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第二章
24、ジルフォードの…
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時はだいぶ遡って、アリシアとルドワードが結婚式をした直後。
ジルフォードはいつものように司書長室で仕事をしていた、アルシードに再度音の鳴る時計を設置されて。
結局、時計を外した人物をジルフォードが言わなかったので全司書たちはアルシードの怒りを抑えた言い回しと黒い笑みに震えたのは余談だ。
アリシアと面会してからそれなりに経っているが今の今まで書類に追われており、ほとんど徹夜で仕事をしていた。
だが、ジルフォードは図書館に出る司書が減らないように部下の方はしっかりと休ませている。
それが徹夜になる原因だってことも分かっているがついつい自分で片付けようとしてしまう。実はこれに対して部下たちは心苦しく思っているのに気付いていない。
それでもやっと終わりが見えてきた。
ジルフォードがそう思っていると11時を指すように時計の音が11回鳴ったので顔を上げた。
「ふ~~、何とかここまで出来た」
ジルフォードは椅子に座ったまま大きく背伸びをした。
長時間書類仕事をしていたので体が凝り固まっていた。
ジルフォードはひと段落した仕事を横目にアリシアと対面した時のことを思い出していた。
一人でいることの多い場所なので自然とジルフォードは考え事を口に出していた。
「アル兄、なんか変わったなぁ。雰囲気というか、なんというか……いや、怒らせたら怖いのは変わってなかったが」
「……うん、そこは変わってなかった。クレア姉もマリアも変わってなかった」
「花嫁様、綺麗な人だったなぁ。竜王様とセットでいると眼福だった」
「……人間てあんな感じなんだ…うん、綺麗な人がいた」
「綺麗な人って?」
「うおっ!?」
「うえっ?!」
独り言に返事か帰ってきてジルフォードはびっくりした。
声のした方を向くとそこにはジルフォードの次席の地位にいる副司書長のバロン・ユングレーが大量の書類を持ってジルフォードの席の前にいた。
バロンはジルフォードの幼馴染で虎の亜人だ。
「バロンかぁ。びっくりした」
「僕もびっくりしたよ。独り言を言っているなぁって思ったら大きな声を出すんだから」
「そりゃ、誰もいないと思っていたのに返事が来たら驚くよ」
「あ、それもそうか」
「そうだよ……って、追加分?」
「そう。サインちょうだい」
「うへぇ~~」
ジルフォードは嫌そうな顔をしながらも大量の書類に向き直った。
バロンは苦笑しながら自分でも処理できる分を受け取って、応接用の机でやり始めた。
だが、すぐにさっきのことが気になってバロンは手を動かしながらジルフォードに尋ねた。
実際、ジルフォードが他人に興味を持つのは珍しい事なので、気になったのだ。
「それで?綺麗な人って誰のこと?」
「え?」
「さっき独り言で言ってたでしょ」
「ああ、花嫁様の人間の侍女の人」
「そんなに綺麗だったの?」
「うん。なんていうかなぁ。貴族令嬢の華美じゃなくて素朴な綺麗さ?」
「え?ちょっとわかりにくいんだけど。それに華美って」
ジルフォードは貴族の贅を尽くしたような瞳に痛い『美』が好きではないのでついつい華美と言ってしまう。
ジルフォードが綺麗というのは基本的に着飾っていない素のことだ。
それを知っているのでバロンも苦笑しながら聞いている。
「華美だよ。瞳に痛い。あの人はそんな感じなかった」
「特定の人なんだ」
「うん。花嫁様も綺麗だったけど、僕はあの人の方がいいなぁ」
「ふ~~ん、珍しいね。ジルがそう言うなんて」
「そう?」
「うん。でも花嫁様以外の人間ってことは侍女なんだよね」
「そうだよ」
「名前聞いた?」
「聞いたっていうより、花嫁様が全員にプレゼントを配っていたから偶然聞こえた」
「そうなんだ。誰?」
「リリアって呼ばれてた」
「へぇ~~」
バロンは考えていた。
実は最近のジルフォードは書類仕事中でも不意に手が止まることがあった。
それは特に難しい案件の書類ではなかったのに、まぁ、司書の整理・処理する書類で難しい案件という方が珍しいのだが。
ジルフォードがそんな感じになるのは珍しく、あまつさえ他人にあまり興味を抱かなかったのに、特定の相手が気になると来たら長年の付き合いのバロンとしては気になるのだ。
「そうか、ジルは人間の方がいいのか」
「ん?バロン、どうかした?」
「ううん。なんでもないよ」
「そう言えば、アル兄がちょっと変わった」
「アルシードさんが?」
「うん。なんか花嫁様の侍女の狼の亜人のこと優しい瞳で見てた」
「へぇ~。アルシードさんにも春が来たんだ」
「はる?」
「うん、分からなくてもいいよ」
バロンは苦笑しか出なかった。
何を隠そうこのジルフォードは本が好きで司書になったぐらいなのにこういう言い回しが分からない時がある。
特に恋愛事にはかなり疎い。
バロンやアルシードはよくジルフォードが恋することはあるのだろうかと心配していたぐらいなのだ。
バロンはジルフォードの意中の相手を探ることにした。
初心で大事な幼馴染が悪い相手に引っかかっていないか心配になったのだ。
