竜王の花嫁

桜月雪兎

文字の大きさ
68 / 118
第二章

8、マティスとアリシア①

しおりを挟む
 ルドワードたちがそんな話をしている間、アリシアの方には訪問者が来ていた。それはマティス・ウィザルドだ。
 急なマティスの訪問に困惑したのはエレナたち侍女側だった。まさか、現在はユーザリア兵であるマティスが一人で来るとは思わなかったからだ。
 ほとんどの兵士は貴族の護衛で城下に出ているし、実家の関係者である者をアリシアに合わせるのはと考えているからだ。
「えっと、会えないのか?」
「申し訳ありませんが」
「マジで?ここでも?」
「その~、勝手に入れることは」
「聞いてみてくれないか?マティスだと言えば分るから」
 引き下がろうとしないマティアスに対応しているエレナは困った。そうしているとなかなか扉から離れようとしないエレナをアリシアは不思議そうに声をかけた。
「エレナ?どうかしたのですか?」
「アリシア様、その~」
「シアか?俺だ、マティスだ」
「マティスお兄様?!」
「ああ、中に入っても良いか?」
「はい、どうぞ。エレナ、マティスお兄様は良いのです」
「分かりました。どうぞ」
 アリシアに言われ、エレナはマティスを室内に入れた。
 マティスは久しぶりすぎるいとこの姿をやっと見る事が出来ると内心大喜びだ。
「お久しぶりです、マティスお兄様」
「久しぶり、シア」
「ふふ、マティスお兄様は変わりませんね」
「シアは美しくなった。そうだ、父や兄から預かったものがあるんだ」
「預かったものですか?」
 そういうとマティスは懐からある袋を出した。それはユーザリア国民が日常的に使用している「魔袋」だ。
 これはアイテムボックスのようなもので普通の革袋のように見えるが縛り口にある魔法石の効果で持ち主の魔力に準じた収納機能を持っている。
 マティスはそこからたくさんの贈り物を出した。それはかなりの数でその場にいた全員が目を丸くした。合計30個ほどの贈り物だ。
「マ、マティスお兄様……これは…」
「会えなくなった10歳以降の誕生日プレゼントと今回の結婚の贈り物だ」
「は、8年間分のプレゼント……」
「ああ、父と兄が喜ぶだろうと今までのプレゼントを思ていくようにと言ってな」
 マティスは苦笑して説明した。そのプレゼントをアリシアは不思議そうに一つずつ開けていった。
 開けていく中にあったのはぬいぐるみやかわいい小物類に髪飾りなどの貴金属類だ。髪飾りに至っては特注品であるのが一目でわかるほどの手のいった細工に高価な魔法石で彩られている。それは見ている女性陣の関心を大いに寄せた。
 侍女たちと楽しそうにプレゼントについて話しているアリシアを見てマティスは微笑みながら涙を流した。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...