとアシュクロフトの間で取り決められた事だったが、今のカロクにはありがたかった。
戦後もサイラスからの接触はなく、またカロクからも連絡を取ろうとはしなかった。距離を置い方がいいと、互いに理解していたようだ。

そうして月日がたち、カロクは15歳になった。


来年、カロクは王立の高等学部に入学する事が決まっている。ゲームの中と同じように。
それに向け、まずは社交界へお披露目をしなければならなかった。
本来社交界デビューは12歳前後で行われる事が多い。だがカロクは、魔王の器という事、またローレンスの死から塞ぎ込むことも多かった為、見送られたのだ。
カロクとしてはこのままデビューしなくても構わないと考えていたが、さすがに高等部へ入学するにあたり、顔見せ程度はしておかなくてはならないらしい。

今日はその初めての日だ。王宮主催のガーデンパーティーらしい。
付き添いには2人の兄がついてきてくれている。

「いいか、カロク。もし何か嫌味を言われたり、無理に言い寄られたりしたらすぐに私かクラウスに言うんだぞ。」

シリルが言う。
2人の兄との仲は未だ良好だ。ローレンスの一件以来、深まったと言ってもいい。

「ありがとう、シリル兄さん。」

フッとカロクが笑みを浮かべると、横からワシッと頭を掴まれる。

「気に入らないやつがいれば、殴り倒してもいい。むしろ俺が殴ってやるから教えろ。」

そう言ってクラウスは大きな手で軽くカロクの髪をかき混ぜる。そのぶっきらぼうないい方に、フッとカロクは頬を緩める。

「ふふ、クラウス兄さんも。大丈夫、上手くやるよ。」

カロクはそう言って穏やかに笑う。
貴族の子供は社交デビューを果たすと同時にその家の名を背負う事になる。故にそこまで好き勝手振る舞う者は少ない。あくまでも少ないのであって、全くいないという訳ではないのだが。

カロクはゲームと同じように、見目麗しい青年へと成長を遂げた。冷たく見えるシリルや、勝気な印象を与えるクラウスとは違う柔らかな雰囲気を持つ美青年へと。
ゲームの中ではもう少しナンパな雰囲気を醸し出していたが、今のカロクには当てはまらない。またゲームとは違い、体も程々に鍛えていたので、線が細すぎるということも無く均整のとれた体つきをしている。
少しでもゲームの中のカロクとは別のものになろうとした結果だ。

ガーデンパーティーは、入場の際のコールがない。自由に出入りできる、緩めのティーパーティーだ。

「準備はいいか?」

シリルが問う。

「うん、大丈夫。」

そう言ってカロクがよそ行きの笑みを浮かべると、シリルが前に立ち、クラウスが横に寄り添ってくれた。
2人の兄が盾になってくれるようだ。
そうしてカロクは、シリルの後についてパーティー会場へと向かった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生当て馬召喚士が攻め度MAXの白銀騎士に抗えません

雪平@冷淡騎士2nd連載中
BL
不幸体質大学生の青年が転生したのは魔術師ファンタジーBLゲームの世界だった。 当て馬として生まれたからには攻略キャラの恋の後押しをする事にした。 しかし、この世界…何処か可笑しい。 受け主人公が攻めに、攻め攻略キャラが受けになっていた世界だった。 童顔だった主人公は立派な攻めに育っていた。 受け達に愛されている主人公は何故か当て馬に執着している。 傍観者で良かったのに、攻めポジも危ぶまれていく。 究極の鉄壁一途な白銀騎士×転生当て馬召喚士 ゲームを忠実にするためには、絶対に受けとしてときめいてはいけない。 「君といられるなら、俺は邪魔する奴を排除する」 「俺はただの当て馬でいい!」 ※脇CP、リバキャラはいません、メインCPのみです。

処理中です...