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サイラスは残された部屋で、1人虚空を見つめていた。
「俺が‥? あの子を‥?」
呆然と落とされた言葉に答える者はいない。しん、と静まり返った部屋で、秒針が時を刻む音だけが響いている。そんな中サイラスは、ラトクリフに返された言葉を反芻していた。
確かに、常であればラトクリフの言葉に反応すらしなかっただろう。それが最善だ。むしろ何故見つけた時に処理しなかったのだろうかと、今となっては疑問が残る。
自分は何故、あの時あの子供を見逃そうと思ったのだろうか。
サイラスは自身の掌へと視線を落とす。
あの時、サイラスは確かに魔族を殺そうとした。だからこそ、魔族はサイラスの手に噛み付いたのだ。
それを頭を撫でる方向へと変更したのは、カロクの殺気に興味を覚えたからだ。年端も行かぬ子供の癖に、並の騎士以上に鋭い殺気を放ったカロク。少し話をしてみたいと、そう思った。
だがその先はどうだ?
かまい続けたのは何故だ?
自分が処理すると言ったのはなんでだ?
ぐるぐると疑問が巡る。
サイラスはどちらかと言えば子供は苦手な部類だ。煩いし、鬱陶しい。特に貴族の子供は基本的に我儘だ。思い通りにならなければ泣き喚くし、優しくすれば付け上がる。
甥っ子が1人いるが、血が繋がってなければ挨拶すらしないだろう。他の子供と違って我儘を言わない、聡い子だとしても。
ならばカロクは?
「俺、は‥‥?」
サイラスはそのまま自身の目を覆った。
約束をしたから。確かにそうだ。だが、それだけでそんな面倒なことを引き受けるだろうか?
カロクを殺すとなれば、魔族とも相対する事になる。出会った時より数倍成長した脅威と。だがそれでも自分が手を下すと言った理由は?
憐憫では無い。かと言って、愛だなんて崇高なものでもない。これは、ただの執着だ。
サイラスは嫌だったのだ。あの子を終わらせるのが、自分ではないことが。あの美しい瞳に最後に映るのが、自分ではないことが。
「‥ははっ。」
思わず乾いた笑いが漏れた。
気づいてしまえば、この不可思議な感情にも納得が出来た。
初めて人の命を惜しいと思った。
面倒だとは思うのに、暇を見つけてはカロクを訪ねた。カロクの世界を拡げなくては思うのに、カロクの口から別の名前が出るのが不愉快だった。キースに至っては、何故あの場で切り捨てなかったのかと後悔した程だ。
「俺は、あの子が欲しいのか‥?」
そう呟いて、サイラスはその笑みを歪めた。
サイラスは自分が異常だと気がついていた。およそ人としての感情を持てないのだと、とっくの昔に理解していた。だから恋人は作らなかったし、婚約者も遠ざけた。それでもその見目と肩書きに寄ってくる者は多かったが、サイラスが公爵家を継がないと分かるとその足も遠のいた。それでも遊びに困らない程度には人が寄ってきてはいたが。
「‥‥いや、まだ大丈夫だ。」
ポツリと落とす。
「まだ、引き返せる。」
サイラスは続ける。
ラトクリフには、気づかれただろう。だがこの異常な感情までは悟られてはいない。
ならば、このまま仮面を被ることなど容易い事だ。ラトクリフには、少し人間らしくなったとでも思って貰おう。
「カロク。頼むから俺を選んでくれるなよ‥?」
自覚したばかりの執着。だがまだその芽は芽吹いたばかり。このままカロクを遠ざければ、サイラスはその執着を知る前の生活に戻れるだろう。カロクのその最後の瞬間さえ、手に入れられるのであれば。
「俺が‥? あの子を‥?」
呆然と落とされた言葉に答える者はいない。しん、と静まり返った部屋で、秒針が時を刻む音だけが響いている。そんな中サイラスは、ラトクリフに返された言葉を反芻していた。
確かに、常であればラトクリフの言葉に反応すらしなかっただろう。それが最善だ。むしろ何故見つけた時に処理しなかったのだろうかと、今となっては疑問が残る。
自分は何故、あの時あの子供を見逃そうと思ったのだろうか。
サイラスは自身の掌へと視線を落とす。
あの時、サイラスは確かに魔族を殺そうとした。だからこそ、魔族はサイラスの手に噛み付いたのだ。
それを頭を撫でる方向へと変更したのは、カロクの殺気に興味を覚えたからだ。年端も行かぬ子供の癖に、並の騎士以上に鋭い殺気を放ったカロク。少し話をしてみたいと、そう思った。
だがその先はどうだ?
かまい続けたのは何故だ?
自分が処理すると言ったのはなんでだ?
ぐるぐると疑問が巡る。
サイラスはどちらかと言えば子供は苦手な部類だ。煩いし、鬱陶しい。特に貴族の子供は基本的に我儘だ。思い通りにならなければ泣き喚くし、優しくすれば付け上がる。
甥っ子が1人いるが、血が繋がってなければ挨拶すらしないだろう。他の子供と違って我儘を言わない、聡い子だとしても。
ならばカロクは?
「俺、は‥‥?」
サイラスはそのまま自身の目を覆った。
約束をしたから。確かにそうだ。だが、それだけでそんな面倒なことを引き受けるだろうか?
カロクを殺すとなれば、魔族とも相対する事になる。出会った時より数倍成長した脅威と。だがそれでも自分が手を下すと言った理由は?
憐憫では無い。かと言って、愛だなんて崇高なものでもない。これは、ただの執着だ。
サイラスは嫌だったのだ。あの子を終わらせるのが、自分ではないことが。あの美しい瞳に最後に映るのが、自分ではないことが。
「‥ははっ。」
思わず乾いた笑いが漏れた。
気づいてしまえば、この不可思議な感情にも納得が出来た。
初めて人の命を惜しいと思った。
面倒だとは思うのに、暇を見つけてはカロクを訪ねた。カロクの世界を拡げなくては思うのに、カロクの口から別の名前が出るのが不愉快だった。キースに至っては、何故あの場で切り捨てなかったのかと後悔した程だ。
「俺は、あの子が欲しいのか‥?」
そう呟いて、サイラスはその笑みを歪めた。
サイラスは自分が異常だと気がついていた。およそ人としての感情を持てないのだと、とっくの昔に理解していた。だから恋人は作らなかったし、婚約者も遠ざけた。それでもその見目と肩書きに寄ってくる者は多かったが、サイラスが公爵家を継がないと分かるとその足も遠のいた。それでも遊びに困らない程度には人が寄ってきてはいたが。
「‥‥いや、まだ大丈夫だ。」
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「まだ、引き返せる。」
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ならば、このまま仮面を被ることなど容易い事だ。ラトクリフには、少し人間らしくなったとでも思って貰おう。
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