妹の身代わりとされた姉は向かった先で大切にされる

第一章

５０

ヴァルファス公爵家に戻ってきた面々はアイリスをアイリスの部屋のベッドに寝かし、そのベッドに腰掛けながら何とも言えないため息をついた。

それもそうだろう。
言及するはずだったアルバも虐待の被害者だった。

いくら、実行犯であるサマンサ夫人とアイリーンを極刑にできてもやりきれない思いは残っている。
証言者もアルバの虐待の一因であったので、実刑を受けた。

元クリムゾン伯爵家の使用人たちは発覚したアルバの虐待の一因として順次逮捕され、実刑を受けるようになった。

「カイル」
「分かっています、父上。こればっかりは受け入れるしかありません。国王様にも諭されましたし」
「そうですね。国王様の言うように、虐待の連鎖を断ち切ろうとしていたのでしょうね。あの男は」
「だろうな。しかし、世の中とは思い通りにいかないものだ」
「ううーーん」

しんみりしながら３人が話しているとアイリスが目を覚ました。

「アイリス」
「カ、イル」
「目が覚めたかい？」
「うん！」

アイリスは元気良く頷いた。
それを見た３人は微笑んでいた。

アイリスはクリムゾン伯爵家の令嬢に正式に戻ることになった。
それでもカイルの『番』なので、生活事態はヴァルファス公爵家になっている。

カイルはアイリスを抱きしめた。
アイリスは不思議そうにしながらカイルを抱き締め返した。

アイリスが抱き締め返したことが嬉しくてカイルは頭をアイリスにスリスリと犬がマーキングするように、甘えるように頬擦りをし、尻尾は勢い良く降られている。
それこそブンブンと音がするほどに。
されているアイリスはくすぐったそうに笑っている。

「ふふふ。くすぐったい」
「「ふふふ」」

そんなカイルとアイリスを見ているヴァルファス公爵夫妻は微笑ましそうに微笑んでいる。

「アイリス。君を幸せにするよ、絶対に」
「ん？……はい」

カイルが真剣に、だけど優しく宣言するとアイリスは良く分からなくて不思議そうにしていたがカイルの優しい微笑みに頷いた。

それからアイリスはカイルやルドルフにリリーシアをはじめとしたヴァルファス公爵家の全員に惜しみ無い愛情を貰いながら生活をしている。

読み書きを覚えたアイリスは本が好きになった。
絵本を卒業し、挿し絵が入った小説なども読むようになった。

ルドルフと国王と王妃にターニャ女医たちで話し合いながら、アイリスの事情などを理解し、優しく教えてくれる家庭教師などもつけた。

アイリスの成長は早い方だった。

区切ったり、単語だけだったりした喋り方は段々と少なくなり、しっかりと会話が出来るようになった。

「カイル様、今日は計算と歴史を学びましたわ」
「そうかい。計算はしっかりと身に付けないとね。適切に領内の経済が回っているかを調べたり、どこに多くの支出や収入があったかを調べたりなど数字は僕たちの生活に欠かせないからね。ひいては領民のためにもなるからね」
「はい！」
「歴史はなかなか興味深い所もあるし、過去から学ぶこともあるよ。過ちを繰り返さないためであったり、必要な政策を発見したりね」
「はい。それでてすね……」

アイリスはその日学んだことをカイルに報告するのが日課になった。

二人は決まって温室のソファーに寄り添いながら座り、お茶や茶菓子等を摘まみながら話している。

そんな二人の基本はカイルがアイリスを抱き抱えるようにして座っている。
カイルの腕はアイリスを片時も離さないように抱き締めているので、時折アイリスがカイルの口元にクッキーや一口大のケーキを運んでいる。

「カイル様、このクッキー美味しいですよ」
「そうか、なら、僕にも」
「はい。あーん」
「あーん…………うん、我が家のシェフはピカ一だね」
「はい！」

クッキーや一口大のケーキより甘い二人がそこにいた。
それを微笑ましく見ているのはカイルの従者とアイリスの侍女たちだ。

（（（（（（お二方とも仲良くて、眼福！））））））

今日もヴァルファス公爵家は平和である。