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「こちらがアイリス正妃様の遺言です」
そう言って神官長が透明の球体を両手に抱えた。
球体から光があふれ出て、一人の女性が現れた。
そう、この透明な球体は映像記録球体だったのだ。
ルーカスそっくりで正妃の衣装を着た女性、ルーカスの母であるアイリン正妃だ。
誰もが久方に見る正妃に膝をついた。
国王は背中に嫌な汗をかいた。
ルーカスは久しぶりの母親の姿に涙を浮かべた。
「…お母様……」
『私、正妃アイリンはここに遺言を残します。その前にルーカス、成人おめでとう。母はこの目でお前の成人した姿を見たかったですが叶いませんでした。ですが、貴方なら清濁併せ呑むような人物になれると母は思っていますよ』
「はい、お母様」
『さて、遺言ですね。私は母として、正妃として、成人の儀式終了後ルーカスに実家のコンラート侯爵家を継いで貰います。国王ですら異議を認めません。あの人は私と一緒になる前からすでに側妃しか興味がなく、ルーカスの名付けすらしませんでした。ルーカスの名を付けたのは私の父親であり、ルーカスの祖父であるグレゴリー・コンラート侯爵です』
「っ!」
『それに伴い、全ての遺産はルーカス・コンラートに譲渡致します。全ての遺産とはお金も屋敷も使用人も領地も領民も全てです。これをどのような事があっても国王を始めとした全ての者が奪うことを許しません』
「「「っ!?」」」
『国王がルーカスの事を良く思っていないのは知っていました。国王はあの子を王族籍から除名し、追放するでしょう』
「っっ!!」
『私は愛する我が子を護ります。なので、あの子の所有する全てのモノを奪う権利を国王を始めとした全ての者から剥奪します。これが映像記録であることの意味は分かりますよね。そうです、これはまだ私が正妃として生きている時に遺した物、正妃としての権限は有効です』
「「「「っっ!!」」」」
「お母様」
『ルーカス、追放を受けるも受けないも貴方次第です。ですが、貴方の全てのモノは持っていけます。それが出来る者も我が家の使用人にいます。ですから、貴方自身が決めなさい』
「はい」
『最後にルーカス。母は本当に貴方が成人したことを心より喜んでいます。どうか、貴方の行く末に幸多からんことを』
そして、光は収まり、アイリン正妃の姿は消えた。
そこに残ったのは静寂だけだ。
神官長は映像記録球体をルーカスに渡した。
「ルーカス様、これは唯一アイリン正妃様の姿が残っているものです。本来は王宮もしくは神殿で保管するのですが、アイリン正妃様ご本人の強い希望により貴方様に譲渡致します」
「あ、ありがとうございます」
ルーカスは球体を優しく抱き抱えた。
しかし、そんな状況を一変するように地の底より絞り出すような声がした。
それは第1王子であるザンザディールだった。
「…ふざけるな」
「ザンザディール様?」
「ふざけるな!そいつは王族籍を剥奪され、追放されたんだ!惨めに何もかもなくしてこの国を出る筈だろ!何で、何で全てを持っていけるんだ!?」
「ザンザディール」
「父上、俺にも分かりません。正妃の遺言とは云え、そこまでの拘束効力があるのですか?」
「ザンザディール、スイラント、効力はある。正妃として遺した物であるからな。それに友好国とは云え他国の主賓がいる前での発表だ、守らなければ国の威信に関わる」
「「っっ?!!」」
追放先の選定や条件を合わせた国々の主賓ではあったが、亡き正妃の遺言が発表され、それが国王たちが国々に話していた話と食い違っているのだ。
どよめきが沸き上がっているのがその証拠である。
「ルーカスよ、亡き正妃の遺言を我らは従おう。お前はどうするつもりだ」
「……………………」
「ルーカス」
国王は早急に全てを終わられなければならなくなった。
その為、ルーカスにどうするか尋ねたが返事がなかった。
訝しげに国王はルーカスを見ていると『バン!』と大きな音がして扉が開いた。
