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ローレンスは泣き疲れて眠ったカロクをそっと抱き上げる。その汚された体が人目につかぬよう、シーツで包みながら。
その時、ヒュッと息を飲む音が響いた。
「‥‥レティ‥」
共に入室してきた男、もといこの邸の主である侯爵がその様子を呆然と眺めていた。
生まれてから初めて目にする末の息子の姿。チラリと見えたその寝顔は、幼いながらも絶世の美姫と名高い侯爵夫人、レティシアによく似ていた。
「ば‥化け物‥‥!! 化け物よ‥!! 早くそいつを殺して‥!!!」
動転した乳母が叫ぶ。
そんな乳母を凍えるように冷めた瞳で侯爵は見下ろした。
「‥‥私に相手にされないからと言って、まさか子供に手を出すとは。」
「ひっ‥‥ち、が‥っ」
言い訳を募ろうとも、状況が全てを説明してしまっている。
「‥連れていけ。」
侯爵は共に参じた騎士達にそう告げると、カロクを一瞥してから、逃げるように部屋から出ていってしまった。
「私がもう少し気をつけていれば‥」
そういってローレンスはカロクの小さな体を抱きしめた。
ここ数日、乳母がカロクにベッタリだったのは気づいていた。ようやく母性でも目覚めたのかと思っていたローレンスは、その小さな変化に気づけなかったのだ。
乳母のその目に、ほの暗い欲望が灯っている事に。
「それにしても、これは‥‥。」
ローレンスは吹き飛んだ部屋の一角へ視線を流す。まだ燻っている火が、パチンと弾けた。
「魔力暴走、でしょうか?」
騎士の1人がローレンスへと声をかける。
魔力暴走とは、魔力量の多い者が稀に起こす魔法の暴走の事を言う。大抵の場合、感情が大きく揺さぶられた際に起こるとされていて、感情の安定しない幼子が引き起こす事が多い。
部屋の惨状からみても、カロクが魔力暴走を起こしたと考えるのが妥当であった。
「随分とやつれてしまわれて‥」
そう言ってローレンスは、カロクの目尻を撫でる。そこには、幼い子供に相応しくない濃い隈が縁取られていた。
「火だけ消して、片付けは明日の朝に致しましょう。私はカロク様の体を清めたあと、どこか休めそうな部屋を探して参ります。」
幸い、当主である侯爵からは特別な指示は出されていない。であれば、ローレンスは執事であるにふさわしい行動をカロクにとる事が出来るのだ。
騎士たちもそれをわかっていて、あえて口に出さずその指示に従う。
当主の命令で、近づく事すら叶わなかった亡き侯爵夫人の忘れ形見。みな、態度にこそ出さなかったものの、ずっとその身を案じていたのだ。
だからこそローレンスは、当主にバレることなくカロクの元に通えていた。
皆が見て見ぬふりをしてくれていた、そのおかげで。
その時、ヒュッと息を飲む音が響いた。
「‥‥レティ‥」
共に入室してきた男、もといこの邸の主である侯爵がその様子を呆然と眺めていた。
生まれてから初めて目にする末の息子の姿。チラリと見えたその寝顔は、幼いながらも絶世の美姫と名高い侯爵夫人、レティシアによく似ていた。
「ば‥化け物‥‥!! 化け物よ‥!! 早くそいつを殺して‥!!!」
動転した乳母が叫ぶ。
そんな乳母を凍えるように冷めた瞳で侯爵は見下ろした。
「‥‥私に相手にされないからと言って、まさか子供に手を出すとは。」
「ひっ‥‥ち、が‥っ」
言い訳を募ろうとも、状況が全てを説明してしまっている。
「‥連れていけ。」
侯爵は共に参じた騎士達にそう告げると、カロクを一瞥してから、逃げるように部屋から出ていってしまった。
「私がもう少し気をつけていれば‥」
そういってローレンスはカロクの小さな体を抱きしめた。
ここ数日、乳母がカロクにベッタリだったのは気づいていた。ようやく母性でも目覚めたのかと思っていたローレンスは、その小さな変化に気づけなかったのだ。
乳母のその目に、ほの暗い欲望が灯っている事に。
「それにしても、これは‥‥。」
ローレンスは吹き飛んだ部屋の一角へ視線を流す。まだ燻っている火が、パチンと弾けた。
「魔力暴走、でしょうか?」
騎士の1人がローレンスへと声をかける。
魔力暴走とは、魔力量の多い者が稀に起こす魔法の暴走の事を言う。大抵の場合、感情が大きく揺さぶられた際に起こるとされていて、感情の安定しない幼子が引き起こす事が多い。
部屋の惨状からみても、カロクが魔力暴走を起こしたと考えるのが妥当であった。
「随分とやつれてしまわれて‥」
そう言ってローレンスは、カロクの目尻を撫でる。そこには、幼い子供に相応しくない濃い隈が縁取られていた。
「火だけ消して、片付けは明日の朝に致しましょう。私はカロク様の体を清めたあと、どこか休めそうな部屋を探して参ります。」
幸い、当主である侯爵からは特別な指示は出されていない。であれば、ローレンスは執事であるにふさわしい行動をカロクにとる事が出来るのだ。
騎士たちもそれをわかっていて、あえて口に出さずその指示に従う。
当主の命令で、近づく事すら叶わなかった亡き侯爵夫人の忘れ形見。みな、態度にこそ出さなかったものの、ずっとその身を案じていたのだ。
だからこそローレンスは、当主にバレることなくカロクの元に通えていた。
皆が見て見ぬふりをしてくれていた、そのおかげで。
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