竜王の花嫁

桜月雪兎

文字の大きさ
84 / 118
第二章

24、ジルフォードの…

しおりを挟む
 時はだいぶ遡って、アリシアとルドワードが結婚式をした直後。
 ジルフォードはいつものように司書長室で仕事をしていた、アルシードに再度音の鳴る時計を設置されて。
 結局、時計を外した人物をジルフォードが言わなかったので全司書たちはアルシードの怒りを抑えた言い回しと黒い笑みに震えたのは余談だ。
 アリシアと面会してからそれなりに経っているが今の今まで書類に追われており、ほとんど徹夜で仕事をしていた。
 だが、ジルフォードは図書館に出る司書が減らないように部下の方はしっかりと休ませている。
 それが徹夜になる原因だってことも分かっているがついつい自分で片付けようとしてしまう。実はこれに対して部下たちは心苦しく思っているのに気付いていない。
 それでもやっと終わりが見えてきた。
 ジルフォードがそう思っていると11時を指すように時計の音が11回鳴ったので顔を上げた。
「ふ~~、何とかここまで出来た」
 ジルフォードは椅子に座ったまま大きく背伸びをした。
 長時間書類仕事をしていたので体が凝り固まっていた。
 ジルフォードはひと段落した仕事を横目にアリシアと対面した時のことを思い出していた。
 一人でいることの多い場所なので自然とジルフォードは考え事を口に出していた。
「アル兄、なんか変わったなぁ。雰囲気というか、なんというか……いや、怒らせたら怖いのは変わってなかったが」
「……うん、そこは変わってなかった。クレア姉もマリアも変わってなかった」
「花嫁様、綺麗な人だったなぁ。竜王様とセットでいると眼福だった」
「……人間てあんな感じなんだ…うん、綺麗な人がいた」
「綺麗な人って?」
「うおっ!?」
「うえっ?!」
 独り言に返事か帰ってきてジルフォードはびっくりした。
 声のした方を向くとそこにはジルフォードの次席の地位にいる副司書長のバロン・ユングレーが大量の書類を持ってジルフォードの席の前にいた。
 バロンはジルフォードの幼馴染で虎の亜人ウェアタイガーだ。
「バロンかぁ。びっくりした」
「僕もびっくりしたよ。独り言を言っているなぁって思ったら大きな声を出すんだから」
「そりゃ、誰もいないと思っていたのに返事が来たら驚くよ」
「あ、それもそうか」
「そうだよ……って、追加分?」
「そう。サインちょうだい」
「うへぇ~~」
 ジルフォードは嫌そうな顔をしながらも大量の書類に向き直った。
 バロンは苦笑しながら自分でも処理できる分を受け取って、応接用の机でやり始めた。
 だが、すぐにさっきのことが気になってバロンは手を動かしながらジルフォードに尋ねた。
 実際、ジルフォードが他人に興味を持つのは珍しい事なので、気になったのだ。
「それで?綺麗な人って誰のこと?」
「え?」
「さっき独り言で言ってたでしょ」
「ああ、花嫁様の人間の侍女の人」
「そんなに綺麗だったの?」
「うん。なんていうかなぁ。貴族令嬢の華美じゃなくて素朴な綺麗さ?」
「え?ちょっとわかりにくいんだけど。それに華美って」
 ジルフォードは貴族の贅を尽くしたような瞳に痛い『美』が好きではないのでついつい華美と言ってしまう。
 ジルフォードが綺麗というのは基本的に着飾っていない素のことだ。
 それを知っているのでバロンも苦笑しながら聞いている。
「華美だよ。瞳に痛い。あの人はそんな感じなかった」
「特定の人なんだ」
「うん。花嫁様も綺麗だったけど、僕はあの人の方がいいなぁ」
「ふ~~ん、珍しいね。ジルがそう言うなんて」
「そう?」
「うん。でも花嫁様以外の人間ってことは侍女なんだよね」
「そうだよ」
「名前聞いた?」
「聞いたっていうより、花嫁様が全員にプレゼントを配っていたから偶然聞こえた」
「そうなんだ。誰?」
「リリアって呼ばれてた」
「へぇ~~」
 バロンは考えていた。
 実は最近のジルフォードは書類仕事中でも不意に手が止まることがあった。
 それは特に難しい案件の書類ではなかったのに、まぁ、司書の整理・処理する書類で難しい案件という方が珍しいのだが。
 ジルフォードがそんな感じになるのは珍しく、あまつさえ他人にあまり興味を抱かなかったのに、特定の相手が気になると来たら長年の付き合いのバロンとしては気になるのだ。
「そうか、ジルは人間の方がいいのか」
「ん?バロン、どうかした?」
「ううん。なんでもないよ」
「そう言えば、アル兄がちょっと変わった」
「アルシードさんが?」
「うん。なんか花嫁様の侍女の狼の亜人ウェアウルフのこと優しい瞳で見てた」
「へぇ~。アルシードさんにも春が来たんだ」
「はる?」
「うん、分からなくてもいいよ」
 バロンは苦笑しか出なかった。
 何を隠そうこのジルフォードは本が好きで司書になったぐらいなのにこういう言い回しが分からない時がある。
 特に恋愛事にはかなり疎い。
 バロンやアルシードはよくジルフォードが恋することはあるのだろうかと心配していたぐらいなのだ。
 バロンはジルフォードの意中の相手を探ることにした。
 初心うぶで大事な幼馴染が悪い相手に引っかかっていないか心配になったのだ。
 まぁ、同じ花嫁付きのマリアやアルシードに聞いたらわかるだろうってくらいの気持ちだが。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...