竜王の花嫁

桜月雪兎

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番外

ジルフォードの恋②

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 二人は人知れず、本人たちも気づかないうちにその恋の蕾を育んできた。
 そう、リリアの事を考えて手が止まったり、ため息をついたり、顔を赤くしたりしているのに自身の恋に気づいていなかったのだ。
 リリアもリリアで恋物語のようだと客観的に考えていたのだ。
 周りはそんな二人にやきもきしていた。
 そして、この度めでたくアルシードとリンの結婚式を迎えた。
 リンはアルシードに恥をかかせたくないと貴族社会を真剣に勉強していた。アルシードも次期当主となったことで家の仕事を少しずつ任されるようになってきたのだ。
 その二人がこうしてめでたい日を迎えれることになって喜んでいた。
 そして、アルシードとリンはそのまま新婚旅行に向かった。
 それを見送ったジルフォードは一息をついた。
「アル兄、幸せそうだったな」
「そうだね」
「次は誰かしらね~」
「?誰か予定があるの?」
「ないな。クレア姉もマリアも相手はいない」
「ええ、ええ!そうですよ!!」
「なぜ、怒る?」
「今のはジル兄が悪いよ」
「そうか?」
「うん」
 グレイ兄弟たちはそんな話をしながら屋敷に戻ろうとしていた。
 そんな時ジルフォードの耳に小さな声が聞こえたのだ。それは聞き覚えがあり、どこか悲痛でか細く、ジルフォードは背中に嫌な汗をかいた。
「リリアさん?」
「ジル?どうかしたの?」
「ちょっと気になる事が出来た、マリアたちを頼む」
「わかったわ」
 ジルフォードは声のした方に向かって走った。
 そこは小さな庭園公園で、人々の憩いの場として昼間はそれなりに賑わっている場所だ。
 グレイ家があるのは下位貴族と上位貴族の居住区域のちょうど境目だ。貴族の居住区なので治安はいい方なのだがたまにバカをしでかす者がいる。
 今は結婚式が終わったばかりなので夜中だ。
 こういう時間帯はどこでも犯罪が起こりやすい。
 参列してくれた面々は貴族階級なので馬車で移動していたが、その下働きやメイドなんかは歩いて帰ることが多いので狙われやすい。
「参列した貴族の下働きなんかが襲われてたらうちの責任になる」
 こういうのはいい話のタネにされる。
 それはその家の恥になるのでジルフォードは急いでいた。いや、そう思わないと自身を保てなかったのだ。聞こえた声がリリアな気がして、その思いが強くなり、嫌な汗が止まらない。
 ジルフォードがさらに耳を澄ますと間違いなく聞きなれた声だった。
「嘘…リリアさん!」
 その声の正体を理解した瞬間、ジルフォードは声の先に弾かれるように駆けて行った。
 そこにいたのは腕に魔封じのブレスレットを付けられ、数人の男に押し倒され、乱暴をされそうになっているリリアの姿があった。
 今回、ルドワードとアリシアも式に参列してくれていた。
 さすがに最後までいることは出来なかったので、途中から名代としてリリアが参列していた。
 そして、リリアを襲っているのは男爵家や子爵家の三男以降の子息だった。
「いや…や、やめ」
「はは、さすがに魔力を封じたらただの女だな」
「楽しませてもらうぜ」
「そうそう、どうせ誰も来てはくれないさ」
「こんな夜にな。お前の主だってもう家に帰ってるしな」
 そう言ってリリアのドレスの胸元を一人が引きちぎった。そこに見えたのは色白のたわわに実った綺麗な双丘の一部だ。
「いや!…た、助けて……ジルフォード様」
「はははは!」
「叫んだって誰も来ないさ」
「……そんなわけないだろ」
「はぁ?」
 ジルフォードは男たちの背後に立った。その顔に表情はなく、鬼神のようだった。
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