そう言って神官長が透明の球体を両手に抱えた。
球体から光があふれ出て、一人の女性が現れた。
そう、この透明な球体は映像記録球体だったのだ。
ルーカスそっくりで正妃の衣装を着た女性、ルーカスの母であるアイリン正妃だ。
誰もが久方に見る正妃に膝をついた。
国王は背中に嫌な汗をかいた。
ルーカスは久しぶりの母親の姿に涙を浮かべた。
「…お母様……」
『私、正妃アイリンはここに遺言を残します。その前にルーカス、成人おめでとう。母はこの目でお前の成人した姿を見たかったですが叶いませんでした。ですが、貴方なら清濁併せ呑むような人物になれると母は思っていますよ』
「はい、お母様」
『さて、遺言ですね。私は母として、正妃として、成人の儀式終了後ルーカスに実家のコンラート侯爵家を継いで貰います。国王ですら異議を認めません。あの人は私と一緒になる前からすでに側妃しか興味がなく、ルーカスの名付けすらしませんでした。ルーカスの名を付けたのは私の父親であり、ルーカスの祖父であるグレゴリー・コンラート侯爵です』
「っ!」
『それに伴い、全ての遺産はルーカス・コンラートに譲渡致します。全ての遺産とはお金も屋敷も使用人も領地も領民も全てです。これをどのような事があっても国王を始めとした全ての者が奪うことを許しません』
「「「っ!?」」」
『国王がルーカスの事を良く思っていないのは知っていました。国王はあの子を王族籍から除名し、追放するでしょう』
「っっ!!」
『私は愛する我が子を護ります。なので、あの子の所有する全てのモノを奪う権利を国王を始めとした全ての者から剥奪します。これが映像記録であることの意味は分かりますよね。そうです、これはまだ私が正妃として生きている時に遺した物、正妃としての権限は有効です』
「「「「っっ!!」」」」
「お母様」
『ルーカス、追放を受けるも受けないも貴方次第です。ですが、貴方の全てのモノは持っていけます。それが出来る者も我が家の使用人にいます。ですから、貴方自身が決めなさい』
「はい」
『最後にルーカス。母は本当に貴方が成人したことを心より喜んでいます。どうか、貴方の行く末に幸多からんことを』
そして、光は収まり、アイリン正妃の姿は消えた。
そこに残ったのは静寂だけだ。
神官長は映像記録球体をルーカスに渡した。
「ルーカス様、これは唯一アイリン正妃様の姿が残っているものです。本来は王宮もしくは神殿で保管するのですが、アイリン正妃様ご本人の強い希望により貴方様に譲渡致します」
「あ、ありがとうございます」
ルーカスは球体を優しく抱き抱えた。
しかし、そんな状況を一変するように地の底より絞り出すような声がした。
それは第1王子であるザンザディールだった。
「…ふざけるな」
「ザンザディール様?」
「ふざけるな!そいつは王族籍を剥奪され、追放されたんだ!惨めに何もかもなくしてこの国を出る筈だろ!何で、何で全てを持っていけるんだ!?」
「ザンザディール」
「父上、俺にも分かりません。正妃の遺言とは云え、そこまでの拘束効力があるのですか?」
「ザンザディール、スイラント、効力はある。正妃として遺した物であるからな。それに友好国とは云え他国の主賓がいる前での発表だ、守らなければ国の威信に関わる」
「「っっ?!!」」
追放先の選定や条件を合わせた国々の主賓ではあったが、亡き正妃の遺言が発表され、それが国王たちが国々に話していた話と食い違っているのだ。
どよめきが沸き上がっているのがその証拠である。
「ルーカスよ、亡き正妃の遺言を我らは従おう。お前はどうするつもりだ」
「……………………」
「ルーカス」
国王は早急に全てを終わられなければならなくなった。
その為、ルーカスにどうするか尋ねたが返事がなかった。
訝しげに国王はルーカスを見ていると『バン!』と大きな音がして扉が開いた。
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