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第一章
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「真ですよ。ですが、それが何だと言うのです?」
「「「「なっ?!」」」」
アルバは自嘲気味に言った。
そして、アルバの言葉はその場の全員が驚いた。
アルバはカイルや証人たちを見た。
その目は黒く濁っていた。
「カイル・ヴァルファス公爵令息、何事も貴方の予想通りではないですよ。片方だけを見ていては見落としがありますよ」
「…………」
「誰にも分かるはずがない。あの家で私がどれ程無価値だったか、どれ程苦しかったか、どれ程屈辱だったか、どれ程…………存在を否定されていたか」
「「「……………」」」
「私の旧姓はクリムゾン……アルバ・クリムゾン。クリムゾン伯爵家の嫡男だった」
ざわめきがおきた。
誰もがアルバ・ナーシェル子爵はナーシェル子爵家の人間だと思っていた。
国王でさえ、忘れていた。
いや、忘れていても仕方ない。
アルバは17年前にナーシェル子爵に婿入りしたのだ。
「カイル・ヴァルファス公爵令息。貴方の言うクリムゾン伯爵は私の実の弟ですよ。この世で最も憎い男です」
「…………」
「私は両親から厳しく育てられました。それは次期伯爵家を継ぐ者であるからだと…………そう思い込まなければ、死にたくなる程に」
アルバはただ下を向いて語った。
自身の『罪』を、『思い』を、『後悔』を。
誰にも知られていない、誰にも言えなかったアルバの人生を。
「弟は甘やかされているわけではないが、愛されていた。両親にも、使用人にも、領民にも。誰にでも好かれる。けれど、私は誰にも存在を認められることはなかった」
「…………いいえ、大旦那様も大奥様も」
「愛していたと言うのか?あれが!あの仕打ちが!お前たちだってそうだ!私の頼みなど聞きもしなかったではないか!!三回に一回でも聞けばいい方だった!!だから、私はなんでも自分でしなくてはならなかった!!!それが伯爵家嫡男の姿か?!!!」
アルバの言葉に証人たちは否を言おうとした。
ただ、彼らにも思い当たる事があったから、強くは言えなかった。
しかし、それはアルバの心を逆撫でした。
アルバは今までの蓋をしていたものが、抑え込めていたものが、溢れだした。
「弟の妻となったマリア・クリムゾンはサマンサの異母妹でした。私がこの世で唯一好いた相手でした。そして、アイリスはそんな弟とマリアの間に出来た子です。クリムゾン伯爵家の正統な後継者ですよ…………全てを語りましょう、長くなりますが」
アルバはただ静かに話し始めた。
長い間、内に秘めていた全てを。
==========================
R3.2.27
一部足らずでしたので、つけ直しました。
「「「「なっ?!」」」」
アルバは自嘲気味に言った。
そして、アルバの言葉はその場の全員が驚いた。
アルバはカイルや証人たちを見た。
その目は黒く濁っていた。
「カイル・ヴァルファス公爵令息、何事も貴方の予想通りではないですよ。片方だけを見ていては見落としがありますよ」
「…………」
「誰にも分かるはずがない。あの家で私がどれ程無価値だったか、どれ程苦しかったか、どれ程屈辱だったか、どれ程…………存在を否定されていたか」
「「「……………」」」
「私の旧姓はクリムゾン……アルバ・クリムゾン。クリムゾン伯爵家の嫡男だった」
ざわめきがおきた。
誰もがアルバ・ナーシェル子爵はナーシェル子爵家の人間だと思っていた。
国王でさえ、忘れていた。
いや、忘れていても仕方ない。
アルバは17年前にナーシェル子爵に婿入りしたのだ。
「カイル・ヴァルファス公爵令息。貴方の言うクリムゾン伯爵は私の実の弟ですよ。この世で最も憎い男です」
「…………」
「私は両親から厳しく育てられました。それは次期伯爵家を継ぐ者であるからだと…………そう思い込まなければ、死にたくなる程に」
アルバはただ下を向いて語った。
自身の『罪』を、『思い』を、『後悔』を。
誰にも知られていない、誰にも言えなかったアルバの人生を。
「弟は甘やかされているわけではないが、愛されていた。両親にも、使用人にも、領民にも。誰にでも好かれる。けれど、私は誰にも存在を認められることはなかった」
「…………いいえ、大旦那様も大奥様も」
「愛していたと言うのか?あれが!あの仕打ちが!お前たちだってそうだ!私の頼みなど聞きもしなかったではないか!!三回に一回でも聞けばいい方だった!!だから、私はなんでも自分でしなくてはならなかった!!!それが伯爵家嫡男の姿か?!!!」
アルバの言葉に証人たちは否を言おうとした。
ただ、彼らにも思い当たる事があったから、強くは言えなかった。
しかし、それはアルバの心を逆撫でした。
アルバは今までの蓋をしていたものが、抑え込めていたものが、溢れだした。
「弟の妻となったマリア・クリムゾンはサマンサの異母妹でした。私がこの世で唯一好いた相手でした。そして、アイリスはそんな弟とマリアの間に出来た子です。クリムゾン伯爵家の正統な後継者ですよ…………全てを語りましょう、長くなりますが」
アルバはただ静かに話し始めた。
長い間、内に秘めていた全てを。
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R3.2.27
一部足らずでしたので、つけ直しました。
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