上 下
29 / 29

28 sideナディア・俯瞰視点

しおりを挟む
貴族牢に入れられたナディアは荒れ狂っていた。
自身がアバント伯爵家を失墜させかねないことをしていたと聞かされてもナディア自身はそこまで重く受け止めていない。
そこを守るために奔走し、ナディアのために・・・・・・・・動くマリリンと言う構造は変わらない。
それがマリリンの役割だとナディアは思っていたからだ。

ナディアが受け入れられないのは子爵令嬢であったナディアよりマリリンが上の位・王族だったことだ。

「嘘よ、嘘よ、嘘よ!あの女が、あの女が…王女だなんて!ましてや、あの女の娘も王族だなんて……あり得ない!」

ナディアにして見ればスティーブンと結婚して伯爵夫人となり、生まれた子供をより上の貴族に嫁がせて自らの地位を上げること企んでいた。
勿論、スティーブンの事も愛していた。
そうでなければ、ナディアは分不相応にもっと上の位の男を漁っていただろう。

しかし、王命とは言え、スティーブンに別の女との結婚話が上がったのだ。
ナディアの心中は荒れ放題だった。
スティーブンもそんなのを納得できなかった、そのために相手であるマリリンの本当の位も聞いていなかった。

伯爵家に王族が嫁ぐことなどほとんどない。
伯爵家は王族と関われる最下位の貴族である、その下の子爵や男爵などはほとんど目にかかることなどない。
あるとすれば、叙爵じょしゃく襲爵しゅうしゃくされる時か降爵こうしゃく奪爵だっしゃくされる時ぐらいなものだろう。

あとは学園ぐらいだ。
学園には貴族の子息令嬢が集まる。
学園では確かに身分を隔てた付き合いを認めているが社交界前の練習という意味合いが大きい学園生活ではあまりその恩恵は少ない。
第一それは下の身分でも優秀な者を拾い上げる為の処置の一つでもある。

だが、稀に何を勘違いしたのか、下の身分の令嬢が上の身分の子息を手に入れようとする事件がある。
第一家同士の婚約で学園に入学する前から婚約者が決まっている場合が多いので大きな問題にもなる。
今回の件に関しては王命であるので関係ないが。

「私の方が切り捨てられていた……スティーブンを愛しているのは私なのに、サリフィアも失っていた……」

ナディアはブルリと震えた。
信じていた幸せが本当は手に入らなかったのだと教えられて。
そして、屈辱でもあった。
自身の行動がアバント伯爵家を貶めそうになり、最も憎い相手であるマリリンとその娘のエリアンティーヌに守られていたのが。

しかし、ナディアの気はすまなかった。
本当ならマリリンをもっと下にしたかった。
もしくは追い出したかった。

でも、出来なかった。
マリリンが嫁いできた時に連れてきた侍女や従者たちがそれを阻んだ。

食事の輪に入れたくなかったが、第一夫人であるマリリンやエリアンティーヌが来なければ食事が自分たちの前に運ばれなかった。
どんなに言っても、命令しても、怒鳴っても来なかった。
エリアンティーヌが来なければフォルクスも現れない始末だった。
マリリンやエリアンティーヌが自室で食べると事前に言っていた時だけ運ばれていた。

パーティーにマリリンではなく、ナディアを連れていっても二人とも入れて貰えなかった時もある。
第二夫人であるナディアは呼んでないと、ちゃんと招待状に書かれているように第一夫人のマリリンを伴うように苦言を呈された時もある。

パーティーで恥をかかせようとドレスを注文できないようにした時もあったが失敗した。
マリリンの侍女たちが事前に調べていつの間にかドレスを調達していた。
そして、そのドレスはパーティーで評判に成る程だった。

宝飾品も買えないようにしたがいつの間にか手に入れていた。
それも最先端のものを。

アバント伯爵家のお金はマリリンやエリアンティーヌに行かないようにしたのに必ず手に入れていた。
しかし、当たり前であった。
マリリン自身は商会を営む商会長である。
お金なら自身のがあるのだ。
むしろ、アバント伯爵以上の財産が。

屋敷内の使用人の半分はマリリンが連れてきた者たちなのでナディアやサリフィアたちの言うことなど聞かない。
唯一できたのが招待状を隠す事だったとも言える。
それだって見つかってしまう時があるので嫌がらせはだいたい失敗しているため、ナディアは消化しきれない不の感情が渦巻いていた。

それに来て今回、マリリンもエリアンティーヌも隣国の王族籍を持ったいることが判明し、当主として育てているつもりだった・・・・・・フォルクスにも切り捨てられた。

「何で、何でよ!フォルクスを産んだのは私よ!私が母親なのに!何で……あの女の娘にとられるの…………」

ナディアは分かっていなかった。
確かにフォルクスを産んだのはナディアだ。
だが、乳飲み子の際は同時期に出産したメイドに世話を任せ、三つになると国からも教育者に適さないとブラックリストに載っているような相手をちゃんと調べもせずに家庭教師として付け、助けを求めたフォルクスを叱り、出来ても誉めることもせずに当たり前だと、もっとちゃんとやれと言い続け、エリアンティーヌに懐くと憎たらしく思い、エリアンティーヌと同じように邪魔者のようにすればそれは嫌われる。

むしろ、暴力から助けてくれ、甘やかしてくれ、時に厳しくも導いてくれるエリアンティーヌにフォルクスが懐くのは当たり前でもある。

ナディアは自分のしてきた事がフォルクスを思っての事だと本気で勘違いしている。
両親に愛され、甘やかされ、誉められるサリフィアという比較対象がいながらそこに愛情を見出だすなど誰にだって出来ないことである。
たとえ、比較対象がいなかったとしてもナディアの行動のどれを取っても愛情を見出だすなど無理だ。

ナディアは自分の行動に反省はしていない。
何で、どうして、と頭を抱えていた。









しおりを挟む
感想 65

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(65件)

美夕
2024.10.05 美夕

ここまで来たのであと少しです。最後まで行きませんか?
更新を待っています

解除
Freyja
2024.07.22 Freyja

間が空いてもいつか更新されるかも、と思っていましたが、最後の更新からもうすぐ3年。
もう更新されないのでしょうか…

解除
sarumaro
2023.05.18 sarumaro

面白いのにー後悔or自滅談が楽しみやのにー更新止まってますねー残念

解除

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

逆行転生って胎児から!?

章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。 そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。 そう、胎児にまで。 別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。 長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

婚前交渉は命懸け

章槻雅希
ファンタジー
伯爵令嬢ロスヴィータは婚約者スヴェンに婚約破棄を突きつけられた。 よくあるパターンの義妹による略奪だ。 しかし、スヴェンの発言により、それは家庭内の問題では収まらなくなる。 よくある婚約破棄&姉妹による略奪もので「え、貴族令嬢の貞操観念とか、どうなってんの?」と思ったので、極端なパターンを書いてみました。ご都合主義なチート魔法と魔道具が出てきますし、制度も深く設定してないのでおかしな点があると思います。 ここまで厳しく取り締まるなんてことはないでしょうが、普通は姉妹の婚約者寝取ったら修道院行きか勘当だよなぁと思います。花嫁入替してそのまま貴族夫人とか有り得ない、結婚させるにしても何らかのペナルティは与えるよなぁと思ったので。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿しています。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

私、パーティー追放されちゃいました

菜花
ファンタジー
異世界にふとしたはずみで来てしまった少女。幸いにもチート能力があったのでそれを頼りに拾ってもらった人達と働いていたら……。「調子に乗りやがって。お前といるの苦痛なんだよ」 カクヨムにも同じ話があります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。