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使用人とハンスに連れられて来たリリィシア、屋敷の者が全員集まったことを確認して、バルトは口を開いた。

「全員揃ったな」
「はい。ご当主様」

ハンスが答えるとバルトは頷いた。
使用人たちは無言だったが心の中ではこの急な召集に疑問を持っていた。
バルトの横ではアルティドール公爵家の女主人であるクリスティーヌが頭を抱えており、公爵令嬢であるマリアンナは不機嫌なのを露にしている。
そんな中でバルトの宣言は皆を驚かせた、リリィシア以外の。

「リリィシアは我がアルティドール家の長女であるため、今後の接し方を改めるように!」
「「「「「「っ?!!」」」」」」
「(・_・?)」

使用人全員は寝耳に水の話だ。
その宣言が確かなら使用人たちは今まで公爵令嬢を下女以下の扱いをしていたと言うことになる。
リリィシア本人だけが分かっていないが。

「分かったな、リリィシア。お前は我がアルティドール公爵家の長女だ。これからはそれ相応の生活等をするのだ」
「(・_・?)」
「返事をしないか!!」
「…………(―Ⅲ―;)」

リリィシアは困ってしまった。
リリィシアにとってバルトは会うこともない雇い主だった。
それが急に親だと言われても正直戸惑いしかない。

それ以前にリリィシアは親というものが分からない。
『働かざる者食うべからず』という風に一人で動けるようになってからずっと働いていた。
それでもまともな食事をしたことがない。
腹に入れば全て一緒、毒も泥水も腐った物も。
残飯が出れば豪華な方だと認識するぐらいに。

勿論、丁寧に仕事を教えてもらったわけではない。
睨まれ、怒鳴られ、暴力を振るわれながら見て、真似をして覚えていったのだ。
リリィシアは声を出すだけで殴られたこともあり、誰も教えなかったので話すことも出来ない。

親など知らない。
家族など知らない。
優しさなど知らない。
人の温もりなど知らない。
愛情など知らない。

だから、悲しみも知らない。
苦しみも知らない。
怒りも知らない。
憎しみも知らない。
痛みですら日常茶飯事だったので忘れてしまった。

良い事も、悪い事も、何も知らない、分からない、忘れてしまった子なのだ。

「リリィシア!!」
「ご当主様」
「なんだ、ハンス」
「…………リ、リリィシア…様は、言葉を話せません。誰も教えませんでしたし、必要としませんでしたので……ご当主様自らが必要ないと、喋る事を禁じました」
「なっ!?…………そ、そうだったな。リリィシア、これより喋る事を解禁する」
「…………(゜-゜)(。_。)」

ハンスはものすごい葛藤の末にリリィシアの事を公爵令嬢として、自分たちが仕える対象として対応した。
バルトがそう宣言した以上、準じなければ暇を出される可能性が出たからだ。
ハンスの対応を見て他の使用人たちも理解した。
そうしなければならないことを。




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