家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎

文字の大きさ
上 下
3 / 29

2

しおりを挟む
何も言えなくなった第一王子様とサリフィア様を私は観察しています。
すでに騒ぎになっていますし、警備の方が現状を説明しに向かったのを視界の端に見えていましたので国王陛下を始めとした王族の方々が駆け込んでくるのはすぐでしょう。

特にこれ以上何かあるとは思わなかったのですが、どうやらそうでもないようです。
貴族たちの冷ややかな視線を気にしないようで第一王子様がまた大きな声を出しました。

「とにかく!貴様の悪行は分かっているんだ!」
「ですから、それは何ですか?」
「貴様がサリフィアにした事だ!暴言に暴力、侍女を使っての器物破損など上げればきりがない!全てサリフィアから報告が入っているんだ!」
「…………」

何でしょう、サリフィア様から報告があったとしてその詳細を調べてないのでしょうか?
そうであればただの冤罪です、と言うより完璧な冤罪ですわね。
私には身に覚えがありませんので……いえ、違いますわね。
それら・・・は私がサリフィア様やナディア様にされてきたことです。

成る程、ご自身たちが行ってきた事を私がしたように報告したのですね。
お母様が嫁ぐ際に一緒に来てくれた侍女や従者たちとフォルクス以外にあの屋敷で私の味方などいませんから証言もされましょう。
父である(父と思っていませんが)アバント伯爵も私の事が疎ましいようです。

ですが、アバント伯爵は跡継ぎであるフォルクスが私に一番懐いているので下手に行動できないようですが。
お腹を痛めて産んだフォルクスが私に一番懐いているのをナディア様は認められないようですが、フォルクスの前で私に何かしようものなら嫌われるので隠れてしています。
ですが、お母様について来てくれた侍女や従者たちは優秀ですぐに対処してくださいます。
どうやらそれも気に入らないようですが。

「バラモース様、私怖いのです。あのような妹といるのは」
「可哀想に、サリフィア。すぐに終わらせるよ」
「はい」

なんと言いますか、馬鹿らしい三問芝居ですね。

「よって、貴様と婚約を破棄する!」
「王命の件、お忘れですか?」
「ふん!サリフィアもアバント伯爵家の令嬢だ。アバント伯爵家の血を王家に入れると言う目的であるのだから相手はサリフィアで問題ない。それにサリフィアの母君の実家は我が国の子爵家、たとえ栄えていようと貴様の母親のような他国の商会の娘とはわけが違う!王家に何処の者かも分からないような血を入れるわけにはいないんだ!」
「バラモース様」
「……………………」

…………許せないですわね。
ええ、許せませんわ!
私の事はどのように言われようともお母様の事を悪く言われるのは許せませんわ!!

確かに私のお母様は他国の大商会の娘とされていますが本当にそのような方が傾いているわけでもない伯爵家に嫁ぐでしょうか?
それも私より先に身籠った相手がいる家に、第一夫人として。

答えは否です!

大商会の方だってそんなこと望みませんよ!
娘が苦労するのが分かりきっているのに!
それにあれだけの侍女や従者を雇い、お母様や私の面倒をみせますか?
我がアバント伯爵家の侍女や従者の半分はお母様のご実家がお母様と私の世話をさせるために用意した方々です。
そして、その給金はお母様のご実家が払われています。
ですので、私の味方の方々はアバント伯爵家の命令を聞かなくても問題がないのです。

何よりおかしいのが、私はお母様の実家を知りません。
なにやら私の婚約同様、お母様の方も王命と言うか何やら密約が執り行われている可能性があるのです。

侍女や従者たちが今は許可が出てないので話せないと、お母様の話をあまりしてくださいませんので。
しかし、その時の表情があまりにも悔しそうで、辛そうで、悲しそうで、心苦しくそれ以上聞けませんでした。

「訂正してください!私のお母様は第一王子様に卑下されるような方ではありませんわ!!」

私は淑女としての矜持を棄てて大声を出しました。
当たり前です、自身のお母様を侮辱されて許せるはずがありません。

しかし、それを狙っていたのでしょう。
第一王子様とサリフィア様がニヤリと厭らしい笑みを一瞬見せました。

「ああ、怖いわ!助けてください、バラモース様」
「勿論だ。貴様、本性が現れたようだな!それもこの俺を見下したような物言い、不敬罪にあたる!貴様のようなやつは即刻国外追放だ!」
「っ!」

なんと言う言いがかりなのでしょう!
侮辱されたのは私の方ですわ!
それで国外追放だなど、第一王子様にそのような権限ある筈もありませんのに!

しかし、相手は第一王子様なので貴族たちの態度も私に非があるようなものに変わってきています。
単純に一令嬢でしかない私より今は理不尽でも第一王子様につく方が懸命と判断されたのでしょう。
あとはあえてどちらにもつかず沈黙を保ち、我関せずに徹するようです。
アバント伯爵とナディア様ならずっと私たちのやり取りを見て厭らしい笑みを浮かべて見ていますよ、人の輪の中から。
ですので、現状に私とフォルクスの味方はいません。

「お姉様」
「フォルクス」
「大丈夫です、お姉様。必ずアイザック様やフレデリック様が助けてくださいます。僕ではまだ力不足で申し訳ありませんが」
「いいえ、ありがとう。フォルクス」

フォルクスが強張った私の手を握ってくれました。
本当に紳士に育ってくれて私は嬉しいです。
フォルクスのお陰で頭に上っていた血が下がり、冷静になりました。

フォルクスの言うように王族の方々が来られれば流れは変わる筈です。
何より第二王子であるアイザック様と第三王子であるフレデリック様は学園でも同級ですし、仲良くさせていただいています。

「早くその無礼者を国外に連れ出せ!」
「「「「「っ!」」」」」

衛兵の方々が困惑しています。
そうですわよね、第一王子にそんな権限などありません。
ですが、王族であるのでその命令を無視するわけにもいかないのでしょう。
衛兵の方々が出来るのはせいぜい私を王城より連れ出す位です。

私と私を守ろうとしているフォルクスを囲むように戸惑いながらゆっくりと衛兵の方々が動いていると。
バンッ!と扉が開く……いえ、破られるような音がしました。

そして、私たちの前に二人の男性が現れました。

「そこまでです!一体、どういうつもりですか?!」
「何考えてるんだ!クソ兄貴!!」

そこに現れたのは第二王子のアイザック様と第三王子のフレデリック様でした。
私とフォルクスはお二人の姿が現れてホッと安堵したのです。







しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後

オレンジ方解石
ファンタジー
 異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。  ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。  

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

処理中です...