家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎

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「大丈夫ですか?エリアンティーヌ嬢、フォルクス」
「はい、ありがとうございます。アイザック様、フレデリック様」
「大丈夫です」
「大分好き勝手したようだな、クソ兄貴。王命違反だぞ!それにエリアンティーヌ嬢を国外追放などクソ兄貴にはそんな権限与えられていないだろうが!明らかな越権行為だ!」

アイザック様とフレデリック様の登場で衛兵の方々は下がりましたわ。
あの方々も仕事ですので戸惑いながらも渋々行動されたようですし、止めが入るのを見越しての行動なのでしょう。

あと、フレデリック様は相変わらず口が悪いですわ。
でも、この場で全く取り繕っていないところを見ますと相当怒っているのですね。
アイザック様も咎めませんし。

「アイザック、フレデリック」
「どういうつもりだ、クソ兄貴」
「返答次第では容赦できませんよ」
「ふん!そいつがこのサリフィアを虐め、俺を侮辱したのだ、当たり前だろ」
「馬鹿か?最初にエリアンティーヌ嬢の母君を侮辱したのはクソ兄貴だろ。反論されて仕方ないことだ!」
「ええ、それに有耶無耶にしようとしているのでしょうが、あなたはまず王命違反の罪があります」
「それさえも問題ない筈だ。サリフィアもアバント伯爵家の者だ。アバント伯爵家の血を入れるだけならサリフィアと婚約すれば良いだけだ」
「はい?」
「何言ってんだ?」

アイザック様とフレデリック様も呆然としてしまいました。
確かに何度も第一王子様が言うようにアバント伯爵家の血を入れるためならサリフィア様でも構いません。

しかし、特に秀でた功績もない、こう言っては何ですが領地も平凡で特産などがあるわけでもなく、他国との貿易をしているわけでもない我がアバント伯爵家の血を王家に入れる意味はありません。

それでも長子であり、長女であるサリフィア様ではなく、私が産まれて間もない時に王命で婚約したのです。
そうであるなら唯一の理由がお母様の方の血である可能性が高いと、あまり我が事ながら説明されていない私でも判断できましたが、方便ではなく、本当に第一王子様は分かっていないのでしょうか?

「まさか、貴方は王命の真の意味を理解していないのですか?」
「え?!嘘だろ!あり得ないぞ!あれほど、父上が説明したのにか?」
「な、何を言っているんだ?王命の真の意味?」

どうやら、第一王子様とアイザック様、フレデリック様の双方で齟齬が起きているようですね。
と言うより、王命の真の意味とは何でしょう?
私も知りませんよ、何やらお母様の事も含まれるようで説明されてませんから。

他の貴族たちも再度困惑しているようでザワザワとしています。
展開が二転三転しているのでどうすれば良いのか判断が追い付かないようです。
それに関しては私もなんですがね。

そんな中で国王陛下と王妃陛下が入場されました。
その後ろには2人の騎士服の方がいますが、1人は護衛と言うわけではないようです。
護衛の服とは違いますから。

「間に合ったのか、アイザック、フレデリック」
「はい。父上、母上」
「ですが、どうやら……兄…上は、王命の真の意味を理解していないようです」
「何?」

フレデリック様が言葉を改めました。
そうですよね、流石に両陛下の前では無理ですよね。
かなり危ないようでしたが。
さっきの間はそう言うことでしょう。

しかし、国王陛下はフレデリック様の隠れた言葉を些末の事としているようです。
それより重要な案件がありますから。

「残念ながら、事実のようです。アバント伯爵家の血を王家に入れるのが目的だと思っているようでその発言も聞いています。この場の者全てが」
「なんと?!」
「嘆かわしいわ!」
「ち、父上?母上?」

両陛下が頭を抱えてしまいました。
第一王子様が両陛下の姿に戸惑っているようです。
サリフィア様も雲行きが怪しくなったのを感じ取り、右往左往しています。
私はと言うとフォルクスの手を握り返しています。
実は私もどうして良いのか分からなくなってきたのです。

「バラモース。あれほど、エリアンティーヌ嬢との婚約の意味を説明したのに何一つ分かっていなかったのか」
「父上、たかだか何処かの国の大商会の娘の子であるエリアンティーヌと我が国の子爵家の娘の子であるサリフィアであればサリフィアを選ぶのが普通ではありませんか?王命と言いますがアバント伯爵家の血を入れるためなのでしょう?」
「バカモーーーン!!」

国王陛下の大音声の怒声が響きました。
耳が痛いです。

多くの貴族は急な国王陛下の怒りに震えています。
私はフォルクスの手前、全神経を費やして平静を装っていますが。
アイザック様とフレデリック様に王妃陛下はいつもの事のようで呆れ返っています。

「エリアンティーヌ嬢、大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「いや、大丈夫じゃないだろ。父上の大声など耳が壊れかねない」
「本当は?」
「耳が痛いですし、怖いです」
「フォルクスはどうだ?」
「僕もです」
「だよな」

第一王子様はついでに拳骨も貰ったようです。
国王陛下は昔、武術に長けており、現在も鍛えているようであまり衰えたようには見えません。
かなり痛い音がしました。
第一王子様は頭を押さえてうずくまっています。

そうしていると、騎士服の1人の方が国王陛下のもとに向かいました。

「これは一体どう言うことでしょうか?デルタモーラス国王」
「ヴォルグレット・マンサール卿」
「話が違うようですが?私たちは貴国との密約のために大切なマリリン様、ひいては御息女のエリアンティーヌ様にこの国へ嫁いでいただいたわけで、このような仕打ちを受ける謂れはない筈です」
「うむ…」
「それにあまりにも不誠実ではありませんか?要はエリアンティーヌ様の義姉であるあの娘と浮気をし、一緒になりたいが為にエリアンティーヌ様を悪者に仕立てあげようとしているだけではありませんか!」
「っ!申し開きもない」

何でしょう、この方はどうやら我が国の方ではないようです。
それに密約の事も知っているようですし、もしかしたらお母様のご実家のある国の方なのでしょうか?
いえ、それより国王陛下が謝られています。
あの方の方が国王陛下より立場が上なのでしょうか?

私は困惑を隠せませんでした。


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