妹の身代わりとされた姉は向かった先で大切にされる

桜月雪兎

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第一章

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泣き続けるアルバを凝視していたのはルドルフとカイルにターニャ女医だった。
アイリスは難しい話が続いてしまっていたので完全に眠ってしまっていた。

それを見ていた国王はルドルフたちに声をかけた。

「ヴァルファス公爵よ。何も罰することだけが全てではない。生きていることを大罪と申したあの者もまた虐待の被害者よ。愛する者を奪われる苦しみも、奪った者の子供を愛せないのも誰しもがそうではないか?」
「国王様」

ルドルフもカイルも国王が言いたいことはわかっている。
だけど、気持ちが追い付かないのだ。

国王とてそれには気づいている。
だが、このまま裁判を終わられては禍根かこんが残る。
それだけはダメだと判断したのだ。

「あの者の行動を、更なる虐待と取るか、逃げと取るか、はたまた新たな被害者を出さないための行動と取るかは取る者の心次第よ」
「「……………」」
「憎い相手の子だ、関わっては手をあげかねなかったのではないか?そうなれば新たな被害者を産む事になる。他者が手を出したことで被害者になってしまったが、そうならなかった場合は」
「あの者自身が、新たな被害者を産み出していた」
「そうだ。それも自らが被害者を生まないための逃げとも取れる。しかし、ワシはそれを悪いこととは思わん」
「国王様」

国王の言うように逃げととらえることも出来る。
しかし、感情とは難しいもので思い通りにはならない。
憎いが守りたい、大切だが傷つけてしまいかねない、そのための逃げは確かに悪いことではない。

「そなたたちの報告にあったように、アイリス嬢同様、やっとあの者も生まれ直しが出来たのではないか?」
「生まれ直し、ですか?」
「そうだ……しかし、皮肉なものよな。アイリス嬢も3つまでは愛情を知っていた。あの者も」
「…………」
「そなた等からしたら一緒にして欲しくはないかもしれんが、今回の一連の騒動はアルバ・クリムゾンから始まったのだろう。あの者への虐待から」
「…………そうかもしれませんね」

ルドルフもカイルも頷いた。
アルバの罪を問うために連れてきた証人が、アルバを歪ませた原因の1つだった。

アルバの言うように1つの面だけで物事は成り立っていない。

浮かんできた現実はアルバもまた虐待の被害者だったと言う現実だ。
生きることを大罪と思う程の苦しみの中で今もなお生き続けている。

「あの者が生きることを大罪と思う限りこれは罰よ。だがな…………いつか、生き続けることが罪でなくなることをワシは願う」
「そうですね」
「父上」
「カイル。今回のこと、実行者を極刑にしたことで納めよう。負の連鎖を断ち切らねばならない」
「わかっています。ですが……」
「アイリス嬢への接触禁止としたいのだろうが、それはアイリス嬢本人が決めなければならない。それにアルバ・クリムゾン自身がアイリス嬢と会うことを望まないだろう。あの者は罪への意識があまりにも強い」
「…………それもそうですね」

カイルは今も崩れ落ち、オリバーたちに支えられて泣いているアルバを見た。
13年もの間、アイリスとアルバは同じ屋敷に居ながらほとんど会わなかったのだ。

そんなアルバが自らヴァルファス公爵家に来て、アイリスに会おうとするとは到底考えられなかった。
だから、カイルは頷いた。








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