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第一章

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これは日本でのことだった。

週始めの月曜日、大半の者が面倒臭く、休み後の気だるさを残しながら出勤や通学をしている朝の出来事だ。

いつものように使い慣れた電車で大学の最寄り駅に向かっていたその時、いつも以上・・に騒がしい車内に首を傾げながら辺りを見渡すと刃物を持った男がそれを振り回しながら走ってきていた。

(マジかよ?!)

俺を見つけると男は不気味に嗤い俺に迫ってきたので対峙することになった。
死に物狂いで刃物を避けていたが、あまりにも男の血走った目に臆してしまい、足を縺れさせ、餌食になってしまった。

俺に馬乗りになり、何度も刃物で滅多刺しにされた。
男は狂気に嗤いながら、血走った目から涙を流し、俺にしか聞こえない程の声量で独り話していた。

「何で裏切った」
「あんなに愛し合っていたのに」
「愛しているのに」
「捨てるなんて」
「絶対に許さない」

これらのことを聞いて意識が遠退いていく中で俺は理解した。

(こいつ、フラれたショックで相手を間違えていることに気づいてない)

そして、気付いた。
こいつは俺の幼馴染みの一人であるクズのオモチャにされた一人だと。

俺たちが何度諌めても聞きやしないクズ男に無理やり体を暴かれ、自己防衛でクズ男を愛してしまったこの男の事を俺は哀れに思っていた。
だから、それなりに気にもかけていた。

(散々尽くしていたのに、あのクズ、ついに捨てやがったな)

「なんで、なんで」
「…………」

言葉なんて思い付かない。
哀れな男だ。
本当はノーマルだったのに、あのクズ男に目をつけられたがために道を大きく外してしまった。

(俺が最後にしてやれるのは何もないのかもしれない、それでも……)

俺は更に俺を刺そうとした男の顔を両手で包み、額に口付けをした。
突然のことで男は驚き、止まった。

「助けて、やれ、なくて…すまなかった」
「……あ、あ、あああ!か、海斗、君」
「大丈夫、大丈夫だ」
「ごめん、ごめん、ごめんなさい」
「あんたは…なにも、悪くないよ」
「わあああああ!!」

俺は男を抱き抱え、その頭を撫でた。
男は正気に戻ったらしく、何度も謝りながら泣き崩れた。
異様な光景だろう。
刃物を振り回し俺を滅多刺しにした男を俺が慰めているんだから。

しかし、救いだったのは事情を知る友人たちが近くにいたことだ。
俺がそちらを向くと彼らは頷き、駆け寄ってきた。

「海斗」
「この人を、頼む」
「「「ああ」」」
「海斗君」
「あんたは、悪くない。あのクズが悪いんだ」
「海斗、君」
「さあ、こっちに悪いようにはしない。あなたは被害者だよ」
「ああ、全てはあいつが悪いんだ」
「大丈夫だから」

やっと納得してくれたらしく、俺に頭を下げてから友人たちに連れられて男は離れた。

「海斗」
「まったく、あのクズは……痛い目に合わないと、分からないんだろうな」
「だろうな」
「あとは、任せた」
「ああ、助けれなくて、ごめん」
「気にするな」

友人たちから申し訳なさそうに謝れ、見守られる中で俺の意識は途絶えた。

俺は死んだ。

それで終わるはずだったのだが、何故か明るい光が指し、目を開けると数人の人物に土下座をされていた。

(なんだこの光景?)


========================

R3/5/8

一部抜けていたので足しました。
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