妹の身代わりとされた姉は向かった先で大切にされる

第一章

３０

「ワシは今、アルバ・ナーシェル子爵に聞いておるのだ。ナーシェル子爵夫人と令嬢は少し黙ってもらおう」
「「っ！も、申し訳ありません」」

サマンサ夫人とアイリーンは国王に注意され、黙るしかなかった。
二人にはこれ以上不利なことにならないように祈るしかなかった。

「続きを。アルバ・ナーシェル子爵」
「はい。真実はパーティー等の席の日にアイリスが病気であったこと。偽りはそれは人為的であったことです」
「人為的だと？」
「はい。アイリスは……偶然か、作為的かは分かりませんが……パーティー等の日に寝込むことが多かったです」
「何故、偶然か、作為的か分からぬのだ」
「私自身はほとんどアイリスと関わらないようにしていましたので」
「ふむ」

アルバは隠すことなく、自身がアイリスとの関わりを持たなかったことを話した。
サマンサ夫人とアイリーンはアルバが何もかも素直に話してしまうことに愕然としていた。

それに驚いたのはヴァルファス公爵家もだった。
ヴァルファス公爵家はアルバは何がなんでも隠そうとすると思っていた。

アルバが言ったように、アイリスとの縁を切ればヴァルファス公爵家との縁も切れ、恩恵も受けれなくなるからだ。
それを逃す筈がないと思っていたのだ。
国王はアルバ目を見ていた。
曇りがない目を、全てを悟った目を。

「では、アイリス嬢の状態報告を再度してもらおう」
「はい。アイリス様の診断は私、ターニャがいたしました」
「うむ」

国王に言われ、ターニャ女医は前回の簡易裁判でも説明したことを再度説明した。

「アイリス様は『栄養失調』、『脱水状態』、『成長阻害』、『火傷』、『切り傷』、『鞭を撃たれたと思われるみみず腫』、『打撲』、『適切な治療を受けていなかったためと思われる骨折からの変形』、『新しい骨折』、『細菌感染による炎症』が診られました。私はむしろよく生きておられたと驚き、尚且つ自ら動かれていたなど到底考えられるものではありませんでした」

ターニャ女医から聞かされるアイリスの状態にその場の全員が痛ましい表情になった。
前回と違うのはアルバだけが後悔に苛まれていることだ。
サマンサ夫人とアイリーンは相変わらず、屈辱そうであった。

「それで治療ですが、アイリス嬢は眠られておりその間に『火傷』、『切り傷』、『打撲』、『みみず腫』、『新しい骨折』は私の魔法治療ですぐに治りました。『骨折による変形』は一度その変形部を【壊し】、適切な形に治す必要がありました。ですが、一度【壊す】ので強い痛みを伴います。舌を噛まないように申し訳ないのですが布を噛んで貰いました」
「治療の一環ということだな」
「はい。私は先程説明した通りの治療をしました。しかし、アイリス嬢は眠り続けました。そこから予想されるのは痛みが生活の一部になっており、アイリス嬢はもっと強い痛みが常にあったのではと、私の治療の痛みでは【痛み】と言えない程に。そして、最後に『炎症』を治し、後は『栄養失調』と『脱水状態』に『成長阻害』ですが、こちらはヴァルファス公爵家に通い、眠られている間は栄養剤と水分を点滴で、起きられてからはゆっくりと状態を見ながら通常の食事に戻るように段階を分けて食事形態を変えていきました。現在はだいぶ回復傾向にあります」
「ふむ。そうであるか」

ターニャ女医が説明し終わると国王は頷いた。

カイルはアイリスを見ると不思議そうな顔をしていた。
たぶん、話が長くてアイリスには難しかったようだ。

だからこそ、アイリスはツラいと感じていなかった。