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「エリアンティーヌ様、準備が整いました」
「そろそろ、お時間です」
「はい。分かりました」

マンサール様とクリスティーナが出発の準備が出来たと声を掛けてくださいました。
出発の時のようです。
元第一王子様とは特に何も思うところはありませんでしたが、同級生であり、常に一緒に勉学に励んだアイザック様やフレデリック様とは少々寂しく思いますね。

「エリアンティーヌ嬢」
「アイザック様」
「お気を付けて。お身体をご自愛ください」
「アイザック様も無理をしすぎないように、お体にはお気を付けください」
「ええ。フォルクスもですよ」
「はい!」
「エリアンティーヌ嬢、気をつけてな」
「はい。フレデリック様も無茶をしないように、お体に気を付けてください」
「おいおい、アイザックには無理をするなと言ったのに、俺には無茶をするなかよ」
「フレデリック様は暴走しがちですので」
「……否定出来んのが悔しいな」
「ふふふ」
「フレデリック兄様もアイザック兄様も体に気を付けてね」
「ええ」
「フォルクスだけだよ!俺のことを気遣ってくれるのは!!」
「えへへ~」
「「ふふ」」

フレデリック様はフォルクスを抱きしめて嘘泣きをしています。
少々大げさなフレデリック様の行動にフォルクスは喜んでいます。
そんなやり取りは今までは日常茶飯事でしたので微笑ましく思い、私とアイザック様は笑ってしました。
この後、しばらくはこのような姿は見れないでしょうから。

本当にお時間が迫っているので、私はフォルクスとクリスティーナと一緒に籠に乗りました。
侍女や従者たちもすでに指定の籠に乗っています。
竜騎士の皆さんは自身の竜に乗りました。
アイザック様とフレデリック様は竜たちが飛び立つ邪魔にならないように離れたところに向かわれました。
少々、物悲しいように思いますが、お母様の祖国に行く楽しみも強いのです。
アイザック様とフレデリック様が手を振ってくださいます。
私とフォルクスも手を振り返しました。

私たちは飛び立ちました。
ぐんぐん上昇していますが、風や空気抵抗や気圧の変動も感じませんね。
どうやら、竜たちは人を乗せている時は無意識に風魔法で乗っている者たちを守るようです。
それは付けられた籠にも作用するようです。

アイザック様とフレデリック様がほとんど認識できないくらい上空にやってきました。

「もう、アイザック兄様やフレデリック兄様が分からないね」
「そうですわね」
「エリアンティーヌ様、フォルクス君、行きますね」
「ええ、お願いします」
「はい!」
「では……全軍!祖国ドラゴニス王国に帰還する!!」
「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」
「進軍開始!!」
『『『『ぎゃおおぉぉぉ――――――!!!!』』』』

竜たちの咆哮の後、一気に加速して進みました。
景色の移り変わりが速過ぎて、何処を飛行しているのかが全くと言って良い程分かりません。
仕方ないので私たちは籠に設置されているソファに座りました。
そうすると、クリスティーナがバスケットからクッキーと紅茶を出してくれました。

すごいですよね。
この籠は一般的に『籠』と称されていますが、形としては上部の空いた感じの楕円形ですね。
上部は完全に開いているわけではなく、大半をガラスが占め、枠となる所に軽量で特殊な鋼鉄金属を主軸とし、金や銀で飾り細工をされ、最上部に竜が持つための持ち手がついています。
ガラスの一部分は窓として開閉できるようになっています。
そして、出入り口としての扉以外はソファとなり、真ん中はテーブルとなっています。

「不思議ですね」
「エリアンティーヌ様?どうかなさいましたか?」
「いえ、竜での移動は初めてで、籠とはこのように全く揺れることもなく、空気や気圧の変動を受けないのですね」
「はい。竜が風魔法で保護しているのもありますが、この籠自体も大きな結界で守られているのです。そのため竜がどのような飛行をしましても籠が揺れることはありません」
「そうなんだ」
「はい。ですので、このようにお茶を楽しむ事もできます」
「ふふ、とても快適な旅ですね。フォルクス、クリスティーナ」
「はい!お姉様!」
「はい、エリアンティーヌ様」

私たちは速い飛行で景色が楽しめない分、クリスティーナが用意してくださったクッキーやお茶を楽しむ事にしました。
そして、どうやらこの籠にもいろんな種類があるようです。

荷物のみを運搬するための籠に、大人数用の籠に、私たちが乗っている少人数用の籠などがあります。
大人数用も、少人数用も、市民・大商会と下位貴族・中位貴族と高位貴族・王族とグレードが変わるそうです。
市民向けがアイアン、大商会と下位貴族向けがブロンズ、中位貴族と高位貴族向けがシルバー、王族向けがゴールドという風にグレード分けされているようです。

そして、現在私が乗っているのはゴールドグレードに分類される籠だとのことです。
危うく、紅茶を噴き零すところでした。
飲み込んだ後でよかったです、切実に。

確かに、腰を掛けているソファはシルクのようにサラサラで滑らかな触り心地をしていますし、しっかりとクッションが効いているようで座っていても疲れません。
各所に施されている細やかな細工は見事の一言です。

私、このような籠に乗っていていいのでしょうか?
いえ、王族籍を持っているは聞いていましても実感がありませんので、とても不安です。
私の不安が分かったのか、クリスティーナが微笑んで声をかけてくださいました。

「エリアンティーヌ様」
「クリスティーナ」
「実感があまりないでしょうが、エリアンティーヌ様は紛れもなく、ドラゴニス王国の王族籍を持つお方です。それは両国の国籍を持つことを許されているからです」
「はい」
「そうでなければ、成人の儀の日にどちらか片方の国籍を破棄することになります。それをご自身で選ばなくてはなりません」
「はい」
「エリアンティーヌ様は王命や密約が関わっていましたので何一つお教えできませんでしたが、これからは違います。ドラゴニス王国を知ってどうされるかを考えてみてください。少なくともマリリン様からいざとなった時にはエリアンティーヌ様をドラゴニス王国にお連れするように命を受けていました」
「そうなんですか?!」
「はい。ですが、エリアンティーヌ様は今まですごく頑張られていました。私たちはそんなエリアンティーヌ様を誇りに思います」
「大袈裟ですわ」
「そんな事ないです!お姉様はスゴいですよ!」
「フォルクスまで…………ふふふ、そう言って貰えると嬉しいですね」

クリスティーナもフォルクスも私を元気付けようとしてくれているみたいですね。
私が笑うと二人も笑ってくださいました。
私たちの笑い声はマンサール様にも聞こえているかもしれませんね。
少々恥ずかしくも思います。
ですが、こんなに楽しくて嬉しいことは笑顔が溢れるのだと私は知りました。







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