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第一章

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裁判所から戻ったナーシェル子爵家は荒れていた。

アルバは王前裁判になったことで執事を呼び、一緒にアイリスの今までの環境を確認しに向かった。
今後の対策のためだ。
サマンサ夫人とアイリーンはいろんな物にあたっていた。

「なんで!?なんで、あんな女のために!!!」
「まったくです!何故私たちがこんな侮辱を受けないといけないのです!」
「「「…………………」」」

使用人たちはサマンサ夫人やアイリーンの視界に入らないように気を付けた。
もし、視界に入ってしまったらあたられるのが分かっているからだ。

花瓶を投げたり、机を叩いたり、カーテンを破いたりと様々だ。
使用人たちは嵐が過ぎるのを待っているが、この後の片付けを思うと余計にげんなりしている。

一方のアルバは執事と対面していた。

「ご当主様、裁判は如何様に?」
「判決は出てない」
「それでは…」
「王前裁判に移行した」
「っっ!!?」

執事は驚きが隠せず、目を見開いていた。
アルバは机に両肘をつき、手を組み、その上に額をのせている。
深い、深いため息がアルバから出た。

「正直に申せ。あれは今までどのような生活をしていた?」
「どのような、と言われましても……」

執事は返答に困った。
どう考えても良かったことなどないのだ。
当家の令嬢という待遇ではなかった。
いや、それ以前に人としての待遇でもない。
それを正直に言えばクビが飛ぶのは間違いない。
それに次の奉公先も見つからないことは必須だ。

「事実確認だ。この返答でお前たちを罰することはない」
「分かりました」

執事はアルバの言質を取ったことで渋々説明することにした。
もっとも、命令になれば絶対に答えなくてはならない。

「あの方は使用人棟の物置で寝起きしていました」
「…………」
「この屋敷で一番立場が低く、ほとんど全ての雑用を行っていました」
「…………」
「朝は誰よりも早く起き、夜は誰よりも遅く眠ります。仕事の内容は奥様やアイリーンお嬢様の湯浴みの準備、食事の下拵え、食後の食器洗い、使用人棟の洗濯、掃除、シーツ交換…」
「使用人棟?」

アルバは首を傾げた。
普通であれば屋敷の清掃等を行うはずだからだ。

「ご当主様たちがあの方の洗濯した物など有り得ないと申されましたので」
「そ、そうだったな」

執事の言葉に確かにそんなことを昔、口にした記憶があった。
アルバは少しばつが悪そうにしながら、執事に続きを促した。

「来客の目につかない場所の草むしり、倉庫の清掃です。時折、奥様やアイリーンお嬢様によって仕事を言い付けられていました。他の使用人たちからも仕事を押し付けられていました」
「……………」
「あの方は出来ても出来なくても『躾』をされていました」
「『躾』だと?内容は?誰にだ?」
「『躾』は私とご当主様以外の全ての者にです。奥様やアイリーンお嬢様がされており、使用人がしてもお叱りがなかったため、今更に思いますが助長しました。私は止めることも自ら行うことも好みませんでしたのでしませんでした」
「…………」
「内容は叱責、食事抜き、平手打ち、素手での殴り、蹴り、鞭打ち、水責め、熱した物を押し付ける、鈍器などで殴る、全裸での裏庭に立たせたり、木に縛り付けたりなどです」
「っっ!!?」

アルバは絶句した。
自身が考えていたよりも過剰で過酷な『躾』の内容に。
これでは『仕置き』だと言い張れるものではなかった。

「あの方の持ち物は壊れかけのコップや使い古されギリギリワンピースの形をとっていた服が数着、下着代わりの布だけでした」
「…………これら全てを向こうは把握しているということか」

アルバはやっとアイリスの子爵家での状況を理解した。



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R3.2.22

一部修正しました。
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