転移先で頑張ります!~人違いで送られたんですけど?!~

桜月雪兎

文字の大きさ
上 下
40 / 105
第一章

39、ジャックと①

しおりを挟む
 俺は食堂に着くとカルーラに今日狩ったラビッティアの肉を渡した。
「お帰り、マコト」
「ただいま、カルーラ。ラビッティアの肉で何か作ってよ。ジャックと飲むから」
「おうよ。任せておけ」
「頼んだ」
 俺はそういってジャックの座っている席に向かった。
 俺に気付いたジャックは手を挙げてくれ、俺はそれに手を挙げ返して、席に着いた。
「お疲れさん」
「ああ、今カルーラにラビッティアの肉渡したから何か作ってくれる」
「おお、ラビッティアの肉か、いいなぁ。何が出てきてもカルーラならうまい」
「そうだな」
 俺はユキを隣の席に座らせた。それを見ていたジャックが話しかけてきた。
「天狼だよな」
「ああ、そうだぞ。ちゃんと許可貰っている」
「知っている。その指輪で証明されているからな」
「そっか」
「ああ。ここに来てだいぶ経ったが慣れたか?」
「ああ、みんなが良くしてくれるからな」
「それは良かった」
 ジャックは俺のこと優しい瞳で見ていた。
 だいぶ俺のことを気にかけてくれていたようだ。そのことに俺は内心感謝している。ここで出会う人は心の優しい人が多い。カルーラやアキラさんにジャックもしかり、何かと俺やユキのことを気にかけてくれる。
 日本ではそんなことなかった。人との関係が希薄になりつつある日本では自分のことは自分でするしかなかった。
 俺はここに来て人の温かみを知ったような気がする。いや、元は温かったのだが、成長していく過程でどんどん冷めていき冷たくなってきたのだ。寂しいことだ。
 そんなことを話しているとク・エールとラビッティアの野菜炒めが出てきた。ユキにはラビッティアのステーキ(下味なし)が出された。
 ユキはそれが来ると一目散に食べ始め、俺とジャックはそれを微笑ましく見た。
 そして俺とジャックはク・エールで乾杯した。
「俺はここにこれてよかったと思う」
「急にどうした?」
「俺のいた場所は人の温かみのない場所だった。ここに来てそれを体験して嬉しいんだ」
「そうか。人の温かみのない場所か」
「物は有り触れているが人との関わりが薄い。親しい人だけの世界、知らない人には見向きもしない、冷めた世界だった」
「そうか、なんだか物悲しいな」
「ああ」
 俺は酔いに任せて日本を思い出をジャックに話した。そうだ、物悲しいほど人との関係が希薄になっていく、それが普通になっていっていた。今考えると寂し過ぎる。だからだろう、ここでの生活が時々心を熱くさせるのは。
 そんな俺の話をただ黙って聞いてくれるジャックは本当に優しい人だと思う。
「ここの生活が合っているんなら嬉しいよ」
「うん、ここはいい街だよ」
「ああ、いい街だよな」
 俺はしみじみ言うジャックを見た。ジャックは苦笑しながら話してくれた。彼自身の過去を。
「俺はもともとここの出身じゃないんだ」
「え?」
「俺は王都の生まれでな。異動でこの街に来た」
「異動?」
「ああ、上司と合わなくてな。ヤツは自分のミスを俺に押しつけやがった。あいつのせいで俺はこんな田舎の方に来たって最初は思っていた。実家からは縁切りされたし、嫁さんは子供を連れて出ていった」
「……」
「だがな、異動当初から荒んだ俺を温かく迎え入れてくれたんだ、ここの人たちは」
「うん」
「荒んだ俺を見放さないでいてくれたんだよ、ここの人たちは。ここでの上司とはウマが合ってな。色々一緒にしているうちに俺はここが好きになった。ここが俺の故郷になっていた」
「ああ」
「昔、王都に帰れる機会があったんだ。俺の無実を俺の同僚と部下が証明してくれて、あいつは除隊、俺は王都のもと居た警備隊に戻れることになった。家族も俺を迎え入れるって言ってきた」
「迎え入れるって」
 俺は絶句した。間違いが正されたら許すって、それを信じてジャックを捨てたんだから謝る方ではないのかと疑問に思った。
 ジャックはそんな俺の考えが分かったのか苦笑した。
「俺は考えた末にここに残ることにした、もちろん、実家のことも嫁さんのことも白紙に戻さなかった。無実を証明してくれた同僚や部下には悪いと思ったがな」
「復縁しなかったのか?」
「ああ、もう俺は家族を信じれなかった。何かあればまた縁を切られるってわかっているからな」
「そうだな」
 なんとも悲しい話だ。でも、俺のいた世界でもまれにそういう話を聞いたことがあった。それはその家の価値観だが悲しいものは悲しい。
「だからこそ、マコトの気持ちもわかる。ここはいい街だし、いい人たちがいる」
「ああ……その後、同僚たちとは?」
「ん?たまに連絡を取っているぞ、遊びにも来るしな」
「そうか」
「ああ」
 俺たちはちょっとしんみりしながらク・エールを一口飲んだ。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...