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第一章

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裁判所から戻ってカイルは湯浴みに向かった。
リリーシアへの報告はルドルフに任せて。

湯浴みでもして気分を変えないとアイリスを怖がられてしまう可能性があったし、何より怒りが抜けきらない状態でアイリスのもとに向かえば怯えさせてしまう可能性が強い。

カイルに一番心を開いているのにそれを閉ざしてしまうのではないかとカイルは不安になったのだ。

***

カイルは湯浴みをして気分も体もスッキリさせてからアイリスのもとに向かった。
アイリスは部屋のソファーに座っていた。

「ただいま、アイリス」
「お、かえり、なさ、い」
「今日は本を読んでいたのかい?」
「はい」

アイリスは微笑んだ。

アイリスが読んでいたのは自身ではあまり移動が出来ないアイリスが退屈ではないかと心配したカイルが購入した本たちだ。

勿論、今までアイリスは本を読んだことも、読み書きを習ったこともない。
それを理解しているカイルは子供向けの本を用意した。
それも女の子が喜ぶようなお姫様の話を中心に。

これらはアイリスが読み書きを覚えるための物でもある。
勉学でも何でも楽しくなければ続かない。
カイルは何も知らなかったアイリスに学ぶ楽しさを知って欲しかったのだ。
そして、アイリスはリリーシアや侍女たちに教えて貰いながら読み書きを学んでいった。
それによりつまりながらでも、短い言葉だったとしても自らの言葉で・・・・・・喋れるようになってきている。

「はい」
「今日はこれを読んでいたのかい?」
「ふるふる……じーっ」
「ん?ああ、これを読んだらいいのかい?」
「こくん」
「いいよ。むかし、むかし、ある国にとても立派な王様がいました。王様には可愛いお姫様がいました…………」

カイルはアイリスから渡された本とアイリスの反応を見てこの本を読み聞かせてほしいのだとわかった。
カイルはアイリスに本が見えるように広げ、ゆっくりとしたペースで読み聞かせをした。

カイルが本を読み、ページをめくる毎にアイリスは微笑んだり、悲しそうにしたりと表情は変化していった。

カイルはそれを見て優しく微笑んだ。
今のアイリスは産まれ直したような状態だ。

小さな女の子が絵本で心を動かされ、百面相するのと同じだ。
カイルが購入した絵本はアイリスの心を動かした。

しかし、これが正常な状態ではない。
アイリスは年頃の女性だ。
本来なら絵本は卒業し、様々な本を一人で読み、マナーや様々な学問を身に付け、ドレスや宝飾品等に興味を持っている年頃なのだ。
現在の状態は正常な成長が出来なかった反動ともいえる。

「……お姫様は王子様と幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
「パチパチ」
「ふふふ、お姫様が幸せになってよかったね」
「こくん!」
「可愛いアイリス、君は私のお姫様だよ」
「…じー。おう、じ、さま?」
「ふふふ、そうだね。私はアイリスの王子様だよ」
「はい!」

カイルの言葉にアイリスは微笑んだ。
カイルにとってアイリスは愛しく、可愛いお姫様そのものだ。
アイリスにとってもカイルは格好いい王子様だ。

絵本を通じて感情が豊かになっていくアイリスはヴァルファス公爵家の癒しになっている。

(((((((アイリス様、本当に天使!)))))))




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