この世界と引き換えに愛を乞う

seto

文字の大きさ
上 下
15 / 82

15

しおりを挟む
目を覚ますと、見知らぬ天井がカロクの視界に飛び込んだ。鈍い頭では自分の部屋のものではない事しか分からない。

ゆっくりとまつ毛をはためかせると、首元にモゾりと何かが擦り寄った。カロクは鈍い動きでそれを確認する。
仄かに暖かく、燃え盛る炎のように鮮やかな赤色を持つ小さなトカゲ。カロクはその姿に思わず笑み崩れた。

「‥‥蘇芳。」

すると蘇芳はそのまま伸びあがって、まるで猫のようにカロクの頬へその頭を擦り寄せた。
よくよく見れば、他の光達もカロクに擦り寄るようにそばに浮かんでいるのが見える。まだ日も高いと言うのに。

「‥‥ありがとう。」

カロクが目覚めるまで、そばにいてくれたのだろう。窓から差し込む柔らかな日差しに、溶けてしまいそうになりながら。
しかし、トカゲの姿を持つ蘇芳はその日差しの中でもしっかりと形を保っていた。それどころか、擦り寄ったその感触から実態を持っている事が分かる。

そういえば、その口から火を吐いていたような‥。

そこでようやくカロクは何が起きたのかを思い出す。
思わずガバリと起き上がり、自身の身を確認する。既にその身は清められ、少しサイズの大きい服を纏っていた。その服の手触りから、質のいいものだとわかる。

カロクは恐る恐る、服をめくった。
そこにあの生々しい口紅の跡はない。
だが、夢ではないのだろうと蘇芳を見て確信する。あの日カロクは乳母に襲われたのだ。

「‥‥っ」

カロクはゾッとしてその身を抱いた。
夢現ながら、その身を苛む生々しい感触を思い出し体が震えた。

コンコン。

その時、ノックの音が響いた。
乳母、ではないだろう。彼女はノックもせずに部屋へと入ってくるから。
ならば。

「‥‥!!」

カチャリと控え目な音を立てて入室してきたのはローレンスだった。驚きに息を飲むカロクを見つけると、ローレンスは柔らかく微笑んだ。

「お目覚めでしたか。」

そう言ってローレンスはベッド脇へと移動する。その手には小さな桶に入った水、そして白いタオルがかかっている。
ローレンスはそれらをベッド脇のチェストに置くと、スっと手袋を脱いでカロクの額へと手を当てる。

「‥‥良かった、熱は下がりましたね。」

そう言ってローレンスは微笑む。

「熱‥‥?」
「はい。カロク様はあの後、熱を出されて寝込んでおられたのですよ。」

そう言ってローレンスは困ったように眉尻を下げた。

「余程ショックだったのでしょう‥。」
「‥‥っ」

その言葉に、グッとカロクの喉が鳴った。
そういえば、爆発が起こったのだった。そしてそこにローレンスと兵達が‥。
カロクの瞳にじわりと涙が滲んだ。

「もう、大丈夫ですよ。あの女は解雇しましたから。」
「じぃ‥‥っ」

カロクはローレンスの胸に飛び込み、声を殺して泣いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

転生当て馬召喚士が攻め度MAXの白銀騎士に抗えません

雪平@冷淡騎士2nd連載中
BL
不幸体質大学生の青年が転生したのは魔術師ファンタジーBLゲームの世界だった。 当て馬として生まれたからには攻略キャラの恋の後押しをする事にした。 しかし、この世界…何処か可笑しい。 受け主人公が攻めに、攻め攻略キャラが受けになっていた世界だった。 童顔だった主人公は立派な攻めに育っていた。 受け達に愛されている主人公は何故か当て馬に執着している。 傍観者で良かったのに、攻めポジも危ぶまれていく。 究極の鉄壁一途な白銀騎士×転生当て馬召喚士 ゲームを忠実にするためには、絶対に受けとしてときめいてはいけない。 「君といられるなら、俺は邪魔する奴を排除する」 「俺はただの当て馬でいい!」 ※脇CP、リバキャラはいません、メインCPのみです。

処理中です...