まぁ、同じ花嫁付きのマリアやアルシードに聞いたらわかるだろうってくらいの気持ちだが。
ジルフォードはいつものように司書長室で仕事をしていた、アルシードに再度音の鳴る時計を設置されて。
結局、時計を外した人物をジルフォードが言わなかったので全司書たちはアルシードの怒りを抑えた言い回しと黒い笑みに震えたのは余談だ。
アリシアと面会してからそれなりに経っているが今の今まで書類に追われており、ほとんど徹夜で仕事をしていた。
だが、ジルフォードは図書館に出る司書が減らないように部下の方はしっかりと休ませている。
それが徹夜になる原因だってことも分かっているがついつい自分で片付けようとしてしまう。実はこれに対して部下たちは心苦しく思っているのに気付いていない。
それでもやっと終わりが見えてきた。
ジルフォードがそう思っていると11時を指すように時計の音が11回鳴ったので顔を上げた。
「ふ~~、何とかここまで出来た」
ジルフォードは椅子に座ったまま大きく背伸びをした。
長時間書類仕事をしていたので体が凝り固まっていた。
ジルフォードはひと段落した仕事を横目にアリシアと対面した時のことを思い出していた。
一人でいることの多い場所なので自然とジルフォードは考え事を口に出していた。
「アル兄、なんか変わったなぁ。雰囲気というか、なんというか……いや、怒らせたら怖いのは変わってなかったが」
「……うん、そこは変わってなかった。クレア姉もマリアも変わってなかった」
「花嫁様、綺麗な人だったなぁ。竜王様とセットでいると眼福だった」
「……人間てあんな感じなんだ…うん、綺麗な人がいた」
「綺麗な人って?」
「うおっ!?」
「うえっ?!」
独り言に返事か帰ってきてジルフォードはびっくりした。
声のした方を向くとそこにはジルフォードの次席の地位にいる副司書長のバロン・ユングレーが大量の書類を持ってジルフォードの席の前にいた。
バロンはジルフォードの幼馴染で虎の亜人だ。
「バロンかぁ。びっくりした」
「僕もびっくりしたよ。独り言を言っているなぁって思ったら大きな声を出すんだから」
「そりゃ、誰もいないと思っていたのに返事が来たら驚くよ」
「あ、それもそうか」
「そうだよ……って、追加分?」
「そう。サインちょうだい」
「うへぇ~~」
ジルフォードは嫌そうな顔をしながらも大量の書類に向き直った。
バロンは苦笑しながら自分でも処理できる分を受け取って、応接用の机でやり始めた。
だが、すぐにさっきのことが気になってバロンは手を動かしながらジルフォードに尋ねた。
実際、ジルフォードが他人に興味を持つのは珍しい事なので、気になったのだ。
「それで?綺麗な人って誰のこと?」
「え?」
「さっき独り言で言ってたでしょ」
「ああ、花嫁様の人間の侍女の人」
「そんなに綺麗だったの?」
「うん。なんていうかなぁ。貴族令嬢の華美じゃなくて素朴な綺麗さ?」
「え?ちょっとわかりにくいんだけど。それに華美って」
ジルフォードは貴族の贅を尽くしたような瞳に痛い『美』が好きではないのでついつい華美と言ってしまう。
ジルフォードが綺麗というのは基本的に着飾っていない素のことだ。
それを知っているのでバロンも苦笑しながら聞いている。
「華美だよ。瞳に痛い。あの人はそんな感じなかった」
「特定の人なんだ」
「うん。花嫁様も綺麗だったけど、僕はあの人の方がいいなぁ」
「ふ~~ん、珍しいね。ジルがそう言うなんて」
「そう?」
「うん。でも花嫁様以外の人間ってことは侍女なんだよね」
「そうだよ」
「名前聞いた?」
「聞いたっていうより、花嫁様が全員にプレゼントを配っていたから偶然聞こえた」
「そうなんだ。誰?」
「リリアって呼ばれてた」
「へぇ~~」
バロンは考えていた。
実は最近のジルフォードは書類仕事中でも不意に手が止まることがあった。
それは特に難しい案件の書類ではなかったのに、まぁ、司書の整理・処理する書類で難しい案件という方が珍しいのだが。
ジルフォードがそんな感じになるのは珍しく、あまつさえ他人にあまり興味を抱かなかったのに、特定の相手が気になると来たら長年の付き合いのバロンとしては気になるのだ。
「そうか、ジルは人間の方がいいのか」
「ん?バロン、どうかした?」
「ううん。なんでもないよ」
「そう言えば、アル兄がちょっと変わった」
「アルシードさんが?」
「うん。なんか花嫁様の侍女の狼の亜人のこと優しい瞳で見てた」
「へぇ~。アルシードさんにも春が来たんだ」
「はる?」
「うん、分からなくてもいいよ」
バロンは苦笑しか出なかった。
何を隠そうこのジルフォードは本が好きで司書になったぐらいなのにこういう言い回しが分からない時がある。
特に恋愛事にはかなり疎い。
バロンやアルシードはよくジルフォードが恋することはあるのだろうかと心配していたぐらいなのだ。
バロンはジルフォードの意中の相手を探ることにした。
初心で大事な幼馴染が悪い相手に引っかかっていないか心配になったのだ。
まぁ、同じ花嫁付きのマリアやアルシードに聞いたらわかるだろうってくらいの気持ちだが。
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