妹の身代わりとされた姉は向かった先で大切にされる

第一章

４６

「ランドロール、そなたが隷属魔法に従ったのは何のためだ」
「それは……アイリスお嬢様を、クリムゾン伯爵家にお戻しするために」
「他には？」
「……………アルバ様を死なせないために」
「「「「「？！」」」」」

誰もがランドロールの言葉に驚いた。
隷属魔法をかけた本人を死なせないために従順していた。

それ以前に何故アルバがかけたランドロールの隷属魔法で死ぬのか分からなかった。

普通に隷属魔法をかけた当人に相手が命令違反をしたからと言え、死ぬことはない。
かけられた本人が死ぬことになっても。

それを説明したのはランドロールだった。

「私の隷属魔法には私の命とアルバ様の命をかけられています。私が違えば私とアルバ様は隷属魔法の効果で死にます。最初はそれでアイリスお嬢様とマリア奥様をクリムゾン伯爵家にお戻し出来るのならと考えました。しかし、マリア奥様から全てを教えられ、アルバ様を守るように言われました。死なせてはならないと」
「マリア」
「ですから、アルバ様から経営を学び、それを悟られないように演技を学びました。それによりアイリスお嬢様を苦しめたのは私の罪です」
「そうさせてのは私です。ですから、国王様、ランドロールには恩情を」
「うむ。二つの命をかけられては違たがうことなど出来ぬよな。やはり、ランドロール。そなたの処遇を変える事はない」
「っ！」
「それにそなたはアルバ・ナーシェル子爵が死ねばアイリス嬢への虐待が酷くなり、アイリス嬢が死ぬことになると知っていたのであろう」
「はい。アルバ様の目がなくなれば、アイリスお嬢様を殺して後継者を失ったクリムゾン伯爵家を親戚筋としてアイリーンお嬢様が継げるようにしようとサマンサ様とアイリーンお嬢様が画策しているのを聞きました」
「「っっっ！！！」」
「やはりな」

国王は大罪人であるサマンサ夫人とアイリーンを睨み付けた。
その睨みに二人は震えた。

それだけではない。
ランドロールに計画を知られていたことを初めて知ったのだ。

国王は次にアルバの判決を言い渡すことになった。
 
「アルバ・ナーシェル、そなた自身への判決はクリムゾン伯爵家に帰属し、領地経営を行うように。勿論、アイリス嬢の代理として」
「「「「「「「「？！」」」」」」」」
「な、なぜ？！」

誰もが国王の判決に驚きを隠せなかった。

それではアルバは無罪放免ではないかと。
ヴァルファス公爵家側は特にそう思った。

アルバ自身も国王の判決にはじめて青ざめた。
それは許されるものではないと思ったからだ。
王妃は国王を見て苦笑していた。

全てを見守っており、伴侶である国王を理解する者として。

「はじめて、青ざめたな。アルバ・ナーシェルいや、アルバ・クリムゾン」
「っ！」
「死を望むそなたにはやはり生き続けることが罰になるようだ」
「っっっ！！！」
「そなたは子爵家と伯爵家、双方の領地経営を両立しておった。その手腕、失うのは勿体ない。それにアイリス嬢は領地経営を出来ないのであろう。代官として、そなたが治めよ」
「し、しかし！」
「カイル・ヴァルファスは公爵家の跡取りである。引き継ぎをしただけで治められるものではない。双方の領地を同時になど」
「………………」
「それが出来るだけでも、そなたの修めたものは無駄ではない。アルバ・クリムゾン。もう暫く生きてみよ。そなたの人生、苦しみだけで終わって良い筈がない。そなたもまた虐待の被害者でもある」
「っ！っ！……っ！……………も、勿体なき…御言葉、です。国王様」
「…………うむ」

アルバは俯き、声をあげることなく泣いた。
溢れ出す涙を止められなかった。
立っていることも出来ず、膝をついた。

そんなアルバに駆け寄ったのはオリバーとナタリーにランドロールだった。

彼らは触れていたから、アルバの心に、苦しみに、嘆きに、叫びに。