家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎

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「失礼します、マンサール卿」
「はい?貴方は第二王子の」
「アイザック・ディル・サルベージルです。少々その怒気を和らげていただけませんか?」
「何を……」
「いえ、お怒りは承知していますが、エリアンティーヌ嬢には少々…いえ、大分辛いと思いますので。私と弟のフレデリックが盾になっていますが、庇えきれていませんので。申し訳ないですが」
「っ!……そうですね。エリアンティーヌ様に害があってはいけません。ご忠告、感謝します、アイザック殿。申し訳ありませんでした、エリアンティーヌ様」
「い、いえ」

私が震えているとアイザック様が進言してくださりました。
私の様子を見てマンサール様は慌てられ、深呼吸を数回されてから苦笑されました。
すると、先程まで感じていた悪寒や危機感や恐怖が収まりました。

あれはマンサール様の怒気だったのですね。
さすが軍事関係の、それも戦闘に出るような方から受けるものは段違いですね。

あれがアバント伯爵やナディア様やサリフィア様に第一王子様では何とも思いませんでした。
いえ、不快感はありましたがこんな風になることはありませんでした。

「エリアンティーヌ嬢、大丈夫ですか?」
「はい、もう大丈夫です。フォルクスは?」
「ぼ、僕も……大丈夫」
「フォルクス、怖くていい。それが普通だ」
「はい」

フォルクスはフレデリック様に言われて頷きました。
そうですよね、まだ10歳ですから怖くて良いんです。
これからフォルクスはこういうのにも耐性をつけていくのでしょうね、男の子ですから。

マンサール様は私が落ち着いたのを確認されると安堵されたようです。
何故、マンサール様は私を気にかけてくださるのでしょうか?
不思議です。

「失礼、エリアンティーヌ様は何も知らないのですか?」
「何も、と言うのが何を指すのか分かりません」
「そうですね。エリアンティーヌ様とこの国の第一王子との婚約やお母上がどうしてこの国に嫁がれたのか等ですね」

マンサール様が言われたのは私が知りたかったことです。
この方は全てを知っているのでしょう。
もしかしたら、教えていただけるのかもしれません、何も知らないと言いましたら。
私はしっかりとお母様の事も、私自身の事も知りたいです。

ですが、それは国王陛下や王妃陛下にアイザック様やフレデリック様にご迷惑をおかけするでしょう。
そうしてまで知る必要はあるのでしょうか?

私が悩んでいるとアイザック様に頭を撫でられました。
アイザック様を見ると苦笑されていました。
全く、相変わらず私を子供扱いしますね……気持ちいいので困りものです。

「父上、兄上はエリアンティーヌ嬢との婚約破棄を宣言されました。このようなパーティー会場でです。証人が多すぎますのでそのままお認めになるのがよろしいかと思います」
「アイザック」
「ザック?おい、そんな事……」
「王命違反は兄上です。エリアンティーヌ嬢には何の瑕疵はありません。それにここで話を濁せば王家にこれ以上の傷と恥が増えます。ご決断を」
「う、う~む、そうだな。アイザックの言うとおりだ。この場でバラモースの有責でエリアンティーヌ嬢との婚約を白紙に戻す!」

国王陛下はしばらく悩まれるとアイザック様の進言を受け入れました。

……ん?
婚約を白紙に戻す・・・・・ですか?
宣言されたのは婚約破棄・・でしたよね?

「婚約破棄ではエリアンティーヌ嬢にまでいらない傷ができますからね。白紙にするで最初からなかった事にします。勿論、理由が理由なので兄上の有責は変わりありませんがね」
「それはありがたいのですが」
「父上、王命での婚約が白紙に戻されたのですから密約の件もエリアンティーヌ嬢にお教えするべきです。彼女は密約が関係してご自身のお母上の事をあまり教えて貰えなかったのです。もう縛る必要はないかと」
「そうだな。本当に申し訳なかった、エリアンティーヌ嬢」
「そうですわ、エリアンティーヌ嬢。ごめんなさいね」
「そ、そんな?!私なら大丈夫ですから!」

どういうことでしょう、国王陛下と王妃陛下に謝られてしまいました。
それも多くの貴族たちの前で!
王家の沽券に関わります!
周りの貴族の方々も戸惑っています。
アバント伯爵とナディア様も困惑されています。

アイザック様やフレデリック様を見ますと苦笑され、軽く頭を下げられました。
ですから、王家の沽券に関わりますので、伯爵令嬢でしかない私に謝らないでください。

マンサール様はどこか納得されたようなお顔をされてますが、あなた様の中でこの状況は正しいのですか?!

そうしていると第一王子様が大きな声を出しました。

「お待ちください、父上!」
「バラモース」
「何故、俺の方が有責になるのですか?!悪いのはサリフィアに悪行を行っていたあの女です!」
「分からんか?」
「分かりません!あんな平民の女の娘より子爵令嬢の娘であるサリフィアの方が良いに決まっています!平民の血を王家に入れる等ありえません!」
「そうです!バラモース様の言うとおりですわ!」
「本当に、バラモース。貴方はなんと愚かで嘆かわしい限りですわ」
「は、母上…」

どうやら復活されたようですね。
最後まで静かでしたら良かったのですが。

第一王子様とサリフィア様の発言を聞いて王妃陛下が扇で口許を隠しながらも不快感を滲ませていらっしゃいました。
あのお優しい王妃陛下があのようなお顔をするなんて想像も出来ませんでした。

「貴方とエリアンティーヌ嬢の婚約は王命ですよ。それを何の相談も調査も審議もなく、破棄するなどありえません。貴方たちは国王の命令を無視したのですから国家反逆罪を問われても仕方がないことですよ!例え、父親であっても王命とは国のトップとして出した命令です。国民、貴族ましてや王子である貴方さえもそれを無視、反語にすることは許されないのです!」
「そう言うことですよ、兄上。本当にエリアンティーヌ嬢との婚約を破棄、白紙に戻したかったのなら国王である父上にその意思を提示し、然るべき調査のもとするのが普通です。それをせずにこのようなパーティー会場でエリアンティーヌ嬢の誇りに傷をつけるような行いは許されません」
「ましてや兄、上はエリアンティーヌ嬢に対して王子では許されていない権限を行使しようとした、越権行為も先程あったからな」
「それも罪に問われます。貴方はただ自身の我が儘を通そうとしているだけです。王族としても貴族としても許されないことです」
「全く、何故お前だけがそうなんだ」
「っっ!!」

何とも悔しそうですね、第一王子様は。
王妃陛下をはじめご家族全員から呆れられ、怒りを向けられているのです。
少々(?)プライド・自己顕示欲の強い方ですので、堪えているのでしょうね。

「バラモースとの婚約は白紙に戻ったのだ。全てを周知する必要があるようだ。エリアンティーヌ嬢自身も知りたかったであろう密命と王命とエリアンティーヌ嬢とマリリン夫人の事をこの場で話そう。よろしいかな、エリアンティーヌ嬢、マンサール卿」
「私はエリアンティーヌ様のお心のままに。こちらの事情に関しましては補足いたします」
「私は…」

この場で、国王陛下より教えていただけるのですね。
私が長年知りたかったことが。
と言うことは、もう、説明できない事情はなくなったのですね。
知りたいです、お母様の事も、私自身の事も。

「教えて下さい……お母様の事も全て」
「うむ」







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