上 下
29 / 69
第一章

26

しおりを挟む
一方のヴァルファス公爵家では使用人たちが仕事終わりの団欒を楽しんでいた。

「アイリス様、だいぶお元気になられたわね」
「本当に。最初来たときはビックリしたけど」
「「「確かに」」」

最近の使用人たちの話はアイリスが主だ。
それは喜ばしい話が多いからだろう。

「ついに、王前裁判になったそうね」
「ええ。早く罰せられたらいいのに!」
「「「そうよ!そうよ!」」」

アイリスのことでは全員が怒っていた。

ターニャ女医より生まれ直しの状態であると診断を受けてから使用人たちも含めて全員が幼子に接するように接している。
アイリスが愛情をしっかりと感じれるように。

本来、成長過程でその接し方は変わってくる。
それをやり直しているのだ。
今のアイリスの年齢通りの接し方をするには精神状態まで幼く、アイリスが愛情を理解できない可能性があるからだ。

現在のアイリスには『溺愛』ぐらいの愛情のかけ方が必要だろうと全員が判断したのだ。

「何だが、見たことないんだけど、本当だったらアイリス様は幼い頃あんな感じに笑っていたのかもって思うと本当に天使にしか思えなくて」
「「「分かる!」」」
「つい、頭の中が幼い感じのアイリス様に変換されているのよね」
「「「ねぇ~」」」

使用人たち、特にアイリスの側に控える侍女たちはそれが顕著に現れている。
全員の中でアイリスはカイルの『番』、『お嫁さん』という認識より護るべき、仕えるべき存在という認識が強くなってきている。

勿論、カイルの『番』で『お嫁さん』なのだから問題はない。
それを抜きにしても護るべき、仕えるべき存在という感覚になっているだけだ。

「でも、不思議なのよね」
「何が?」
「アイリス様の生まれ直しよ。ターニャ女医が言うには完全に『赤ん坊』からではなくて『三歳児』からだって」
「三歳までは愛情を知っていたってこと?そしたらなんであんな状態になるのよ」
「私だって分からないわよ!でも、もしかしたら」
「「「もしかしたら?」」」
「アイリス様には何か秘密があるのかも」
「「「ううーん」」」

使用人たちは頭に疑問符を並べていた。
しかし、いくら考えても分かるものではない。

現在、使用人たちが受け持つのは日々の屋敷での仕事をこなしながら、アイリスの変化を見逃さず、使用人たちなりに愛情をもって接し、仕え、護ることである。

「とりあえず、もう遅くなってきたから話はここまでにして休みましょう!」
「そうね。明日もお仕事頑張らないと!」
「アイリス様を見守り、お世話させていただくの!」
「頑張りましょう!」
「「「おおーー!!」」」

使用人たちの決意も新たに皆、自室に戻っていった。

全ては王前裁判で明らかになる。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

【完結】番が見つかった恋人に今日も溺愛されてますっ…何故っ!?

ハリエニシダ・レン
恋愛
大好きな恋人に番が見つかった。 当然のごとく別れて、彼は私の事など綺麗さっぱり忘れて番といちゃいちゃ幸せに暮らし始める…… と思っていたのに…!?? 狼獣人×ウサギ獣人。 ※安心のR15仕様。 ----- 主人公サイドは切なくないのですが、番サイドがちょっと切なくなりました。予定外!

美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。

天災
恋愛
 美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。  とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...